黒田尚子さん(黒田尚子FP事務所代表)

独立系のファイナンシャルプランナーとして活躍する黒田尚子さんが、乳がんの告知を受けたのは2009年12月のことでした。治療を終え、現在は「メディカルファイナンス」をテーマに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も精力的に行っている黒田さんに、がんとお金の関係についてうかがいました。がんに必要なお金や保険について私たちはどのように考えていけばいいのでしょう。がんを乗り越えてこられたファイナンシャルプランナーならではの具体的な指摘やアドバイスは必読です。

■がん治療に「かかる費用」と「かける費用」

がんの治療にはいったいどのぐらいの費用がかかるのか。
こう尋ねられたとき、がん経験者やその家族以外の多くの人がイメージするのは、治療費、入院費用、手術代、薬代、抗がん剤やホルモン治療の費用などではないでしょうか。
しかし、現実には予想もしない出費がかさんでいくと黒田さんは指摘します。

「がんの治療には3種類の費用が発生します。1つ目は医療費。治療そのものにかかる費用ですね。2番目は医療費以外で病院に支払う費用。差額ベッド代や保険会社に請求するための診断書の費用などが該当します。3番目が、治療を続けていくためにかかるもろもろの費用です。1が、がん治療に『かかる費用』だとすれば、2と3はがん治療に『かける費用』。がんになったことがない方は『かかる費用』について予想できても、『かける費用』についてはあまり想像できないかもしれません。でも、この『かける費用』が意外にかさむんですよ」

通院にかかる交通費、治療の副作用で脱毛した際に着用するウィッグ代、家事や子どもの世話ができなくなるために発生するベビーシッター代や家事の外注費、外食費。いざ治療が始まると、がんになる前には予想もしなかった出費が続く。それががんとの闘いの日々なのです。

■家計にボディブローのように響く、治療費以外の費用

QOL(生活の質)を維持するための費用も欠かせません。

「男性の場合、QOL向上のためにお金をかけるという方は少なくて、せいぜい食事に気をつけたり、人間ドックに行く程度ですが、女性は漢方やアロマを使ったりと、QOLには熱心です。がんに罹患した後は再発防止の観点などから医師に『太らないように』と指導されることも多く、肥満防止のためにヨガやジムに熱心に通う人も少なくありません。食事に気をつけて有機野菜を買うようになったので、食費がかさんで困るという方、健康食品やサプリを飲み続けている方もたくさんいます。

がんの経験者に聞くと、みなさん『2と3のお金がこんなにかかるとは思っていなかった』と言うんですよ。ほかにも、個々の患者のがんのタイプや最適で効果的な治療法を、いわゆる公的保険適用外の遺伝子検査などで調べることもあります。診断時に一時金が出れば、こうした諸々の支出に充てられるので助かりそうです」

がんには他の病気とまったく違う点があります。それは再発・転移の可能性があるということ。患者は常にこの可能性を意識して、がんと共に生きていかねばなりません。再発防止のための運動、健康的な食事にかかる費用はある意味、必要経費なのです。

しかし、これらの費用は明細が残る医療費と違って家計の中に埋没してしまいがち。がん治療に「かける費用」は、気がつかないうちに徐々にボディブローのように家計にダメージを与えていきます。

■金銭的な不安が心身に影響を与える

がん治療でつらいのは、出費がかさむことだけではありません。収入が大きくダウンしてしまうケースも多いといいます。

「告知のショックで、治療が始まる前に仕事を辞めてしまう方もいます。治療が進むうちにお金が意外にかかることや、治療期間が長引くことがわかって、『仕事を辞めなければよかった』『これくらいなら働けたかも』と後悔する方が多いんですよ。

たとえば、パートで働く女性の場合、その収入を住宅ローンや子どもの教育費の支払いに充てているケースが大半です。一家の大黒柱ではないとはいえ、パート収入の年間100万円がいきなりなくなるのは家計には大きな痛手です。何か補填する手立てを考えないまま、安易に仕事を辞めてしまうと大変です。

医療費などの一時的な支出よりも、実は継続的な収入減少の方がライフプランにとっては非常に怖い。そういうときに保険で定期的な金銭的サポートを受けられるといいですね。がんになって心が折れてしまったときでも、金銭的に補填するものがあるのとないのとでは気の持ちようがまったく違ってくると思いますから」

■がんについてもっと知ろう

がん患者の悩みは尽きません。病気自体に関する悩みもあれば、再発への不安などメンタルの悩みも伴います。

社会的・経済的な悩みもつきものです。思うように働けず収入が減る、仕事をやめて収入がゼロになるなど、先立つものがなくなれば精神的にも不安定になることは避けられません。そうなれば治療にも影響が出る可能性もあります。

「でも、多くの方はがんになったら経済的にどう困るのかについて具体的にわかっていません。こんなにお金がかかるとわかっていたらもっと備えておけばよかったと後悔する人があまりに多いので、私はいま口を酸っぱくして、予防や検診、治療、保険のことも含めて、がんについてもっと知って欲しいと言い続けています。

2人に1人ががんになる時代。がんについて正しい知識を持った上で、あえて保険に入らないというのもひとつの選択ですが、大事なのはエビデンス(科学的根拠)のある情報を知っておくこと。保険について言えば、そもそもなぜがん保険に入るのか、自分にはどんな保険が必要なのかというところから考えてほしいと思いますね」

100%万全を期すことはできませんが、正しい知識を持った上で、先々の不安が少なくなるようベターな選択なら可能なはず。2人に1人ががんになる時代には、事前防衛が必須です。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)
1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子

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