馬養(まがい)雅子さん(ファイナンシャル・プランナー)

ファイナンシャルプランナー(FP)の馬養雅子さんは、書籍や雑誌、ウェブ媒体など、執筆活動でもご活躍されています。最近は相談よりも、執筆活動に注力したいのだとか。FPというと、生活者の相談に乗るのが仕事というイメージもありますが、その真意は……?
(前編はこちら)

■徐々に変わってきた保険に対する知識と意識

──馬養さんのもとには、最近はどのような方からの相談が増えていますか?

馬養雅子さん(以下敬称略):これから子どもが生まれる人、これから家を買う人など、大きなイベントを控えた夫婦の相談が増えました。たとえば、「ローンを組みたいけれどこれでやっていけるか」という相談。家を買う人というのは視野が狭くなりがちで、「これじゃ厳しいですよ」と言ってもあまり聞きませんけどね(笑)。

全体的に言えるのは、若い人が早いうちに相談しに来ているということです。家計が火の車になった状態で「何とかしてください」という人はいません。

──若い人が早めに相談に来るようになったのはどういう背景からだと思われますか?

馬養:昔と違って、収入が増えにくくなったことが大きな要因だと思います。家計を改善していかないと大変になるということが分かっている。自分でおおよそ調べてきた状態でFPに「これでいいですか?」と最後のひと押しを求めてやってくる人もいます。

──自分の判断が正しいかどうか、最終的にプロに“答え合わせ”をしてもらうというわけですね。

馬養:そうですね、最近はネットで各社の商品を比較できるし、無料相談なども増えています。事前知識がゼロの状態で相談する人はあまりいません。

──生活者の金融リテラシー、保険リテラシーが高まっているということでしょうか?

馬養:相談に来る人というのは、もともと問題意識の高い人です。世の中FPに相談しない人のほうが多いわけで、実際には問題意識が高くない人もたくさんいます。そのため今後は、こういったリテラシー格差が拡大するかもしれません。どんどん家計を改善する人もいれば、行き当たりばったりでどんぶり勘定でやっていく人もいる。

──お金の運用や管理、税金や保険については、学校で学ぶ機会がほとんどありません。リテラシーを高めるにはどうすればよいでしょう?

馬養:今はFP3級という入門レベルの資格もあります。一般的なリテラシーを身につけるのにはちょうどいい勉強になるので、この資格試験を受けてみるというのも一つの手です。最低限のこととして、どんな公的保障があるかということだけでも知っておいたほうがいいでしょう。たとえば遺族年金がいくらもらえるか、ほとんどの人は知らないと思いますが、「そういうものがある」と知っておくだけでも大きく違います。

──公的保障を埋め合わせる選択肢の一つに、民間の保険があります。生活者の保険に対する考えはどう変化していると思いますか?

馬養:昔は「保険で貯蓄しよう」「掛け捨ては損」と考えている人が少なくなかったのですが、今は掛け捨て型の保険に加入する人が増えています。保険会社の営業職員におまかせして安心するのではなく、保障と貯蓄を分けて考える人が多くなったと思います。ライフスタイルが様変わりしていて、個々の状況に応じて保障を変えなければいけないということについても理解が進んでいます。

■FPなのに相談よりも執筆に力を入れている理由

──馬養さんはフリー編集者だったそうですが、なぜFPに転身されたのですか?

馬養:もともと私は、法律専門の雑誌を作っている出版社で働いていました。その後会社を辞めて独立し、主に実用書の編集の仕事をしていました。パソコン、結婚式のスピーチ、英語、金融、不動産など、ジャンルは多岐にわたりましたが、金融と不動産に関しては知識がなく「ちょっとつらいな」と思っていました。でも、興味自体はあったんです。そこでFPの講座を受けて、CFP(サーティファイド・ファイナンシャル・プランナー)の資格を取りました。

──最初はどのような仕事から始めたのですか?


馬養:郵便局で、お客さんの相談を受ける仕事をしていました。私がFPになった2000年頃というのは、保険会社の破綻があったり、外資の保険会社が参入してきたりと保険業界も大きな節目を迎えていました。選択肢が日本の大手生保だけではなくなったことで、保険の見直しブームのようなものがあったんです。

そのころネット生保はまだありませんでしたが、通販の保険はすでにありました。テレビや雑誌でも保険の見直し特集が組まれて、それを見た方が相談に来られることが多かったように思います。相談に来られた方の中には、自分がどんな保険に入っているか知らない人もたくさんいました。

──現在は執筆活動を精力的にされています。相談と執筆、どのくらいの割合で仕事をされていますか?

馬養:今は相談が2で執筆が8くらいです。FPになりたての頃はまだ編集者としての仕事も続けていましたが、次第にFPとして相談の仕事を中心に受けるようになりました。なぜ今は執筆のほうが多いのかというと、意図的に相談の仕事を減らしているからです。

──馬養さんのご著書を読まれた方は、馬養さんに相談したいのでは……?

馬養:「相談を受けないでFPと言えるのか」という指摘もあるかもしれませんが、私は書くスキルを活かして生活者のリテラシーを高めることに貢献したいと思っています。相談を全く受けないというわけではありませんが、今はFPの数も増えていますし、FPを集めた会社もあります。相談が得意な方に相談してもらったほうが、いいアドバイスがもらえると思います。

──馬養さんは生活者とFPをつなぐ役割として、これからますます執筆活動に励まれるのですね。

馬養:本や雑誌が問題意識を持つきっかけになることもあります。生活者が賢くなれば、いい商品も生まれてきます。私はそのお手伝いができればと思っています。

(了)

<プロフィール>
馬養雅子(まがい・まさこ)
東京都出身、千葉大学人文学部卒業。法律雑誌の編集部勤務、フリー編集者を経て、2000年10月 CFP(サーティファイド・ファイナンシャル・プランナー)の資格を取得。アドバイザーとしてFP業務をこなす傍ら、編集者時代のスキルを活かし、金融商品や資産運用などに関する書籍、記事を多数執筆している。著書は10冊にのぼる。オフィス・カノン代表。ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。アマチュアオーケストラでビオラを弾く音楽家でもある。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/香川誠
撮影/村上悦子