トシ・カプチーノさん(舞台芸術評論家、キャバレーシンガー、タレント、プロデューサー)

「自分らしく生きたい」という気持ちひとつでニューヨークに渡った、トシ・カプチーノさん。演劇活動に励みながら、10年を共に過ごした同性パートナーと4年前に結婚。そしてこの度、トシさんの波乱の半生をありのままに描いた「“SUPER”Late Bloomer ~トシ・カプチーノ自伝ソロ・ミュージカル『大器“超”晩成』~」が2018年1月19日から21日に東京・TOKYO FMホールにて上演されます。

同作品には、「人が幸せに生きていくためには何が必要なのか」、という大きなメッセージが込められています。トシさんにとって、結婚とは何か。幸せとは何か。ゲイである自分とどう向き合ってきたのか。詳しくお聞きしました。

■幸せになるためには、自分のことばかりではダメだった

──今回、ご自身の半生を舞台化しようと思ったきっかけは何ですか。

トシ・カプチーノ(以下トシ):もともと、僕は歌手になりたかったんです。舞台で歌を歌いたいと。高校2年の時に当時人気のオーディション番組「スター誕生」の決勝大会に出たんです。舞台というものは、自分のすべてを見せることによって、お客さまに感動を与えることができるんですが、当時の僕は自分がゲイだということをずっと隠していたので、どうしても人前ですべてをさらけ出すことはできなかった。だから一度、歌手の道をあきらめたんです。

その後、たまたまご縁があってニューヨークに渡りました。ブロードウェイでは、一流の舞台俳優から全く売れない人までが、切磋琢磨しながら努力をしていました。そんな彼らの姿を見ているうちに、「一度は諦めたけれど、もう一度歌を歌いたい」と思うようになったのです。

ニューヨークでは、キャバレーが非常に盛んです。日本の方は、キャバレーという言葉を聞くと、どうしても若い女性がお酌をして……というイメージを持ってしまうかもしれませんが、ニューヨークでは全く違います。たくさんの舞台俳優たちがショーをする場なのです。僕もキャバレーでショーをやりたいと思い、自分の作品を作り始めました。

自分で一度ショーを作ると、また次の目標が見えてきます。その過程の中で、美輪明宏さんへのオマージュである「シシー・ボーイ」というミュージカルを作る機会がありました。美輪さんの曲や名言を入れ込んだ、ユニークな台本を書いたんです。初めて作ったミュージカルだったので、それほど評判にはなりませんでしたが、お客さまのひとりから、「トシさん、あなたの人生は面白いから、自分の人生を描きなさいよ」という言葉をいただいて。その次に1時間ほどの芝居を作ったら、またお客様から「トシさん、これはミュージカルにしなきゃダメよ」と言われたんですね。

そういった経緯から「大器“超”晩成」は生まれました。ニューヨークで初演を行い、その後、東京、福岡で合計13回の公演をやりました。おかげさまで、来年1月に東京で再演することになった次第です。

──「大器“超”晩成」というタイトルですが、「超」という言葉に込めた想いとは何でしょうか。

トシ:僕は今まで、自分の好きなことばかりやってきました。言い換えれば、自分のことしか考えていなかったのかもしれません。ただ、自分の母に対しては、常に申し訳ないと言う気持ちがありました。ゲイだということを隠したまま、自分のことばかりやって、母には何もしてあげられない。ゲイだから、もちろん孫を抱かせてあげることもできない。

でも、いつかは成功して、母を喜ばせたいと思っていました。ところが、僕はもう50を過ぎていますし、いつまでたってもつまらない男だな……と葛藤していたんです。

特に日本では、50歳を過ぎると「人生終わり」という見方をする部分があるじゃないですか。転職をするのも、新たなチャレンジをするのも難しいですよね。しかし、たとえ50歳を過ぎても、「大器晩成」で人生を楽しんでいけるんだと。それも「すごく遅い晩成型」という意味を込めて、「大器“超”晩成」いうタイトルに決めました。

■パートナーの幸せとは何かを考えた時に、結婚を決めた

──ショーの中では、どのようなメッセージを伝えたいですか。

トシ:みんな、幸せになりたいと望んでいると思います。でも、なかなか幸せになれない。現実は、毎日が同じルーティーンで、人生を楽しんでいない人が多いと思うんです。

でも、幸せを見つけることって、結構簡単なことなんです。自分が幸せになることを考えるのではなく、人の幸せを考えることで、自分に返ってくる。それが自分の幸せであるということを、僕はこのショーの中で伝えたいのです。

──ニューヨークに行ったことが大きな転機だったのかと感じます。

トシ:そうですね。中でも、パートナーである夫と出会ったことは大きな転機でした。

夫はアメリカ人で、僕より奥ゆかしく、おとなしく、シャイな人です。このミュージカルでも表現していますが、僕が色々な浮き沈みの中で大変だった時、彼は僕を責めたりせず、ずっとそばにいてくれたんです。僕はそんな彼に対して、何かをしてあげたいなと思うようになりました。

では、何をすれば彼を最も喜ばせることができるのだろう。そう考えたときに、彼は以前から「君と結婚したい」とずっと言っていたことを思い出しました。やはり、結婚というステータスが欲しいと。

僕は正直なところ、結婚に対してあまり興味はなかったのですが、彼を幸せにし、なおかつ自分も幸せになるために、4年前に結婚をしました。

──ニューヨークの舞台芸術界はゲイの方が非常に多いと言われていますが、それを知った上で渡米されたのでしょうか。

トシ:いいえ、知りませんでした。実は、本当にお恥ずかしい話なんですが、僕はニューヨークに行く時に何の野望もなかったんですよ。とにかく、自分らしく生きたい。男性と出会いたい。日本にいた時は常にビクビクしていたし、ゲイだとばれるのがすごくイヤだった。だから、自分に正直に生きたいという気持ちが一番強くて、思い切って行った場所がたまたまニューヨークだったんです。

しかし、それは素晴らしい偶然でした。そこには自分らしく生きている人たちがたくさんいたからです。周囲を変に気にするのではなく、自分のやりたいことをやっている人たちばかりでした。だから、ニューヨークの人はみんな生き生きしているんです。

この作品も、僕がニューヨークに行かなかったら、絶対に生まれていなかったでしょう。

■結婚は「愛の証」だけではなかった

──ニューヨークで結婚したことで証明書が発行され、住居を借りる時や保険に入る時なども、ストレートカップルと同等の権利を得られたというお話をうかがいました。

トシ:本当に恥ずかしい話ですが、僕は保険に入っていませんでした。だから、自分で自分に「医療費が高いから、病気にならないで。怪我をしないで」と言い聞かせていたんです。

アメリカの医療費は、驚くほど高額です。例えば、盲腸の手術をして1日入院しただけでも、保険に入っていなければ1万ドル以上(概算で100万円以上)の費用がかかります。だから、とにかく医療保険は必須です。歳をとればとるほど、必要でしょう。

もちろん、保険に入りたいから夫と結婚したわけでは決してないのですが、彼はちゃんとした企業に勤めている人ですから、結婚したことで、僕も同じ保険に入ることができました。これは演劇を続けていく上で、非常に助かったことです。

──保険以外で、結婚をして享受できたメリットはありますか。

トシ:やはり、結婚という「儀式」は、人生の節目としてとても大切なものだと思います。儀式をしたからといって、現実面で何かが変わるということはありませんが、やはり意識が大きく変わりますよね。そこがすごく大切だと思うんです。

結婚は、社会に対するひとつの宣言になります。すると、お互いに人生に対して責任が生じます。

──自ら宣言することと同時に、それが社会に認められるということですね。

トシ:ええ、それはあると思います。

──旦那様は結婚を強く望んでいたということですが、その理由は何でしょうか。

トシ:やはり、彼は愛と言いますか、一生のパートナーを欲していたのではないかな、と。それがイコール結婚だったと僕は思っています。

■民間企業の取り組みが、日本のLGBTへの理解を広げると思う

──渋谷区では、2015年からパートナーシップ証明書が発行されるようになりました。実際に発行を申請した方に渋谷区の担当者がインタビューを行ったところ、まさにトシさんがおっしゃったように、「行政による後ろ盾があるという安心感によって、社会から承認されていると感じる」と答える人が多かったそうです。

トシ:パートナーシップ証明書の発行は、日本ではまだひとつのアクションでしかありません。しかし、そのアクションを積み重ねていくことによって、次々と変化が生まれていけば、日本でも同性愛者に対する意識が少しずつ変わってくるのではないかと思います。

──トシさんご自身、LGBTについて何か取り組みはされていくのでしょうか。

トシ:僕はやはり、舞台芸術を通してメッセージを伝えていくのではないかと思います。ただ、僕は自分がゲイだからといって、ゲイの人たちだけにメッセージを伝えているわけではありません。

先日、熊本で公演があったのですが、お客さまのうち女性が占める割合は大体80〜90%です。男性よりも女性の方が多いのです。ゲイのお客さまだけではないんですね。僕はあくまでも、普遍的な愛、普遍的なメッセージを、不特定多数のみなさんに伝えたいと思っています。

──ミュージカルの見所について教えてください。

トシ:このミュージカルは、僕のすべてをさらけ出しています。LGBTという言葉が大きな注目を集めていますが、みなさん、LGBTの人たちが実際にどのような生活をしているか、どういった恋愛をしているか、あるいは、率直に言うとどういったセックスをしているのとか、知らないと思うのです。

このミュージカルでは、そういった部分もありのままに描いています。ひとりのゲイの男の生き方が、この中に集約されています。大笑いできるし、大泣きできるし、たくさんの感動があるはずです。
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<プロフィール>
トシ・カプチーノ(とし・かぷちーの)
1961年生まれ。オフ・ブロードウェイ『STOMP』の日本公演に携わった後、渡米。舞台制作のノウハウを学び、宝塚、東宝の制作協力を行い、『RENT』など数々のブロードウェイ日本公演の制作にも携わる。日本のパフォーミング・アーツのNY公演をプロデュースするかたわら、舞台芸術評論家として演劇雑誌「シアターガイド」等で連載、コメンテーターとして数多くのラジオ番組に出演。日本テレビ「恋のお悩み相談、シアワセ結婚相談所」準レギュラーとしても活躍。NY演劇評論家とジャーナリス ト130名で構成されるドラマデスク賞の数少ない日本人選考委員。
●公式サイト

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也

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