写真左:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)、右:髙橋ゆきさん(株式会社ベアーズ 取締役副社長)

ライフネット生命は2017年8月のがん保険の発売に伴い、働きながらがんを治療することをサポートする「がん生活サポートサービス」の提供を開始しました。その提携企業のひとつである家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニーである、ベアーズ。取締役副社長の髙橋ゆきさんは、家庭をもっと明るくしたい、笑顔が弾ける楽しい日々を送ってもらいたいと、社長であるご主人の髙橋健志さんとともにベアーズを立ち上げ、家事代行サービスを日本に根付かせてきました。

なぜ高橋さんは日本ではまだ一般的でなかった家事代行サービスをスタートしたのか。高い志をパワフルに実践してきた高橋さんに、当社社長の岩瀬大輔が創業の背景をお聞きしました。

■メイドさんは「心の保険」だった

岩瀬:ベアーズは日本初の家事代行の会社です。創業のきっかけを教えてください。

髙橋ゆき取締役副社長(以下敬称略):一言で言うと私の原体験です。香港にてフルタイムで働いていた27才のときに第一子を授かりましたが、時代が時代でしたから(1996年)、女性を取り巻く環境や女性の働き方もいまとはまったく違いました。女性が仕事をして妊娠・出産をした後は復帰しづらい、働きづらいのが当たり前。私も6か月までは妊娠を隠して仕事をしていました(笑)。お腹を隠すのが難しくなったころに社長にようやく話をしたら、意外なことに「おめでとう!これで君はもっといい仕事ができる女性になるね。君は安心して産んで、みんなに助けてもらうといい。香港には共働き夫婦を支えるメイド文化があるのだから」と応援してもらいました。

岩瀬:日本と香港とでは環境も周囲の考え方も異なるんですね。

髙橋:ええ。それまでは、メイドさんはお金持ちの家庭や特別な職業の人が雇うもので、自分には身分不相応だと思っていました。そもそも、他人を家にあげて家事をすべて任せることは当時の日本にはなかなかなかったですからね。最初はものすごく抵抗がありました。でも、一度お願いしたら、もうびっくり! ものすごく気持ちがおだやかでいられました(笑)。

岩瀬:ストレスが軽減された?

髙橋:気持ちが楽になるし、肉体的なしんどさも軽減しました。しかもメイドさんからは、子どもが泣いているときには「これはこういうサインよ」と教えてくれる、子育てや人生の先輩でもあるんです。生活のストレスは時間のなさや忙しさから生まれます。アイロンや料理をしてくれることもありがたかったけれど、何よりメイドさんのサポートによって気持ちにゆとりがもてた。これは「心の保険」だと思いました。

岩瀬:香港のメイドさんは完全住み込みですよね。いくらかかったでしょう?

髙橋:週に1日休みがあって当時で月に6万円程度です。日本で住込み6万円という料金は難しいと思いますが、香港では世帯収入の約三分の一をかけて育児や家事のサポーターとしてメイドさんを雇っています。家事のサードパーソンとしてメイドさんが機能しているわけです。その時の経験から、このライフスタイルは日本を変えていくと確信しました。

■家事代行の利用者はハートリッチ

岩瀬:ご自身の体験から、日本に戻った後にすぐにベアーズを立ち上げられた?

 

髙橋:4年後に日本に帰国して、東京で第二子を出産しましたが、香港のようなメイドサービスはどこにもありませんでした。ハウスクリーニングの会社はあっても家事全般の代行はしてもらえない。でも、これからの日本は女性が出産した後も輝きながら働く時代になるはずだし、その中でがんばる女性をサポートしたいと考え、1999年に夫婦でベアーズを起業しました。

岩瀬:当時、日本に「家事代行」という言葉はあったんですか?

髙橋:いえいえ。まわりには「家事代行とは」から説明する必要がありました。本当に苦労しましたね。家事を外部に頼むと、母や妻としての仕事を果たしていないんじゃないかと思ったり、お姑さんに後ろ指を指されるかもしれないという意識も強くありました。当時は家事代行を頼む自分が許せないという女性が多かったんです。頼んでみたいけれど踏み込めない。そんな時代が創業から10年近く続きました。

風向きが変わってきたのはいまから7、8年ぐらい前ですね。いまは「どうして家事代行をもっと使わないの?」「なぜもっと普及しないの?」と特に若い20代から切望されています。

岩瀬:日本ではどういった層が家事代行を利用しているんでしょう?

髙橋:一番よく利用してくださるのは共働きの子育て世代で、全体の半分にあたります。残り半分の3分の1を、ひとり暮らしの男女、シニア、専業主婦が占めています。考え方や志向という点から言えば、独自の哲学を持っている方が多いように思いますね。自分でなければできないことに自分の時間を使い、そうではないことはアウトソーシングして、今を大事に生きたいという価値観です。

ベアーズレディさん(家事を代行するスタッフ)にどうしてこの仕事を続けているのかと聞くと、「お客さまが素敵だから」という答えが目立つんですよ。「何が素敵なの?」と聞いてみると、「ハートリッチな方が多い」と。家事のアウトソーシングをうまく利用しながら自分の暮らしを大事にしている方は、レディさんのことも尊重してくれておつきあいしてくださるんです。

ベアーズの家事代行サービス

岩瀬:友人が家事代行を使った感想として「ホテルの部屋に帰ってくるような気分」だと言っていました。

髙橋:それはまさに弊社の創業時のキャッチフレーズです(笑)。社長がホテルマンだったということもあり、「ホテルライクな暮らしをご家庭へ」とうたってきましたから。

■追求しているのは笑顔と感動

岩瀬:お客さまの声で何か印象的なものはありますか?

髙橋:部屋がきれいになっただけではなくて、空間のエネルギーが上がった、優しくなった、明るくなれた、家族の笑顔が増えたと言っていただくとうれしいですね。

岩瀬:他人にやってもらうと優しい気持ちになれるんでしょうか?

髙橋:それはお客さまのご自宅に優しい気持ちでうかがえるスタッフを育てているからです(笑)。私たちは掃除や料理を売っているんじゃありません。家事の代行は手段であって、創業時からベアーズはずっと笑顔と感動を追求してきました。

これからもお客さまには、部屋がきれいになった、アイロンをうまくかけてもらえてありがとうという言葉だけではなく、「心が穏やかになった」とか「家族の笑顔が美しくなった」と言ってもらえる価値を提供していきたいですね。

岩瀬:家事代行を外注してお金を払うことに抵抗感を感じている人に向けて、一歩踏み出すための言葉を何かかけるとしたら?

髙橋:「あなたは愛する人に最高の笑顔を見せられていますか?」という言葉でしょうか。もし、いまツライと感じているのであれば、家事代行サービスを思い出してほしいです。それこそ心の保険にしてもらって、いつの日か家事代行の存在が心に浮かんできたらそのときが試しどき。笑顔を取り戻せるはずです。

(つづく)

<プロフィール>
髙橋ゆき(たかはし・ゆき)
家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニー株式会社ベアーズの取締役副社長。社内では主にブランディング、マーケティング、新サービス開発、人財育成担当。 同社は2012年テレビ東京「カンブリア宮殿」に出演。2017年には日本初となる「家事代行サービス認証」(日本規格協会)を取得した。家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広働く活躍中。2015年 に世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。2016年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも家事監修を担当した。1男1女の母でもある。座右の銘は「人生まるごと愛してる」
●家事代行のベアーズ

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也