写真左:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)、右:落合陽一さん(筑波大学助教、デジタルネイチャー研究室主宰、コンピュータ研究者、メディアアーティスト)

ライフネット生命が作成した動画「202×年 空想保険」。テクノロジーの進歩が生命保険とお客さまのつながりを、どのように便利に変えていくのか。ライフネット生命の社員たちが自ら考え、2020年代の近未来の生命保険のサービスを空想し映像として形にしてみた短編動画です。

(「ライフネット生命はなぜ、この動画を空想したのか?」はこちらの記事をご覧ください。)

テクノロジーの活用によって、社会を変えようとしているイノベーターは、この動画をどのように感じて、テクノロジーの進歩をどのように考えているのか?

前回の高校生プログラマー山内奏人さんに次いで、今回はメディアアーティストで筑波大学 学長補佐・助教の落合陽一さんが登場。この動画が描いた未来像について、当社社長の岩瀬大輔とディスカッションしていただきました。

■保険会社が遠隔診療の重要なプレーヤーに?

岩瀬:落合さんはこの動画を観て、どのように感じましたか?

落合:最近よく考えているのが、電子化された診療システムのインターフェイスをどこが作るのかってことなんです。診察料が安いとか、どこの病院のベッドが空いているのかとか、そういった情報を統合してくれるものです。この動画にもありましたが、保険会社がこのインターフェイスを作るという選択肢もあるかもしれないと思いました。

“空想保険”動画より、遠隔診療のシーン

岩瀬:医療版のUberみたいなものですね。しかし、なぜAmazonのような巨大なプラットフォーマーではなく、生命保険会社だとお考えなのでしょうか?

落合:リアルに医師と患者をどのようにつなぐのかはローカルの問題ですよね。それをグローバルなIT企業がやる必要はないし、やるメリットも少ない。日本のローカルな病院のハブになる機能を果たすのは、日本のローカルな企業がやるのが一番いいと思うんです。本業との親和性を考えると、その役割を保険会社が担う可能性はかなりあるのではないでしょうか。

あと動画で描かれているものでは、予防医療ですね。病気にならないように予防しましょうって話と、生命保険は相性がいい。お互いにWin-Winなので、それをどうやって実現して、保険の付加価値にしていくかってことを考えるとおもしろい。

岩瀬:ただ、そこには態度変容の問題があると思っています。例えば、お客さんに「健康になるために走りましょう」と言ってもなかなか動かないんですよ。一方で、最近、歩くとポイントが貯まるというアプリがあるようで、それがとても使われているんですよ。

関係者から聞いたんですが、とにかくシンプルにしないとユーザーに受入れてもらえないから、彼らはアプリにGPS機能もなくして、本当にただ万歩計にして、その歩数に応じてポイントがもらえるようにしたら一気に使われるようになったと。「日本人は健康促進よりも、ポイントのほうがモチベーションが高い」と言っていて、それがすごくおもしろかった。

落合さんにお聞きしたいのは、わたしも予防医療と保険の組み合わせはお客さまにとっても我々にとってもWin-Winだと思います。どうしたら予防医療を流行らせることができると思いますか?

落合:保険の契約者が一定の距離を歩いたら仮想通貨か飛行機のマイルのようなものをもらえるっていうのはダメなんですか?

岩瀬:興味深いですね。一方で、現行の保険業法だと、換金性のあるものを提供することは難しい面もあります。

落合:お金じゃなくても人を刺激するものをどう考えるかですね。それこそ、ライフネットダイエットを始めるとか。僕は最近疑問に思っているのですが、ダイエットなど体型について気にする人も、健康に関しては気にしないのはなんでだろうって。若い人だと健康を保つよりも、見た目を美しくするほうのマーケットが大きいじゃないですか。でも本来内側の健康と外側の健康は一致するはずで、見た目が良くなるのは健康になることとイコールですからね。そういうオフラインの方向性を訴求していくのはあり得るかもしれません。

■保険という商材の持つ可能性

落合:僕は保険という商材はおもしろいと思っています。というのも、そもそも生命保険は、10年、20年先を見据えて買うわけじゃないですか。そんな商材はほかに家のローンくらいしかないですよ。しかも生命保険には医療情報とかすごくパーソナルな情報が蓄積されるから、さっきのエクササイズとか、保険にいろんなものを紐付けていくことができ、ビジネスの広がりも大きい。

岩瀬:生命保険でもデータをもっと活用すれば、落合さんが言われたように、人生を通じて情報をもらって、給付金以外のものでお返ししていくってことがあり得るかもしれないですね。

落合:それでいうと、僕は何歳のときに世の中の人はこうしていましたよっていう情報を教えてほしいと思っていて。

岩瀬:35歳になったら大腸がん検診を受けましょう、とか。

落合:そうです。例えば、その歳では家を買う人が多い、でもいいです。でも、そういう情報はコミュニティでしかわからないし、あるいは平均化されたデータでしかわからない。本当に役立つのは、もっとパーソナルな情報なんです。それを匿名でシェアしてほしい。

例えば、大学教員で会社を経営している人というのは、年収どのくらいで、子どもは何人いて、家賃はいくらで、通勤は電車なのかクルマなのか。何十万、何百万もの個人情報を持っていたら、そういうものも匿名で提供できるじゃないですか。人間は他人と比べたい欲求があるので、そこを比較できるサービスがあれば、興味を持つ人はたくさんいると思うんです。

岩瀬:それは契約者コミュニティの活性化みたいな話?

落合:それより匿名だからこそ教えてもらえるロールモデルが知りたいんです。SNSだったら相手のことを知りすぎて客観化できないですから、匿名のままシェアしてほしい。

■「Appleを10年後も使い続けている自信がない」

岩瀬:すごくおもしろいと思う反面、生命保険会社に保険以外の情報やサービスの提供は難しいという意見もあります。それに対してはどう思います?

落合:遠隔診療のインターフェイスと同じで、明らかにそういうビジネスは必要とされていると思うんです。では、それをやるとしたらどこかってことを考えると、ひとつは公共性のあるもの。例えば、マイナンバーに紐付けて管理するのか。でも日本みたいな国だとうまく機能しないものになりそうですよね。

一方で私企業だったらどこか。AppleやAmazonみたいなプラットフォーマーか。しかしAppleやAmazonのアカウントにそこまでパーソナルな個人情報を預けるかって考えると、僕はAppleのスマホをあと10年後も使い続けている自信がないんです。そうなると、Appleのデータベースに置いておくのはリスクが高い。Amazonだって、10年後の日本ではアリババに負けている可能性もゼロじゃない。

岩瀬:つまり、テクノロジーのトレンドは移り変わるから、超長期で使い続けるかどうかわからない。

落合:超長期商材を扱っているところ以外に、まとまった個人情報は預けられないと思うんです。とすると、銀行か家のローンか生命保険のどれかになります。銀行には信用情報はあっても、細かい個人情報が蓄積されていくイメージはあまりない。反対に生命保険にはある。あるいは、そのデータ管理をうまくするようなベンチャー企業が出現して、そこに銀行や生命保険会社がお金を出しそうだなっていう漠然とした未来はイメージできるんです。

岩瀬:生命保険会社のほうがお客さまと長期の付き合いをしているから、データベースが蓄積されて、それが価値になっていくと。

落合:例えばビットコインまわりのサービスって、ベンチャー企業に銀行が出資していることが多い。(ビットコイン取引所の)ビットフライヤーもみずほ銀行が出資していますし。そんな感じで、個人情報を入れておく「お財布」をベンチャーが作り、そこをM&Aするなり、そこと提携するなりしていくのが、銀行か保険会社なんだろうなと思います。

岩瀬:その個人情報というのは健康情報のことですよね。健康情報を一箇所に集約することで、お客さまが受けるメリットは?

落合:例えば、銀行口座のように簡単にアクセスできる個人情報のお財布がネット上のデータベースとしてあって、その認証さえあれば、どこの病院でも同じカルテを呼び出せるようになれば、問診票も書かなくてよくなります。決済も自動引き落としになる。病院の診察や支払いが早く安くなる。そういうのはすごくビジネスとしていけるなって思います。

■未来の生命保険はもはや保険ではない?

岩瀬:落合さんがおっしゃったことを僕なりに受け取ると、生命保険は隣接分野が多いから、健康や生活にまつわる周辺のサービスを取り込んでいけば、まだまだ便利になるし、発展する可能性もある。いわば、生命保険会社に長期のデータ預かり人としての価値も出てくるわけですね。

落合:未来の生命保険に支払うお金は、名前こそ保険料ですけど、実際には別のもののために預けているということになるのかもしれません。つまり、個人情報の保守性が高いお財布を使い続ける対価としてお金を支払うという発想に変わっていくんじゃないかと思います。

そのとき生命保険は、もしものリスクに対処するために支払うものじゃなく、健康を維持するために必要なデジタルデータの保管料と利用料を支払うという印象になってくる。それによって生命保険の価値が上がったり、コスト感も変わっていく可能性があるということです。

岩瀬:ライフネット生命は8月に、「ダブルエール」という当社初のがん保険を発表しました。この商品を企画する際に我々が考えたのは、お金を渡して終わりという保険ではなく、がん患者の方の日々の生活のサポートができるようなサービスも合わせてご紹介していくということでした。これをサバイバーシップ支援サービスという名称にしています。落合さんの指摘を受けて、こうした保険以外のサービスも広げていくことが、保険の未来を考えるヒントになるのだとあらためて思いました。今日はありがとうございました。

<プロフィール>
落合陽一(おちあい・よういち)
筑波大学学長補佐、同大助教、デジタルネイチャー研究室主宰。ピクシーダストテクノロジーズ代表取締役社長。コンピュータ研究者、メディアアーティスト。「米ワールド・テクノロジー・アワード」(2015、ITハードウェア部門)や「欧アルスエレクトロニカ賞」(2016、インタラクティブアート)受賞。著書に『魔法の世紀』(Planets、2015年)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館、2016年)、『超AI時代の生存戦略 ―― シンギュラリティ<2040年代>に備える34のリスト』(大和書房、2017年)がある。

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン編集部
撮影/村上悦子

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