参加者がグループに分かれ議論を交わす。大きな模造紙にはさまざまなファクトや課題が書き込まれていく

「がんと就労」に関する民間プロジェクト「がんアライ部」第2回勉強会では、さまざまな企業の人事担当者が参加し、グループごとにディスカッションをするワークショップを行いました。もし、自社の社員ががんに罹患した場合、会社の規定や慣習で対応できることは何か。また、制度が不十分なところを考慮し、今後対応していきたいことは何か。この2点を話し合い、各グループの気付きを発表しました。

■がんで休むと言われたら? がん治療から復帰したいと言われたら?

今回のワークショップでは、

  • 「38歳・女性職員から、乳がんに罹患したので会社を休みたいと連絡があった」
  • 「52歳・男性職員から、がんの療養を終えたので会社に復職したいという連絡があった」

この2つについて、自社で対応できていること、これから対応していきたいことをグループディスカッションしました。

●休暇制度は?

現状の制度で、がんに罹患した社員をどこまでサポートできるのか。まずは、取得できる休みの期間が焦点となります。

身体に負担の少ない内視鏡などの治療法ですと、1週間程度の休暇があれば十分とのことですので、年次有給休暇で賄えるケースが多いでしょう。問題は、手術や抗がん剤治療などにより長期で休む場合です。

今回の発表では、最大2年間の休職(勤続10年で約2年間)ができる休職期間制度、さらに傷病休職制度を組み合わせれば、最大3年程度の休職が可能といった企業がいくつも見られました。そのほか、特別休暇の積立などが可能な企業もあります。

休暇制度については、「がん治療」に特化したものがあるわけではありませんが、長期休職などの療養に備える制度はすでに整備されている企業があるようです。


●人的サポートは? 勤務体制は?

休職中は、人的サポートとして産業医面談、あるいは人事などの第三者を含めた面談を実施している企業がありました。そのほか、婦人科検診、乳がんや子宮頸がんの検診を会社が全額負担している制度があるという声も上がりました。

それでは、復職後のサポート制度はどうでしょうか。短時間勤務や在宅勤務は多くの企業で導入されているようですが、その主な目的は育児や介護などで、傷病対策には適用されていない企業が多いようです。「時短勤務や在宅勤務を、がん治療中の方にも利用できるような制度にしたい」といった意見が上がりました。

また、短時間勤務制度自体はあるけれど、賃金が大幅にカットされるという理由から利用者がほとんどいない、というケースもあるようです。療養中の賃金規定の見直しも課題のひとつだと言えます。

全般的に、大企業の場合は、制度自体はすでに整っているところが多いようです。しかし、中小企業や零細企業では長期休職や短時間勤務などの制度自体がなかったり、特に少人数の組織では、制度があっても利用しにくいのではないかとの問題も浮かび上がりました。

■課題は、「周知」「運用」「コミュニケーション」

今後対応していきたいことは何か、という点をディスカッションしたところ、いくつかの共通する課題が見えてきました。

●「周知」徹底の必要性

ひとつは、周知の徹底です。がんに罹患した社員のみならず、そもそも上長が社内にどのような制度があるのか把握していないケースがあるようです。

そこで、休暇制度や勤務制度を周知するためのガイドブックの作成、および研修の実施などが必要との意見が多く出ました。

職場の理解を深めていくという部分では、「部下ががんに罹患したらどうしたらいいのか分からない」といった管理職を対象にした研修の実施。逆に、がんに罹患した社員が自身の経験を役立てたいという場合は、意見を共有できる場として社内コミュニティを設置するなどのアイデアが出ました。

●「運用」すること

2つ目の課題は、「制度の運用」です。先にも触れた通り、すでに多くの企業で休暇や休職の制度は整備されていますが、実際はあまり利用されていないケースが多々あるようです。

制度が揃っているのに、なぜ使われないのか。その原因は、周知されていないことに加え、会社が制度の利用を推進していないといった背景もあります。

年間100万人の方が新たにがんと診断されています(国立がんセンター16年予測より)。誰もが「明日は我が身」であるとして、管理職及び経営層が制度の利用を積極的にアナウンスしていくことも考えなければなりません。

●「コミュニケーション」

3つ目の課題は、「コミュニケーション」です。がんに罹患した社員を現場でサポートする上で最も難しいのはメンタルケアではないか、との意見がありました。

がん罹患後の症状、あるいは今後のキャリアプランなど、罹患者にとってはいずれもデリケートな問題です。それを上長と話し合う場合、日頃から信頼関係が築けていなければ、罹患者が心を打ち明けることは難しいでしょう。

普段、上長と部下とのコミュニケーションが業務のスケジュール確認ばかりになってしまい、部下との間でライフプランやキャリアプランの対話がなければ、いざという時に適切なコミュニケーションが取れません。日々の信頼関係をいかに醸成していくかという点が、ひとつのカギとなります。

あるいは、相談しやすい雰囲気を社内に作り出すため、「顔が見える人事」をアピールするという案もありました。すでに実施しているという参加者の会社では、人事部が目安箱のような形で専用のメールアドレスを分かりやすい場所に表示し、社員たちの意見を募っているそうです。

■さまざまな現状と課題、その対策のアイデアがシェアされた

発表の最後に、順天堂大学医学部公衆衛生講座の遠藤源樹准教授と、がんアライ部代表発起人であるARUN代表の功能聡子さん、ライフネット生命社長の岩瀬大輔からまとめがありました。

代表発起人の功能聡子さん(ARUN合同会社代表)

遠藤准教授:「私は、がん治療と就労の両立は働き方改革そのものだと考えています。残業時間の削減、ノー残業デーの導入などと同じように、病気に罹った社員をサポートすることも重要な課題です。それぞれの会社に沿った形で検討し、取り組んでいただくことが大切だと考えております」。

功能さん:「今回の発表のうち、特に印象深かったのは、コミュニケーションの問題です。一人ひとりに個別の対応が必要であると理解していても、具体的にどうすればいいのか分からないといったケースがたくさんあるのではないでしょうか。

治療の副作用が見えやすい人、見えにくい人。職場復帰を目指す人、あるいは、辞職と復職の間で迷っている人。様々なケースがありますので、人事や上長は、対応の仕方に苦慮することも多々あるかもしれません。

しかし、だからこそ、一つひとつ丁寧にコミュニケーションをとっていくことが大切だと思います。

患者の家族の立場である私からお伝えしたいことは、最終的に立ち返るのは当事者自身の意思だということです。周囲の方々は、『他人だから分からない』と諦めるのではなく、分からないながら一緒に働いていく。そういう社会を作っていけたらいいなと思います」

岩瀬:「今、『治療と就労』の問題について、政府も様々な政策を打ち出しています。ところが、ガイドラインを作ったとしても、なかなか周知されないといった課題が依然として横たわっております。

その時、我々企業が変わることによって社会も変わっていくという形も、ひとつの解決策になるのではないかと私は考えています。今回の勉強会も、まさに新しい社会の在り方を皆で模索しながら作っているという印象を受けました。

この動きが、がんアライ部だけの活動に留まらず、日本中の企業に広がり、どうやったら働きやすい社会をつくっていけるのかという議論のひとつのきかっけになればいいなと考えております」

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<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
●がんアライ部

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