写真左:柳沢正和さん(認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ/ドイツ証券株式会社 株式営業統括部ディレクター)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

ライフネット生命が「同性パートナーへの死亡保険金受取人の指定範囲の拡大」をスタートしてから、丸2年を迎えました。同社は、任意団体「work with Pride」が策定した企業や団体が性的マイノリティ(LGBT)の取り組みを評価する指標「PRIDE指標2016」において、最高評価である「ゴールド」を獲得。さらにLGBTに関する児童向けの書籍を公立図書館等へ寄贈する「レインボーフォトプロジェクト」という取り組みは、特に優れた事例として「ベストプラクティス」に選ばれました。

今回、ドイツ証券に勤めながらLGBT支援の認定NPO法人グッド・エイジング・エールズに所属し、自らもゲイと公表した柳沢正和氏とライフネット生命社長 岩瀬大輔が、LGBT当事者が自分らしく活躍できる社会を実現していく道筋について語り合いました。

■風向きが変わったのは、渋谷区の「パートナーシップ証明書」交付

岩瀬:柳沢さんはLGBTに関するさまざまな活動をされていますが、社会の空気が変わってきたなと感じたのは、いつでしたか。

柳沢:やはり、渋谷区が同性カップルに対して「パートナーシップ証明書」の発行を始めるというニュースが出た2014年あたりでしょうか。2015年4月1日に施行されてから、本格的に空気が変わったと感じました。

例えばメディアの取り上げ方も大きく変化しまして、従来は、どちらかというとアイデンティティの話として、「LGBTの方は理解が得られにくく、生きていくのは大変だ」という趣旨の記事でしたが、渋谷区の条例が施行されてからは、「実際に証明書を使うか」「どういう暮らしをしていきたいか」という、政治や経済に関する内容が多くなりました。

岩瀬:施行されてから2年が経過しましたが、24組のカップルが利用(全国では約130組前後が制度を利用)しているという事実について、柳沢さんはどのように受け止められていますか。

柳沢:僕は、シンプルにすごいなと思っています。証明書は、発行してもらっても、実質的なメリットはほとんどありません。そういう象徴的なものにお金を払い、わざわざ発行してもらったこの24組の方々は、パイオニアとして「後輩たちに道をつくっておきたい」という心意気にあふれていると感じました。

■「私はゲイです」とカミングアウトした時

岩瀬:柳沢さんは、ご自分がゲイであることを公表して活動されていますよね。ご自身のことをオープンにして活動をされたきっかけは何でしたか。

柳沢:2011年に男性向けファッション雑誌『GQ JAPAN』にインタビューされた時です。当時、GQの編集者である友人から、「今度セックス特集をやるんだけど、そこに同性カップルの話題も入れたい。でも、取材させてくれる人が見つからないから、お願いしたい」という依頼を受けて、お引き受けしたんです。彼も当事者で、社会にLGBTの理解を訴えたいという強い思いを持っていました。強く共感し僕もそのタイミングで、会社に話したというわけです。

岩瀬:最初にカミングアウトされた時の周囲のリアクションは、どのような感じでしたか。

柳沢:周囲の人からは「まだ日本ではLGBTを受け入れてくれる人は少ないんじゃないか」とか、「理解したいという気持ちはあっても、ビジネスの文脈では難しいんじゃないか」と結構言われました。

岩瀬:難しいというのは、キャリア上、仕事を続けていくのが難しいという意味でしょうか。

柳沢:主にお客さまに理解されるかどうか、というポイントですね。実際に、社内でも理解がある人とない人がいました。しかし、直属の上司が、「僕は100%サポートするから、雑誌にでも何でも出て欲しい。君がメディアに出ることは、僕にとっても会社にとってもうれしいことだから」と言ってくれて、すごく心強かったですね。

岩瀬:「僕はゲイです」とカミングアウトされたときに、想定外だったことはありましたか。

柳沢:すべてが想定外でしたね。「ザ・日本の保守的なおじさん」のようなお客さまから「すごく勇気を出していただいたことがうれしいです。支援しています」というメールをいただくこともあれば、割と仲良くしていた人から心ない言葉を浴びせられたこともありました。

岩瀬:柳沢さんのFacebookを見ていると、ご両親がとても協力的な印象を受けます。若い世代と違って、親世代ですと複雑な気持ちもあると思ったんですが、ご両親にカミングアウトされたときは、どういった反応でしたか。

柳沢:両親にカミングアウトしたのは、社会人になってからです。僕自身も若かったので、初めてできたボーイフレンドと絶対に結婚しようと思い、まずは両親に紹介しようとしました。そこで、何度も両親と食事をしていたときに、その事を伝えようと思ったのですが、なかなか言えなくて。

実際に言ったときには、「紹介したい人がいる」と告げる前に、自分の想いが堰を切って出てきてしまいました。泣きながら、言葉にならない僕の姿を見た母親は、すでに察していたようでした。そして「正和は正和なんだから、男性が好きでも、女性が好きでも、別にいいんだ」という言葉をかけてくれたんです。

ところが、実はそこから両親の葛藤が始まりました。特に父は、ありのままの事実を受け入れるまでに10年かかったそうです。母は、僕の幼少期から感じるところがあったようで、心の準備ができていたと聞きました。

それでも、支えになってくれたのは、妹です。妹は後からですが、すでに気づいていて、「いつ言うのかなと思っていた」「自分はおにいちゃん子で、変な女性と一緒になるよりいいとおもった!」と言ってくれました(笑)。それを聞いたとき、家族の中に一人でも味方がいるということに、随分救われましたね。

(つづく)


<プロフィール>
柳沢正和(やなぎさわ・まさかず)
LGBT支援の認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ所属。学校法人ンターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢(UWC ISAK Japan)理事。共著に『職場のLGBT読本』(実務教育出版)。ドイツ証券株式会社 株式営業統括部ディレクター。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/村上悦子