がん告知を経て、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴えているファイナンシャルプランナーの黒田尚子さん。がんになったらどれだけの費用が必要なの? がんに備えて保険はどのように選べばいいの? 黒田さんならではのリアルで具体的な、実のあるアドバイスをお届けします。万が一、ご自身や身近な人ががんになったとき、ぜひ読み返していただきたい内容です。

●「がん治療、『かかる費用』と『かける費用』とは?──FP・黒田尚子さん」はこちら

■1. がんになると予想外の出費がかさむ

がんは、告知前に疑いがあるとされた時点からがんとの共生が始まります。治療前後からさまざまな費用が発生しますが、その中身は3種類に分けられます。

 1. 医療費
 2. 病院に支払う医療費以外の費用
 3. 1、2以外のもろもろの費用

1の医療費は、がんの治療のためにかかる費用。検査・手術費用、抗がん剤やホルモン治療、薬代などが該当します。「がん」と聞いたときに誰もがイメージしやすい支出です。

2は1以外で病院に支払う費用のこと。具体的には、公的保険適用外となる差額ベッド代や、保険会社に給付金を請求するための診断書作成費用を指します。また、先進医療や国内未承認の抗がん剤治療を使った自由診療なども、ここに含まれます。

そして意外にかかるのが、3の費用です。例えば通院に必要な交通費。治療中体力が落ちてしまうと、歩くのも電車に乗るのもつらく、また免疫力も落ちているため、人混みを避けてタクシーを使うことがあります。ほかにも、抗がん剤治療の副作用で脱毛してしまう時期に着用するウィッグ、乳がん患者方の補正用下着や、術後のリンパ浮腫によるむくみを改善する弾性ストッキングや弾性スリーブといった費用から、体がつらいときの家事や育児、介護を軽減するための外注費、QOLを向上するための食費やアロマ、健康食品やサプリまで、さらには再発防止のためのジムやヨガに通うとすれば、その費用も含まれます。

事前にはイメージしづらく、治療生活が長期になればなるほどじわじわと家計を圧迫していくのが3の費用。がんになったら予想外の出費の覚悟が必要です。

■2. いまあるモノで代用も──かしこく節約を

黒田尚子さん(黒田尚子FP事務所代表)

QOL(生活の質)を維持したいがん患者向けに便利で機能的なさまざまなグッズやツールが開発されていますが、なかには値段がはるものも。いまあるモノで代用できるケースも少なくありませんので、可能なアイデアはできるだけ取り入れるようにしてはいかがでしょう。少しの節約でも、「塵も積もれば山となる」です。

例えば、医療用のウィッグは高価なので、思い切ってフリマアプリなどで、おしゃれウイッグを調達し、通気性を良くするために中にガーゼを入れて使うという方法もあります。

また、乳がん患者がシリコンインプラントで乳房再建をした場合、いわゆる‘寄せて・上げて’ができなくなるため、既存のワイヤー入りブラジャーは使えません。でも、罹患前に購入したワイヤー入りブラジャーを全部捨てるのももったいないですよね。そこでお手持ちのブラジャーのワイヤーを抜いて使ってみましょう。これ、実は私ががんになったとき、先輩のがん患者さんから教えていただいた方法なんです。聞いた時は目からウロコでした。

副作用で肌が敏感になっても、患者向けの高価な専用ファンデーションやローションを使わず、既製品で代用できるケースもあります。無理は禁物ですが、「これでなければだめ」と頑なに考えず、柔軟な発想でちょっとした節約を心がけてください。

■3. がん保険は自分のリスクにあった商品を選ぼう

がんになったときの経済的な備えとして、まずベースになるのは公的保障。その上に預貯金があり、さらのその上にがん保険や医療保険があります。がん保険は多様化し、各社からたくさんの商品が発売されているため、目移りしがちですが、大事なのはそもそもなぜ自分にとってがん保険が必要なのを考えること。原点に立ち返ってみましょう。

自分ががんになったときのリスクがどれくらいなのか、子どもや扶養者・要介護者の有無、子どもの年齢、家族構成、住宅ローンの有無や支払い状況、専業主婦なのか共働きなのか、収入や預貯金といった項目をすべて洗い出すことです。これらの材料を鑑みて、がんになっても経済的にそう困らないようであればシンプルな最低保証のある一時金タイプ、公的保障が薄く、預貯金もない場合は、治療が高額あるいは長期化しても対応できるようフルスペックの保険をお勧めします。

がんは、早期で発見し、適切な治療を受けられれば、今や完治する病気です。そして、早期発見によって再発リスクも抑えられることがわかっています。ですから、がん保険を検討するときには、日々の生活や運動、健康状態についてもチェックが欠かせません。

喫煙者で、日頃から運動不足でメタボ気味、健康診断やがん検診もろくに受けていないという生活であれば、がんが進行した状態で見つかり、再発や転移の可能性も高くなることは否定できません。その場合は、フルスペックのサポートがある保険がいいでしょう。その逆に人間ドックを毎年欠かさず、健康的な生活を送っているようであれば、早期に発見できる可能性が高く、がんの治療が長引く可能性は低いかもしれませんよね。まさに自分自身のカラダと向き合った上で、保険を選ぶわけです。

がん治療は日進月歩。それにともない、スマホやパソコンと同じように、保険商品のスペックもどんどん変化しています。大事なのは「商品ありき」ではなく、自分のリスクや健康に対する考え方や価値観がなんなのかを把握したうえで保険商品を選ぶこと。吟味して加入することが大切です。

■4. 保険でおりた給付金を一気に使うのはリスク大

がん保険でまとまった一時金が受け取れると、「自分にご褒美をあげたい」という気分になり、旅行に出かけたり、高額なバッグや時計を買ったり、がんの治療費以外の使い方をする人がいます。

もちろん、受け取った給付金は、どんなものでも使えます。しかし、給付金の使いみちはじっくりと考えた方が賢明です。治療はときには長期におよびます。がんが再発すれば、また治療は始まり、がんとともに生きていかねばなりません。

また、この先、就業不能になる可能性もあります。復職できなかった、収入が大幅に減った、ゼロになった。そんな事態も踏まえて、給付金の使いみちは熟慮したいもの。金銭的な不安は、メンタルにも治療にも支障を与えます。

国立がんセンターの調査によれば、がん患者全体の5年後の相対生存率は69.4%、10年後の相対生存率は58.5%。乳がんや肺がんは10年間経過を見る必要があります。がん患者の就労等に関する実態調査でも、がん罹患後、個人の収入が減った方は56.8%。世帯の収入が減った方は45.0%にのぼり、一度減少した収入を罹患前に戻すのには時間も努力も必要です。そのため、一時金や給付金は、再発・転移に備え、がんで生活が困難になった場合に確保しておくことも考えましょう。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)
1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子

Powered by ライフネット生命保険

人生と仕事とお金について考えるメディアライフネットジャーナル オンライン 公式Facebook