鈴木太郎さん(株式会社ユニバーサルビュー 代表取締役社長 CEO)

新しいタイプの近視矯正コンタクトレンズ、「オルソケラトロジーレンズ」を開発した株式会社ユニバーサルビューは、さらなる新製品の開発を進めています。多くの困難をともないながらイノベーションを起こす原動力はどこにあるのか。鈴木太郎社長にうかがいました。
(前編はこちら)

■販売にこぎつけるまで、創業から12年

──御社は2001年に創業されていますが、オルソケラトロジーレンズ(以下オルソ)の販売が始まったのは2012年です。それまではどのようなビジネスをされていたのでしょうか?

鈴木:「『見える』で世界にイノベーションを。」をミッションに掲げる当社はまず、近視に悩む人のためにオルソの普及を目指しました。しかし日本で医療機器を販売するには、厚生労働省の承認が必要です。そのための申請や臨床試験には億単位のお金がかかります。当社のような小さなベンチャーにそれだけの資金力はないので、創業当初はこちらで設計したオルソレンズのデザインをアメリカの認可工場に持ち込み、アメリカFDAの承認のもとレンズを作ってもらっていました。そしてそれを日本の眼科医師に個人輸入してもらうというビジネスをしていたのです。

輸入オルソを扱う眼科が70施設ほどになった2003~4年頃、医師の方々から「このレンズは非常に有効性が高いので、一刻も早く厚労省の認可を受けて、より信頼性の高い国内製品として販売してもらいたい」といった声が聞かれるようになりました。私がユニバーサルビューに参画したのもその頃です。

──鈴木さんがユニバーサルビューに合流したのはなぜですか?

鈴木:私はもともと三菱商事に10年勤めたのちに医療機器の輸入会社を立ち上げ、その後はヘルスケアの投資コンサルの仕事もしていました。その時に出会ったのがこのユニバーサルビューという会社です。医療ビジネスに携わる中で、オルソを知った私は「こんな治療方法があるのか!」と衝撃を受けました。これはきっと、子どもたちの夢を叶えるイノベーションになる。そう信じてこの会社に参画し、私が社長を務めることになりました。

──国内での製造に向けては、どういった困難がありましたか?

鈴木:まずはレンズ素材の確保です。子どもが使うことを考えると、健康面と安全面で安心できる素材を作ることのできるメーカーは、医療素材のプロフェッショナルである東レさんのほかにないと思いました。

しかしこれまで取引実績がなかったので、素材提供をお願いしても最初は断られてしまいました。ただそこで諦めてしまうと、多くの人に有益なオルソ事業そのものをたたまざるをえなかったので、何とか伝手をたどって当時の東レの副社長と面談する機会をいただきました。そして当社が東レさんから素材を買い、当社責任で臨床試験を行うことで話がまとまりました。

──東レの素材は、どういう点で優れていたのですか?

鈴木:瞳を健康に保つには、レンズの酸素透過性が重要になります。また安全面から、割れにくいことも条件になります。東レさんはこの2つの条件を備えた素材を持っているんです。

しかし素材を確保した後、すぐに次の壁にぶつかりました。先ほども言いましたように、臨床試験には億単位のお金がかかります。また臨床試験に臨む社内体制も、まだ整っていませんでした。

■リーマン・ショックによる資金繰り悪化が新たな展開を生む

──資金調達と組織づくりの2つの課題をどのように克服しましたか?

鈴木:一度に全額を調達することはできませんでしたが、臨床試験から厚労省の承認がおりるまでのマイルストーンを設定し、課題を一つ乗り越えるたびに追加融資をしてもらうという条件でベンチャーキャピタルから分割融資を受けられることになりました。途中、リーマン・ショックがあって資金繰りが困難になる時期があり、臨床試験を依頼した病院への支払いも滞ってしまいましたが、従業員の給与だけは確保しながら何とか会社を回していました。

一方で、山口県徳山市から東京に本社を移転し、新しい人材を入れて組織体制を整えたことで、臨床試験そのものはたくさんの苦労もありましたが、順調に進めることができました。そして臨床試験の結果を持って、東レさんに資本業務提携の可能性について相談をしたところ、「厚労省の承認が通れば、東レが総販売元としてオルソレンズを販売しますよ」ということになったのです。

これは当社にとっても有益なことでした。東レさんのような大企業のブランドを付けて販売すると決まったことで、ベンチャーキャピタルからの融資もスムーズに進みました。紆余曲折を経て2012年3月に承認がおり、販売がスタートしたというわけです。

■第2の“目玉”商品「ピンホールコンタクト」

──現在はそれ以外にも新製品の開発を行っているようですね。

間も無く市場にデビューする「ピンホールコンタクトレンズ」。度なしで近視にも遠視にも対応できる究極のマルチレンズは世界10数か国で特許を取得済み

鈴木:当社の2つ目の製品の開発を進めています。これは使い捨てのソフトコンタクトレンズと同じように使いますが、レンズに度が入っていません。小さな穴を通すと近くも遠くもよく見える「ピンホール原理」を利用して、その穴から景色や物を見てもらうというわけです。実用化されれば、世界初のピンホールコンタクトレンズとなります。

──どういった方に有効なレンズですか?

鈴木:近視だけでなく、遠視、乱視、老眼にも効果が期待できますが、ビジネスとしては老眼の方がターゲットになります。人間誰しもいつかは老眼になりますが、そのソリューションは今、老眼鏡しかありません。遠近両用のメガネやコンタクトレンズもありますが、1枚のレンズにいろんな度数が入っているので、上のほうを見ると下がぼやけてしまうなど、高い満足度が得られているとはいえません。また100種類以上ある中から選ばなくてはいけないので買う時に時間がかかりますし、売る側も在庫管理が大変です。

これから日本も世界も高齢化が進み、老眼に悩む人は確実に増えます。老眼に対する新しいソリューションが見つかれば、QOV(クオリティ・オブ・ビジョン=視覚の質)が向上し、生活もいきいきとしてくると思います。

──開発はどこまで進んでいますか?

鈴木:現在、臨床研究が始まるところで、製品化が近いところまで来ています。販売開始は2020年くらいになるでしょう。東京オリンピックという、世界に注目される年にピンホールコンタクトレンズを出せればいいな、と思っています。

──1枚で近視、乱視、老眼などに対応する「マルチなコンタクトレンズ」という印象ですが、デメリットはありますか?

鈴木:ピンホールの性質上、最初装着した際に多少視野が暗くなると感じる方もいます。ただその暗さにもだんだんと慣れてきて、多くの方はさほど気にならなくなると思います。黒ぶちメガネをかけた時に、最初は違和感があっても半日で気にならなくなっているのと同じです。

このレンズの長所は、老眼の方や既存のコンタクトレンズが合わない人に対して新しいソリューションを提供できる可能性があるということです。世界中でイノベーションを起こす可能性のある製品で、すでに10数か国で特許を取っています。

■ “見える”ことはイノベーションにつながる

──御社の製品が世界に広がっていくわけですね。

鈴木:「見える」ことのイノベーションを起こすための製品開発はこれからも続けていくつもりです。それは「視力を上げる」ということに限りません。今、中長期的に考えているのは、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)の仕組みを取り入れた「スマートコンタクトレンズ」の開発です。たとえばコンタクトに回路とセンサーを装備することで、患者さんの血糖値データを目の涙から取り入れて、患者さんの健康状態をモニタリングしたり、データを共有したりということが可能になります。

また、その人の行動から日常のリスクのデータもとれるようになれます。たとえば保険会社は今、年齢や病気の情報をもとに保険料を設定していますが、その人の行動ベースで金額が決まっていくようになるかもしれません。

──AR(Augmented Reality=拡張現実)も取り入れたレンズになりますか?

鈴木:そうですね。レンズに画像を映し出して心拍情報を表示させるといったこともできます。もちろん医療に限らず、ゲームなどのエンターテインメントや道案内などにも使えます。土台ができれば、それを活用してサービスを提供したいという会社が現れ、スマートコンタクトレンズは爆発的に普及していくと思います。

──御社のイノベーションはさまざまな業界に波及していきそうです。イノベーションを起こすために大切なことは何だと思いますか?

鈴木:「諦めない!」ということです。イノベーションを起こそうとしている時には、「こんなの受け入れられるわけないじゃん」「実現するわけないじゃん」と色眼鏡で見られがちですが、それでも「イノベーションを起こすんだ」という情熱を持って、とにかく諦めずにやり抜くことが大切です。

それと同時に、「みんなが求めているものは何か」ということを考え続けなくてはいけません。ライフネット生命さんも、既存の生命保険の販売方法ではなく、ネットというものを通じて親しみやすく、わかりやすく、そして安く提供するコンセプトが受け入れられて成長してきたと思います。我々も今までのコンタクトレンズ、今までの治療法ではなく、イノベーションを起こしながらみなさんが満足していただける製品を提供していきたい。役員、従業員の仲間とも想いを共有し、一つひとつ、形にしていきたいですね。

<プロフィール>
鈴木太郎(すずき・たろう)
1970年、東京都出身。1992年慶應義塾大学卒業、同年三菱商事株式会社に入社。2001年に同社退職後、医療機器輸入会社代表、投資コンサルティング会社パートナーを歴任。2006年、ユニバーサルビュー代表取締役社長就任、オルソケラトロジーレンズ開発事業に参画、開発に必要な資金調達および事業インキュベーションを実行し新規医療機器として薬事承認取得。現在はピンホールコンタクトレンズおよびスマートコンタクトレンズの実用化に向けて事業拡大に注力。
2016年4月 MEDTEC 2016 イノベーション大賞受賞。同年11月 日経トレンディ「夢がかなう商品120・健康&食部門」大賞受賞。
●オルソケラトロジー啓発サイト『オルソためそ』

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナルオンライン編集部
文/香川誠
撮影/村上悦子

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