写真左:柳沢正和さん(認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ/ドイツ証券株式会社 株式営業統括部ディレクター)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

ライフネット生命が、保険会社として日本で初めて同性パートナーも死亡保険金受取人として指定できるようにしたのが、2015年10月のこと。同年に渋谷区がパートナーシップ証明書を同性カップルに発行するようになりましたが、その頃からLGBTに対する風向きが変わったという、LGBT支援の認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ、ドイツ証券株式会社の柳沢正和さん。

彼らがどのように、LGBTフレンドリーな社会づくりを進めてきたのか、ライフネット生命社長 岩瀬大輔との対談がつづきます。(前編はこちら)

■志を持った個人が動けば、世の中が変わる

岩瀬:柳沢さんは、LGBTと職場について考える団体「work with Pride(以下、wwP)」に参画されていますが、どのようなきっかけで始められたんですか。

柳沢:もともと、会社の中だけで活動をすることに限界を感じていました。この活動がスタートする前の2011年のことです。僕が勤務するドイツ証券の日本法人でもまだまだ取り組みが進んでいなくて、ひとこと目には「女性の人材登用からやりたいので、LGBTの順番は後だ」と。このままでは20年経っても進まないと思って、社内ではなく、さまざまな会社を巻き込んで始めるのがいいのではないかと考えるようになりました。

岩瀬:会社にカミングアウトしてから、活動を始められたのでしょうか。

柳沢:そうです。カミングアウトした後に、まず社内制度を確認しました。すると、例えば、社宅には家族しか入れないということが分かりました。当然、会社に在籍しているレズビアンやゲイの当事者たちは、会社の社宅プログラムを使わないという選択をします。その結果、LGBTの人とそうでない人の生活コストが月何万円と違ってくるわけです。この件は人事部が努力してくれて例外的に認められました。社内の制度が抜本的に変わったのは今の桑原社長になって、ダイバーシティに大きくコミットしてからです。

岩瀬:wwPがスタートした時、何社が参加されたのでしょうか。


柳沢:約30社です。その時はIBMの方に会場をお借りしました。実は、IBMでダイバーシティを進められていた人事の方に「できる限り人を集めてください」とお願いして、彼女の人望でやっと人が集まったというのが、正直なところです。

それから、1年間に1回のペースでLGBTに関する勉強会を開催しています。おかげさまで参加者は年々増え、今年は300社、のべ500名が参加してくださいました。

岩瀬:今後の目標は何ですか。

柳沢:とにかく、参加してくださる人を増やしていくことですね。これが重要だと思います。

岩瀬:何か法律を変えようということではなく、まずは企業の風土や制度を変えていこうという取り組みですね。

柳沢:そうです。事実から先行させてしまえ、という感じです。

岩瀬:僕は、柳沢さんたちの活動を見て、「志があって、戦い方が分かっている個人が動くと、社会は本当に変わるんだ」とすごく感動しました。もちろん、それはひとりの力では不可能で、周囲の協力や時代の空気などさまざまな条件がぴったりと合った瞬間に実現できるのだと思うのです。

2015年に、陸上のサニブラウン選手が17歳以下の世界一を決める世界ユース選手権で100mと200mの2冠を獲得して話題になりました。時を同じくして、ミス・ユニバース世界大会の日本代表に、アフリカ系アメリカ人の父を持つ宮本エリアナさんが選ばれました。僕はその時、日本はすごく人種について寛容になったと感じました。

LGBTについても同様です。柳沢さんたちがこの活動をしていなかったら、変わらなかった部分がすごくある。個人が動くことで、本当に社会が変わるんだなと。もちろん、企業が社会に与える影響も大きいと思います。

■企業が活動に参加する影響は大きい


柳沢:企業が動く影響は大きいです。wwPをスタートさせた時、当時、女性活躍推進に携わっていた方からたくさんのアドバイスをいただいたんです。

その方は、女性活躍推進を長年やってきて、何がうまくいき、何がうまくいかなかったかをよく分かっているとおっしゃいました。具体的には、「日本の大手企業で、誰もが『この企業がやっているのだったら、うちも後に続こう』と思われるように、バトンタッチしていくような活動をやることが消えない足跡を残すために大切だ」とか。

岩瀬:最初はIBMでしたね。次はどこが参加されたのですか。

柳沢:ソニーです。ソニーがやったら、今度はパナソニックがやりたいと言ってくれました。

今、LGBTの差別を解消するための法制化の実現に取り組んでいるのですが、障害者の差別解消の法制に携わった方々に多くのご意見をいただきました。日本のダイバーシティ、さまざまなマイノリティのムーブメントの層が厚くなってきていると感じます。

岩瀬:ライフネット生命でも、同性パートナー施策レインボーフォトプロジェクトがんアライ部などの取り組みを積極的に行っています。それらの活動について、意見を聞かせていただきますか。

柳沢:ライフネット生命さんは、先日のLGBT活動で福岡(九州レインボープライド)にいらっしゃいましたよね。その時、すごく嬉しかったんです。今までは、東京だけが盛り上がっているような形になっていたので、岩瀬さんに「LGBT活動を全国でやっていきたい」と言っていただいた時、とても心強く感じました。

B to Cビジネスを展開する企業の方と一緒にやっていくと、広く社会に与える影響が大きいのです。

岩瀬:渋谷区の長谷部区長にも、条例施行後に「ライフネット生命に動いていただいて良かった。行政ができることにも限界があるし、行政と民間、みんなでやっていくのがすごく大事だ」と言っていただきました。当社はまだそれほど多くのお客さまがいるわけではありませんが、当社が対応したことで、他の大手生保も後に続くという「玉突き効果」があったことはすごくよかったと思います。

柳沢:岩瀬さんのようなオピニオンリーダーが旗を振ってくれると、やはり波及効果が違います。

岩瀬:ありがとうございます。引き続き、微力ながら応援しております。

<プロフィール>
柳沢正和(やなぎさわ・まさかず)
LGBT支援の認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ所属。学校法人ンターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢(UWC ISAK Japan)理事。共著に『職場のLGBT読本』(実務教育出版)。ドイツ証券株式会社 株式営業統括部ディレクター。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/村上悦子