金子亜矢人ベンツェさん(MHDモエヘネシーディアジオ株式会社 ジョニーウォーカー ブルーラベル アンバサダー)

ここ数年、企業広報の分野で話題のブランドアンバサダー。一般の方々からインフルエンサー、さらには著名人まで、さまざまな人が企業やブランドの「大使(アンバサダー)」となり、その魅力を広くPRする役割のことです。

しかし、ブランドアンバサダーは多くの企業が採用している施策である一方、具体的にどんなことをする立場なのか、企業によって定義もバラバラで、ちょっとわかりづらい印象もあります。

そこで今回、日本で唯一「ジョニーウォーカー ブルーラベル」のブランドアンバサダーを務める、MHD(モエヘネシー ディアジオ)の金子亜矢人ベンツェさんをライフネット生命の社内勉強会にお招きし、ブランドアンバサダーの仕事についてお話をうかがった模様を前後編でお届けします。

聞き手は、金子さんの小学校時代の同級生、弊社マーケティング部の肥田康宏です。

■「ブルーラベル」との出会い

肥田:今日は「ブランドアンバサダーって何をする人なのか?」ということをうかがいたいと思っています。もともとは僕がマーケティングの勉強をしているときに、よくブランドアンバサダーという言葉が出てきたんですね。でも、実際に何をするのか、いまいちイメージがしづらかった。

そうしたら、ちょうど金子亜矢人ベンツェさん──小学校の同級生だった亜矢人くんが、今はブランドアンバサダーの仕事をしていると聞いて。それで25年ぶりに連絡をとって、今日来ていただいたというわけです。

金子亜矢人ベンツェさん(以下金子):「ジョニーウォーカー ブルーラベル」のブランドアンバサダーを務めております、金子亜矢人と申します。ご紹介いただいたように、こちらの肥田さんとは群馬県の小学校の同級生でした。よく「ハーフですか?」と聞かれますが、確かにハーフです。ただ、群馬はもちろん、海外でもいろんなところで育ってきているので、自分では「ブレンド」と呼んでいます。いろんな文化や経験がブレンドされて、私になっているということです。

ちなみに、「ジョニーウォーカー」もブレンドのウィスキーです。私のアンバサダーという仕事とは、この「ブレンド」の魅力、それがもたらす価値を伝えるのが役割だと言えます。

肥田:亜矢人くんは2年生のときに海外から転校して来たんだよね。最初の自己紹介でいきなり、「My name is……」と話し始めて教室がざわめいたのを覚えています。

金子:あったね(笑)。しばらく群馬にいてからまた海外に転校するんですけど、ちょっと私の経歴をみなさんにお話します。私はアメリカのニューハンプシャー州立大学を卒業しました。ただ、実は大学3年生のときにスカウトされ、レストランのゼネラルマネージャーとして働き始めています。フルタイムの仕事をしながら通ったので、大学をパートタイムに切り替え卒業するのに5年かかりました。

そのあとで私たちはシカゴスタイルのステーキハウスをボストン郊外に作りました。そこで出会ったのが「ジョニーウォーカー ブルーラベル」です。もちろんジョニーウォーカーというウィスキーのことは知っていましたが、ブルーラベルのことは初めて知りました。そんなお酒が、地元のビジネスマンたちによく飲まれていたんです。そこで興味を持ち、このお酒を日本に広めたいと思ったのが、この仕事に就くきっかけですね。

肥田:そもそも今所属されているMHDとはどういう会社なんですか?

金子:「モエヘネシー ディアジオ」という名前から想像できるかもしれませんが、2つの会社による合弁会社なんです。モエヘネシーとは、フランスのLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)傘下にあるお酒の会社です。こちらはドン・ペリニヨン、ヘネシーなど、高級シャンパーニュやワイン、スピリッツを扱っています。

一方のディアジオはイギリスの会社で、ウィスキーが中心です。スピリッツでいうと世界でもっとも大きな会社です。その両社が日本では「モエヘネシー ディアジオ」という合弁会社になり、シャンパーニュやウィスキーなど、ラグジュアリーなブランドを中心にさまざまなお酒を扱っているというわけです。

■会社よりもブランドに対する愛が強い

肥田:ジョニーウォーカーというと、いわゆる「黒」や「赤」しか知らないという人は、多いと思います。でも亜矢人くんは、ジョニーウォーカーの中でも、ブルーラベルの専属アンバサダーなんですよね?

金子:ざっと説明すると、ジョニーウォーカーとはスコットランド産のお酒で、スコットランドで作っているからスコッチウイスキーになります。そんなジョニーウォーカーは現在、7つのラベルから成り立っています。おっしゃる通り、通称「ジョニ赤」「ジョニ黒」と呼ばれている「レッドラベル」「ブラックラベル」がもっとも有名で、もっとも普及している最初の2つのラベルになります。

そのあとに「ダブルブラックラベル」「グリーンラベル」「ゴールドラベル」「プラチナラベル」と続きまして、ブランドのトップに「ブルーラベル」があります。どうして私がブルーラベルの専属かというと、MHDでは、実はブルーラベルのジョニーウォーカーしか扱っていないんです。残りの6つのラベルは、日本ではキリンビールさんのキリンディアジオという会社が扱っています。

ブルーラベルを名乗れるジョニーウォーカーは、1万樽にひとつしかありません。そうした希少性がありますので、日本国内でのジョニーウォーカーの戦略として、MHDが販売しているというわけです。

肥田:ジョニーウォーカーのブランドアンバサダーではなく、「ジョニーウォーカー ブルーラベル」のアンバサダーというわけですね。さて、ここから僕が聞きたかった本題なんですが、単刀直入に、ブランドアンバサダーって何をする人なんですか?

記事で読んだものでは、著名人をゲストに迎えたイベントをやっていましたが、当然そういう華々しいことを毎日やっているわけじゃないですよね? では、普段は主に何をしているんですか?

金子:そうですね。主には、今やっている「これ」をやっています。全国をまわって、さまざまなお客様にブルーラベルの魅力、価値、そして私の情熱をお伝えする。買っていただくというよりも、ブランドのことを知ってもらい、こういう人がいるんだよということを知っていただく。それが大きいですね。

イベントやセミナーがないときは、社内で営業チームと打ち合わせをしたり、戦略を練ったりしています。あとは都内のあちこちのバーに飲みに行ったり。けっこう飲むことが仕事です(笑)。

肥田:それはうらやましい(笑)。

金子:もちろん市場調査といいますか、日本でどんなウィスキーが飲まれていて、どんな飲み方をされているのか、それを知ることが目的です。ほぼ毎日飲んでいます。飲みに行けないときも、1日1回は必ずブルーラベルを口にするようにはしていますね。

肥田:亜矢人くん自身が誰よりもブルーラベルが好きなんですね。

金子:私は会社に所属してはいるものの、ブランド愛が強いんです。実際、ブルーラベル以外のブランドのアンバサダーの依頼はすべて断っています。

■アンバサダーに欠かせないもの

肥田:最近ではいろんな著名人がブランドアンバサダーに就任することも増えていますよね。彼らと亜矢人くんは、同じアンバサダーでも何が違うんですか?

金子:私はアメリカのステーキハウスで働いていたときに、初めてブルーラベルに出会ったと申し上げました。ボストン郊外だったんですが、地元のビジネスマンたちが仕事帰りに5、6人で来てステーキを食べて、それから2階のバーで飲むスタイルの店でした。そこで彼らは全員がブルーラベルを頼むんですよ。

私より背の高いアメリカのビジネスマンたちが、仕事帰りだからネクタイも緩めて、ちょっといいウィスキーをストレートで飲んでリラックスする。その姿を見て、こういうウィスキーの文化を日本に持っていきたいと思いました。ハイボールで乾杯するのも楽しいけど、こういうかっこいい文化も広めたい。それでレストランの経営をもう一人のオーナーに任せて日本に帰国したんです。

それが私と著名人のブランドアンバサダーの違いです。ブルーラベルに対する情熱があり、そのアンバサダーをしたい、ほかの仕事はしないと決めて帰国しました。

本来のブランドアンバサダーに求められるのは、知識やトークスキルよりも、情熱です。情熱でものすごくいろんなことが左右できるんです。例えば高級車を買おうか迷っている人に対して、その商品に本当の情熱を持っている販売員がコミュニケーションしたら、売れる可能性はずっと高まります。正直に言って、お金で雇われたアンバサダーにこれはできません。著名人のアンバサダーとの一番の違いは、この情熱があるかどうかなのです。

肥田:ざっくり言えば、仕事だけれども、誰にも負けない情熱があるというところが、ブランドアンバサダーのポイントというわけですね。

金子:だから私はテレビに出たい、この仕事で自分が有名になりたいとはまったく思っていません。そしてブルーラベルは広告も全然打っていません。そこじゃないんですよ。本当にウィスキーが好きな人がたどり着いてくれればいいブランドなんです。

ブランドアンバサダーとしての私の役割は、商品の存在を皆様に知っていただくことであって、そこから先は好きなら好き、嫌いなら嫌いでまったく構わない。そういうKPIなんです。私は「ブルーラベルをぜひ買ってください」なんて、一度も言ったことはありません。

価格もそれなりにするお酒なので、今日試しに飲んでみていただいて、もし美味しいと思われたら、特別なときにちょっと思い出してみてください。そして、できればラグジュアリーに楽しんでほしいというのが、ブランドアンバサダーとしての私のメッセージですね。

(後編に続く)

<プロフィール>
金子亜矢人ベンツェ(かねこ・あやとべんつぇ)
1980年米国サンフランシスコ生れ。中学まで日本とハンガリーで過ごし、1995年から米国ニューハンプシャー州へ留学。大学卒業後は米国のレストラン2店舗の総支配人として勤務、ワインとウィスキーの道へと進み、2014年よりMHDに入社。業界での豊富な経験を活かし、現在はジョニーウォーカーブランドアンバサダーとして全国各地でイベントを実施、ブランドの魅力を多くの人々に伝え続けている。
●ジョニーウォーカー ブランドサイト

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン編集部
撮影/横田達也