NHK-FM 「トーキング ウィズ 松尾堂」での対談。写真左手前:中川李枝子さん、時計まわりに加藤紀子さん、松尾貴史さん、出口治明(ライフネット生命保険 創業者)

日本の児童書史上に輝く名作『ぐりとぐら』。幼い日々に夢中になってページをめくった、物語に出てくるカステラを食べたくなった、大人になって読んでも楽しい、という方は多いのではないでしょうか。ライフネット生命保険創業者の出口治明もそのひとり。『ぐりとぐら』はいったいどのようにして生まれたのか、なぜカステラなのか、児童書の魅力とは何か。作者の中川李枝子さんに迫ります。

■『ちびくろサンボ』に対抗して生まれた!?

出口治明(以下出口):中川さんの『ぐりとぐら』は僕もわくわくしながら読みました。本当に大好きな1冊です。

中川李枝子(以下中川):ありがとうございます。

出口:まず本のタイトルが面白い。黄色のネズミというのも楽しいですよね。意外性があります。それから大きなカステラ。ページを開いただけで食べたくなった(笑)。どういうきっかけで『ぐりとぐら』は生まれたんですか? 

中川:説明すると時間がかかりそうですが(笑)、当時私は「みどり保育園」という無認可保育園の保育士をしていました。そこでは、通っている子どもたちが全員出席する保育を目指していたんですね。保育園がつまらないと来てくれなくなるので、いろいろなことを取り入れて、本もずいぶん読み聞かせしました。中でも一番人気だったのは『ちびくろサンボ』。特に男の子が大好きでしたね。みなでごっこ遊びをして、ちびくろサンボになったり、トラになったり。

出口:その光景が目に浮かびます。

中川:子どもたちは絵本が頭に入っていますから、『ちびくろサンボ』の世界がみるみる保育園に広がっていきました。ヤシの木も見えましたよ。ごっこ遊びは誰でも参加できるし、何より子どもたちの想像力を豊かにする。教育的効果はとても高いです。

そんな『ちびくろサンボ』に張り合って書いたのが『ぐりとぐら』。ちびくろサンボがホットケーキを169枚食べるのであれば、こちらはもっと大きい上等な食べ物で大盤振る舞いしようと思って、本当のバターを使ったカステラを登場させたんです(笑)。

出口:張り合ったとお聞きして、なるほどと思いました。『ぐりとぐら』の中で動物たちが集まって、朝から晩までカステラを食べていますが、大きすぎてなかなかなくならない。そのシーンは視覚的によく覚えています。お菓子もご飯も、誰と食べるかは大事ですよね。仲の良い動物がみなで美味しいお菓子を食べることは楽しいし、すばらしいことなんだと子どもたちの心に焼き付いたと思います。

■名前の由来はフランスから

出口:『ぐりとぐら』というタイトルはどこから思いつかれたんですか?

シリーズ累計2500万部の国民的絵本となった『ぐりとぐら』(著)中川李枝子、大村百合子(福音館書店刊)

中川:あの頃、私はフランス語を習っていまして、面白そうなフランス語の絵本があると日本語に訳して紙芝居形式で子どもたちに見せていました。その中に、白いネコと黒ネコが登場する『プッフ・エ・ノワ』という絵本があったんです。2匹のネコがサングラスをかけオートバイに乗ってキャンプに出かけると、野ネズミの一群に遭遇し、野ネズミたちが「ぐりっぐるぐら、ぐりっぐるぐら」と言いながらどんちゃん騒ぎをするというお話です。

子どもたちがわくわくする本を書こうと考えたとき、その「ぐりっぐるぐら、ぐりっぐるぐら」が頭におりてきました。残念ながら、その絵本はいまペーパーバッグ版に変わって、歌のところはなくなってしまいました。

出口:名前は頭に残りますね。『ぐりとぐら』は一度聞いたら忘れない。

中川:私は名前には凝るんです。外に出かけると、必ず人の家の表札をチェックしていますから(笑)。

出口:そしてネズミの色も印象的です。

中川:『ぐりとぐら』の絵は、上智大学のフランス語学科に通っていた妹(山脇百合子さん)が担当しました。でも野ネズミを描いたことがないので、国立科学博物館の今泉吉典先生の研究室をお訪ねしたんですよ。先生に「ネズミの標本を見せてください」とお願いしたら、「そこの引き出しを開けて」と言われたので開けてみると、中に黄色いネズミの剥製が入っていた。この色はいいわね、ということで黄色になりました。

出口:本当に黄色のネズミがいるんですね。

中川:そうなんです。

■優れた児童書は子どもの生活の中に入ってくる

出口:中川さんは、児童書の魅力はどこにあると思われますか?

中川:子どもが大好きな本はふだんの生活に密接にかかわってくるんですよ。例えば、私が大好きな絵本に「わたしと遊んで」という一冊があります。主人公の女の子が原っぱで動物たちに近づいていくと、みな逃げていきますが、じっとしていると動物たちが戻ってきて、膝の上にリスが乗ったりする。最後はみんなと仲良く手を繋いで遊びます。この絵本は、保育園の年少組に好まれました。親切なつもりでお友達にしたことが、必ずしも歓迎されない。された方からは違う形に受け取られるかもしれないということが理解できたようなんです。

出口:3つや4つの子でもわかったわけですね。

中川:ええ。そのうち、子どもたちはこの絵本をごっこ遊びに取り入れるようになりました。先生が「私と遊びましょう」と言うと、子どもたちが逃げる。じっとしていると、そろそろと近づいてきて仲良くなる。やがてごっこ遊びからお芝居にもなりました。ハイブロウな絵本だと思っていたら子どもたちに受け入れられた。本の力だと思いました。

出口:よいお話ですね。僕は子どもたちは本物とそうでないものを見分ける力が強いと思っています。アンデルセンの作品に『裸の王様』がありますよね。大臣や大人たちはあれこれ考えて正直なことを言えないけれど、子どもは見た通り、感じたままに物を言う。大人になるといろいろなことを知りすぎてしまって、かえって素直に物事が見られなくなります。

本を読んで難しいことが書いてあると、大人はひょっとしてこれは良い本かもしれないなどと迷ったりしますが(笑)、子どもはワクワクするか、楽しいかだけで選ぶ。子どもがわくわくするものは本物に違いないです。すぐれた児童書の魅力はそこにあると思います。

中川:ええ。私が保育園で教えていたときには、子どもはみな本が大好きでした。嫌いな子はひとりもいなかった。いまは本以外にも楽しむものがありすぎますからね。でも、小さいときから読めば習慣になります。絵本は読書の入り口。ぜひ、担任の先生に本を読んでもらいたい。人間にとって言葉は大切です。言葉を定着させ、想像力を育むには読書が欠かせません。

出口:本当にそうですね。先日、僕はヤングママの会に呼ばれたんですが、「私たちは本が嫌いですが、子どもは本好きにしたい。ついてはどんな方法がいいですか」と相談されました。僕の答えはこうです。「図書館で分厚い本を借りてきて、子どもの前でゲラゲラ笑ってみてください。すると子どもたちから絵本に手を出すようになりますから」。

人間にはロールモデルが必要なので、大人が読まないと子どもは真似をしません。お父さんお母さんがスマホをいじっていて本を読めといって、読むはずがない。子どもを育てるのは大人の責任です。大人ががんばって良い社会にしていきたいですね。

この対談は、NHKラジオ「トーキング ウイズ 松尾堂」(2017年11月19日)で放送された内容を元に構成しています

<プロフィール>
中川李枝子(ながかわ・りえこ)
1935年札幌生まれ。東京都立高等保母学院卒業後、「みどり保育園」の主任保母になる。保母として働きながら執筆活動を始め、1962年に出版した「いやいやえん」で厚生大臣賞、NHK児童文学奨励賞、サンケイ児童出版文化賞、野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。1963年『ぐりとぐら』を刊行。『ぐりとぐら』の発行部数は2500万部を超え、11か国語に翻訳されている。主な著書に『ぐりとぐら』シリーズ、『そらいろのたね』『ももいろのきりん』、エッセイ『子どもはみんな問題児。』『本・子ども・絵本』など多数。映画『となりのトトロ』の楽曲「さんぽ」の作詞でも知られている。

<クレジット>
文/三田村蕗子
写真提供/NHK-FM トーキング ウィズ 松尾堂

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