金子亜矢人ベンツェさん(MHDモエヘネシーディアジオ株式会社 ジョニーウォーカー ブルーラベル アンバサダー)

ここ数年、企業広報の分野で話題のブランドアンバサダー。一般の方々からインフルエンサー、さらには著名人まで、さまざまな人が企業やブランドの「大使(アンバサダー)」となり、その魅力を広くPRする役割のことです。

しかし、ブランドアンバサダーは多くの企業が採用している施策である一方、一般の方々から著名人まで就任する方の立場が幅広いことから、具体的に何をすることを目的にしているのか、ちょっとわかりづらい印象もあります。

そこで今回、日本で唯一「ジョニーウォーカー ブルーラベル」のブランドアンバサダーを務める、MHD(モエヘネシー ディアジオ)の金子亜矢人ベンツェさんをライフネット生命の社内勉強会にお招きし、ブランドアンバサダーの仕事についてお話をうかがった模様を前後編でお届けします。 聞き手は、金子さんの小学校時代の同級生、弊社マーケティング部の肥田康宏です。(前編はこちら)

■アンバサダーの活動を会社はどう評価する?

肥田:前編では、著名人のブランドアンバサダーと、亜矢人くんのような専業のアンバサダーとの違いについてうかがいました。その中で、自分の役割はブランドを知ってもらうことというお話もありました。 ただ、そこで聞きたいのが、「営業としての数字を求められることはないの?」ということです。

ブランドに対する情熱を持って活動しているというのは素晴らしいと思う一方で、「買ってもらわなくてもいい」というくらいのスタンスのアンバサダー活動って、どうやって業績を計るんだろうとも思うんです。

金子:まず、私が社内でどこに所属しているかお話します。MHDでは各ブランドのアンバサダーはマーケティング部に所属しています。つまり営業ではありません。それぞれイベントやセミナーに出て、担当ブランドの普及に努めています。

そのときもKPIは数字では求められません。例えば、「1日のセミナーで何本売れたのか?」ということは問われないんです。それよりも何名の方にコミュニケーションできて、ブルーラベルの魅力を伝えることができたのかを重視します。

私のお話を聞いていただいた方が、しばらく経ってどこかのホテルのバーに行くとします。そのとき、「この前、アンバサダーの人から聞いたお酒を飲んでみようかな」と思い出していただけたら、私の仕事は成功なんですね。それは数字では決して計れません。

だから正直、私がやっているアンバサダーという仕事を、会社が評価するのは難しいと思います。 ただ、営業について行く仕事もあります。

金子:例えば、あるお店にはVIPのお客さまに、普通は店頭に並ばないような特別な商品をご紹介するパーティのような場があります。 私はアンバサダーになって5年目ですが、そういった場で私がお客さまとコミュニケーションをすると、営業チームだけで行うときに比べ、かなり多くの本数が売れます。

もっとも、VIPのお客様にとっては、2万円弱のブルーラベルは非常にお得に感じられているかもしれませんが(苦笑)。

■セミナーに大人数を集めればいいわけじゃない

肥田:今のお話を聞いていると、「BtoC」で数字を求められないのは、営業に同行する仕事ある種、「BtoB」でしっかり数字を出しているというのもあるのかなと思ったのですが、そこはどうですか?

金子:ただ、BtoBだからといって、直接販売する活動ばかりではありません。先日はある有名なバーテンダーの組合でセミナーを行いました。これはバーテンダーたちにブルーラベルに関する知識を深めてもらうことで、そこから結果としてお客さまにも広がっていくことを期待して行っているものです。同じようなセミナーはバーテンダーだけでなく、問屋さんや酒屋さん、あるいは百貨店の営業に向けても行っています。

日本ではジョニーウォーカーといえば、「ジョニ黒」「ジョニ赤」で止まってしまっているので、ブルーラベルの素晴らしさを伝えるだけで、「こんなジョニーウォーカーもあるんだ!」と驚いてもらえます。印象に残りやすいんですね。

肥田:これは僕の仕事でもあることなんですが、同じマーケティング活動でも、明日結果が出る施策と、5年10年を経ないと結果が出ない施策があります。

金子:もちろん費用対効果も大事ですが、できれば1対1で伝えたい。私が今回、肥田さんにお願いしたのは、少人数制にしてほしいということです(実際に普段の勉強会よりも少ない人数で行われた)。

後ろの人が聞こえているかどうか気にしながらでは集中できないし、何より一番大切な情熱が伝わりません。言い方は悪いかもしれないですが、理想は1本釣りなんです。

■ブランドは流行に乗らず、ゆっくり伝えるもの

金子:10名しか集まらない? いいじゃないですか。それでも私とその方々が出会って、パッションを伝えて、こんなブランドがあって、こんな人間がいて、こんなに美味しいと伝えることができたら、それで大成功だと私は思っています。

さっきもお伝えした通り、その方がどこかのバーに行って、「あ、ブルーラベルだ」とひっかかる。それが5年後だろうが10年後だろうが、情熱を伝えることができていれば、そういうことが起きると私は信じています。

ブランドが広まっていくには、時間がかかるんです。一気に成功したとしても、それは流行りに乗っただけであって、あとで必ず落ちてきます。ブランドは徐々にゆっくりと、長く浸透させるものです。

肥田:ライフネット生命の創業者のひとりは、10名以上が集まれば、それが北海道でも会いに行くという活動をしていたんだけど、亜矢人くんもそのぐらいの人数が集まればどこでも行く?

金子:行きます。私も10名以上ですね。それだけいてくださればどんな地方でも行きます。ブルーラベルを広めるために日本に帰って来たのもそうですが、私は開拓されていないところを開拓するのが好きなんです。ブルーラベルという素晴らしいお酒を知らないでいてほしくないんです。

肥田:亜矢人くんはブルーラベルという商品を愛していて、お客さまにその素晴らしさを直接目を見て語りかけたい。そういう活動は、そもそも売り上げで計るものではないということですね。

<プロフィール>
金子亜矢人ベンツェ(かねこ・あやとべんつぇ)
1980年米国サンフランシスコ生れ。中学まで日本とハンガリーで過ごし、1995年から米国ニューハンプシャー州へ留学。大学卒業後は米国のレストラン2店舗の総支配人として勤務、ワインとウィスキーの道へと進み、2014年よりMHDに入社。業界での豊富な経験を活かし、現在はジョニーウォーカーブランドアンバサダーとして全国各地でイベントを実施、ブランドの魅力を多くの人々に伝え続けている。
●ジョニーウォーカー ブランドサイト

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン編集部
撮影/横田達也