江口康二さん(株式会社メディロム 代表取締役)

関東を中心に東京No,1の店舗数を誇るリラクゼーションスタジオ「Re.Ra.Ku(リラク)」を展開するメディロム。同社は、他業界と比べITの導入がまだまだ進んでいないと言われる医療、ヘルスケア業界において、ITやビックデータ解析等を導入し「この世から生活習慣病をなくす」という壮大な目標に向かって歩み始めています。果たしてそれは、実現可能な未来なのか。代表取締役の江口康二さんにうかがいました。

■ライフログ解析によって生活習慣病を未然に防ぐ

――御社はリラクゼーションスタジオを運営する一方で、IT分野にも力を入れています。具体的にはどんなことをされているんですか?

江口康二代表取締役(以下敬称略):当社では、初めて来店されるお客さまから、健康状態を含む個人情報を提供して頂いています。病院でいう問診票のようなものです。これらの情報はセラピストが最適な施術をするために必要としていますが、それ以外にも医療の進歩に役立てようと考えています。当社は現在、関東圏で約190店舗を運営しており、月間約7万人の方にご利用いただいています。

そのうちの2割が新規のお客さまです。つまり毎月1万4千近くの新規データが追加されています。この取り組みを始めてから、約100万件のデータが集まっています。当社はそれを使ってデータマイニング、最近の言葉でいう「ビッグデータ解析」をしています。解析が進めば、「こういう生活パターンの人が、こういう疾患になりやすい」といった将来予測が立てられるようになります。

――病気の予知でいうと、「ゲノム解析」のほうが主流ではないですか?

江口:ゲノム解析というと先進的なイメージがあり、実際にそうした事業に投資をしている会社の株価が上がるなど、とても注目されています。でも一方で、病気の原因としてゲノムは2割程度しか関与していないとも言われます。8割は生活習慣にあります。

つまりゲノム解析の結果、がんになりやすいかどうかが分かったとしても、生活習慣次第で改善ができるということです。だから本当に重要なのは、私はゲノム解析よりもライフログ解析だと考えています。

ところが今、ライフログ解析を大規模かつ長期的に研究している機関はありません。がんの再発率や転移の仕方についてはすでに研究されつくしたものの、どんな生活習慣ががんを誘発しやすいのかということの研究は進んでいないのです。

でも大量のデータを解析していけば、がんや高脂血症、糖尿病にかかる方がどんなライフスタイルをおくっているかといった傾向をつかむことができます。喫煙の有無や食べ合わせ、睡眠時間などから不健康な人の特異点を見つけ出せば、この世から生活習慣病をなくすことも夢ではありません。

■医療従事者の所得倍増計画? アプリで「予防」のマネタイズに成功

――「このままだと生活習慣病になる」ということが事前に分かっても、生活習慣の改善が伴わないと病気を防げない気もしますが……。

江口:そこで生活習慣の改善をサポートする「medites(メディテス)」という新しいプログラムを、医療法人社団友志会ララクリニック(東京・恵比寿)総院長、青木晃先生の協力のもと、2017年6月に医療従事者の学会で発表しました。スマートフォンの専用アプリとウェアラブル端末を連動させてユーザーの睡眠の質や活動量などを管理し、専属アドバイザーが毎日、直接指導を行います。

プログラムの期間は2か月間で、医師はその間に計3回行われる血液検査の結果を見ながら状態をチェックします。すでに一部のクリニックでは、ダイエットプログラムとして提供されています。
「生活習慣を改善しましょう」と言っても、みなさんなかなかモチベーションを上げてくれませんが、ダイエットだと関心があるんです。高脂血症や糖尿病対策と流れは一緒なんですが、「マスト」が「ウォンツ」に変わるからでしょうね。

――医師やスタッフによる「見守り」の効果もありそうですが、実際にダイエットは成功しているのでしょうか?

江口:先ほどのララクリニックでは、プログラムを体験した36人全員がダイエットに成功しました。平均で体重は7キロ、体脂肪率は5.1%落ちています。これを無理な運動を強いることなく、あくまで食事の時間や食べ方などをコーチングするだけで実現しています。
ただ、ダイエットは表向きの目的です。真の目的は高脂血症、糖尿病対策にある。実際に皆さんの血糖値はぐんぐん下がり、ヘモグロビン値も適正値になりました。

――体内の健康を整えながら痩せられるんですね。

江口:短期的に激しいトレーニングと抑圧で強引に痩せる手法が流行っていますが、医師の先生方も、無理なダイエットは良くないとおっしゃっています。当社のプログラムでは、医師が血液データをしっかり見て、体内をチューニングしていく。医師による治療を目的とした対人指導による生活習慣改善アプリは世界初(メディロム社調べ)です。「お医者さんに相談するダイエット」がこれからの先端になると思います。

――医師が介在することに意味がありますか?

江口:これまでなぜ予防医療が進まなかったのかというと、医師に対する報酬の仕組みがなかったからです。病気になってから治療をするのが当たり前だった。でも、薬で血糖値や血圧を下げても、それは一時的なことで根本的な解決にはなりません。それよりも生活習慣そのものを変えていくことが大事。メディテスはそれを可能にするプログラムです。14万8千円と19万8千円のコースがあり、その半分以上が医師の報酬になります。

――マネタイズの仕組みができれば、予防医療が活性化されていきそうですね。

江口:さらに言うと、このプログラムは医師以外の医療従事者たちに対しても新しい収入源を作ります。理学療法士、作業療法士、准看護師、看護師、管理栄養士、栄養士といった医療従事者は、資格を持っていながら平均年収が300万円台にとどまります。

日々のコーチングについては今のところ、医師のアドバイスに沿って我々が行っていますが、いずれはそうした医療従事者に委託していくつもりです。おそらく一人で10人ほどは担当できるでしょう。そうなれば彼らの年収は500万円台にアップします。

――コーチング部分をアプリで自動化することも可能ではありませんか?

江口:コーチングについては、睡眠時間、体脂肪の変化、運動量、徒歩量、食事などの情報をもとに、チャットを使って行っています。生身の人間がコミュニケーションを取りながら見守ることに意味があると思うからです。それを我々が引き続き行っていくことも可能ですが、もともと知識を持っている医療従事者にお任せしたほうがサービスの質が高まるし、医療従事者を目指そうとする人も増えるでしょう。

すでに関係団体との提携も決まり、彼らに仕事を手配する準備は整っています。メディテスは口コミで全国のクリニックに広がり始めていますが、本格的な宣伝戦略も仕込んでいます。「メディテスで痩せたい」という人が増えるほど、医療従事者の方に多くの仕事を発注できるようになります。

■デジタルヘルス事業が成功すれば保険会社のライバルになる?

――御社は2017年1月に社名を「リラク」から「メディロム」に変更されました。これもIT部門の強化と関係ありますか?

江口:海外展開を積極的に進めるために社名を変えました。というのも、「リラク」だと当社の説明に時間がかかるうえに、イメージが店舗事業になってしまうからです。我々は現在、ニューヨーク証券取引所への上場も目指していますが、店舗事業のイメージだとバリューが高まりません。ところが「ビッグデータ×IT×AI×ヘルスケア」となると、バリューが100倍くらいに跳ね上がります。

当社にとって、店舗事業はみかんの皮の部分。その中身はデジタルヘルス事業であるということを、社名からイメージしてもらおうと思いました。だからといって店舗事業を軽視しているという話ではなく、品質は業界最高レベルであると自負しています。

当社では、新人スタッフの研修を短期間で行うのではなく、最初の3年半の間に何度も研修を受けてもらう独自の教育制度でスタッフを育てています。

未熟なまま施術をしていると骨折や擦過傷といった事故につながりかねませんが、当社は全国約2200店舗が加盟している日本リラクゼーション業協会において重大事故を一度も起こしていない唯一の会社(メロディム社調べ)です。また、協会主催のリラクゼーションコンテストでも毎回受賞者を輩出しており、今年は当社のトレッサ横浜店が店舗部門のグランプリに選ばれました。

――現場の品質を高めることが、デジタルヘルス事業を支えているとも言えそうですね。御社の目指す病気の将来予測が可能になれば、保険会社にとっても強力なライバルになりそうですね。

江口:将来的に当社が保険会社に移行することは可能だと思います。ただ、我々の事業目的は保険サービスの提供ではありません。保険会社をわざわざゼロから作るよりも、保険会社と手を組んで新しい保険商品を考えるほうが現実的でしょう。生活習慣病を予測して、その予防に役立ててもらうことができれば、保険会社のライバルというよりも、保険組合や保険会社にとって必須となるサービスのプラットフォームになれるのではないかと思っています。

(つづく)

<プロフィール>
江口康二(えぐち・こうじ)
1973年東京都生まれ。1996年東海大学海洋学部海洋資源学科卒業後、中古車販売のジャック(現カーチス)に入社。同社インターネット事業部の部長に就任後、企画提案した独自のインターネットオークションシステムで「日経優秀製品・サ-ビス賞」を受賞する。2000年に株式会社リラクを設立。2017年1月、株式会社メディロムに社名変更し、データ解析事業を強化。ライフログ解析により、生活習慣病の撲滅に挑む。会社のトライアスロン部に自らも参加するスポーツマン。
●メディロム

<クレジット>
取材・文/香川誠
撮影/横田達也

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