ライフネット生命保険オリジナル『孤独な人生とお金のゲーム』。このようなチャンスカードとサイコロで、お金とライフポイントの点数を競う

ライフネット生命の人事総務部が、“ボードゲーム”を開発していた!? 未確認情報をキャッチしたライフネットジャーナル編集部はその真偽を確かめるため、開発担当者に直撃取材を敢行。いったいどんな目的でゲームを作ったのでしょうか?

■保険業界のことを知ってもらうためにはゲームが一番だ!

ライフネット生命の人事総務部が開発した『孤独な人生とお金のゲーム』には、ボードゲームあるようなサイコロやルーレットもなければ、駒もありません。 ルールについては後述するとして、ゲーム会社でもないライフネット生命がこのようなボードゲームを作ったのはなぜか。コーポレート本部・人事総務部の篠原広高に尋ねました。

「ライフネット生命では、採用に2つの窓口を設けています。ひとつは、一般的な中途採用にあたる『通年即戦力採用』。そしてもうひとつが、30歳未満の方を対象とした『定期育成採用』です。こちらは入社後に当社が育成を行う前提で採用をします。この『孤独な人生とお金のゲーム』は、定期育成採用の採用活動の一環として開発したボードゲームです」(人事総務部・篠原広高、以下「」内同)。

採用活動を通じて数多くの就活中の学生たちと触れ合う中で、篠原ら人事総務部のメンバーたちは、あることを感じていました。

「多くの学生たちが、生保業界に固まったイメージを持っていました。営業が大変そう、ノルマがきつそう、売り物が難しくわかりにくい。でも福利厚生はよく長く働けそう。なんとなくの印象はあるものの誤解も多く、生保業界を志望する学生も多いとはいえません」

学生たちにいきなり保険の話をしても興味を持ってもらえない。メンバーたちが面白いアングルを考えていたちょうどその頃、当時の会長、出口治明が『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ社)という若手向けの本を上梓しました。

「大学でお金について学ぶ機会はほとんどありません。お金を軸にしたコンテンツを提供できれば、その延長線上で保険に興味を持つ可能性もあると考えました。」そこで出てきた案が、ライフネット版のボードゲームだったのです。

■預金残高を競うのではなく、お金を使って「ライフポイント」を貯めていく

ゲームの様子。1テーブル2〜6人で、人生を5年ごとに区切ってお金とライフポイントを集計していく

ただ楽しいゲームを作るだけでは、保険に興味を持ってもらうためのきっかけづくりになりません。そこで、「プレイヤー同士で何を競い合うか」についても議論されました。

「よくあるボードゲームでは、最終的に一番お金を持っている人が勝者となります。しかし実際の人生に置き換えた場合、人生最期の瞬間の預金残高と幸福度は必ずしも一致しないと考えました。出口が著書の中で、さまざまな経験を積むことの大切さについて触れていたこともあり、お金を使うことで得られる喜びや経験を『ライフポイント』として数値化することにしました」

おおよそのコンセプトを固め、ゲーム制作会社の協力のもと、細かいルールや発生イベントを決めました。そうして完成したのが、『孤独な人生とお金のゲーム』です。ゲーム中の多くの時間が個人ワークにさかれるので、面接やワークショップとは一線を画すものになりました。「孤独」という言葉には、そんなゲームの特性が表れているのです。

ゲームは1グループ2~6名で行います。プレイヤーはまず、「インカムカード」を引いて自分の収入を確定させます。ランクは「高収入」「平均」「平均未満」と3段階あり、何をひくかで最初のターンで使えるお金の総額が変化します。次に「使いみち一覧」からお金の使いみちを決めて、購入した物やサービスに応じた「ライフポイント」を獲得。ここまでが「計算できる人生」です。

人生山あり谷あり。続いて「アクシデント&チャンスタイム」で計算できない人生に突入します。プレイヤーたちは、制限時間までカードを順番に引き続け、「仕事で成果が出た」「恋人ができた」といった内容によって所持金やライフポイントを増減させていきます。ここでは事故に遭ったり、病気になったりという保険と関連するアクシデントも発生します。

お金とライフポイントを集計すると1ターン、人生5年分が終了します。これを5ターン分(20代前半、後半、30代前半、後半、40代前半)行います。40代前半までの人生を体験できるように設計したのには理由があります。

「学生たちは、就活中に出会う大人たちを見て、自分の未来を想像しますよね。でもそこで出会う大人たちの多くは20代。本当に人生をイメージするなら、20代の自分だけではなくてもっと先の人生まで捉えてみてもよいと思ったのです。そこで、あえて想像したことがない40代までの人生を追体験できるようにしました。20代~40代の様々なライフイベントと向き合ったり、人生のフェーズ毎に使うお金の量や質が変化していくことを感じたり……。たかがゲームですが、25年分の人生を追体験すると、自分なりのお金との付き合い方が見えてきます。これまで考えたこともなかった保険が少し身近な存在になる人もいますね」

たとえば「自家用車・バイク運転中…」というカードを引いたプレイヤーは、10面サイコロを4つ振ります。出た目の合計では、何も起こらなかったり、事故を起こしたり、場合によっては事故の後遺症で働けなくなることもあります。自動車保険や医療保険、就業不能保険に入っていると、所持金やライフポイントの下げ幅に影響を及ぼすことがあります。たとえば、就業不能保険に入っている状態で就業不能状態になった場合は、お金の心配が少なくなるのでライフポイントの下げ幅が小さくなり、所持金が増えるといった具合です。

どんなことが起こるのか、ドキドキのチャンスカード。場合によっては「死亡」まであり得るのも、生命保険会社らしいリアルな点のひとつ

「大人数でやると、自分以外の人生模様が見られて俄然ゲームが面白くなります。自分が平穏無事に過ごしていても、周りの阿鼻叫喚が聞こえてくることもあります(笑)。そんな様子を見ると、『あんなことも起こるんだ』と思って次のターンで保険に加入する人もいます。身近な人の結婚や病気がきっかけで、自分のお金の使い方が変わっていくということは、実際にもありますよね」

■宝くじの一等当選確率も病気の死亡率もリアルに

できる限りリアルな人生を追体験してもらうために、開発チームは細部にこだわりました。

「たとえばゲーム中、プレイヤーが病気に罹患して死亡するケースがあります。その確率は、現実世界における病気の死亡率に合わせています。これまでのゲーム参加者には、そうやってゲームオーバーになった人もいます」

ゲームオーバーになったら、そのプレイヤーは見学するだけになります。プレイヤーの満足度だけを考えたら、そのリスクは排除するように設計した方が無難でしょう。それでも開発チームは、「人生では一定確率でこういうことが起こる」という現実に向き合えるようにしました。

「『宝くじに当選!?』というカードがあるのですが、「やった!」と思って指示通りにサイコロを振っても当選することはまれです。実際の確率と当選金額にあわせて、忠実に設計していますからね」

ゲーム中、住民税や社会保険料の支払いが発生するのも、リアルさへのこだわりからです。

「初めて給与明細を見た時に『住民税や社会保険料でこんなに引かれるのか』と驚くことはありませんか。このゲームでも、同じように驚くことは少なくありません」

■ゲーム最後の「振り返り」では価値観を揺さぶられる学びも

実はこのゲーム、プレイ時間が5~6時間かかります。1ターン毎にお金の計算をして、その使いみちを考えて、ライフイベントが発生して……それを繰り返すとあっという間に時間が過ぎていきます。

「人生25年間を6時間で追体験できるのだから、考えようによってはとても短いのですけどね(笑)。ありがたいのは参加者アンケート結果で満足している人が9割を超えたことです」

ゲーム終了後、各自のライフポイントや、起こった出来事をプレイヤー同士でシェアして、全体で「振り返り」を行います。

「自動車を買う人、語学スクールに通う人、高級シャンデリアを何個も購入する人もいます。自分の収入だけではお金が足りないからとローンを組む人もいれば、借金は絶対にしないと不動産も自己資金だけで賄う人もいました。お金の使い方、向き合い方は十人十色です」

「お金と幸せ」について気づきを得た学生たちも多いようです。

「あるプレイヤーはお金はどんどん貯まるものの、平日は深夜まで残業が続き、週末は接待ゴルフでつぶれて、ライフポイントはあまり貯まらずに終了。またあるプレイヤーは、収入や預貯金は多くないものの、趣味や家族との時間をめいっぱい楽しんでライフポイントを積み重ねていって終了。『ゲームと同じ人生を歩んだら幸せですか?』そんな問いかけを通じて、『お金と幸福感は必ずしも比例しない』ということにも気づくようです」

ではいったい、幸福感を高めるお金の使い方とは何なのか。その答えは、彼らがこれから送る本当の人生の中で見えてくるのかもしれません。

<クレジット>
取材・文・撮影/ライフネットジャーナル オンライン 編集部