左:岩瀬大輔、右:森亮介

ライフネット生命は、2018年6月24日(日)に開催する株主総会とその後の取締役会の決議を条件に、代表取締役社長の岩瀬大輔が取締役会長となり、取締役の森亮介が新たな代表取締役社長に就任することを3月22日(木)に発表しました。

2008年の開業以来、創業者の出口治明氏(現立命館アジア太平洋大学学長)が5年余り務めた社長を引き継ぎ、2013年以来5年にわたって務めてきた岩瀬が、開業10年を迎える節目の年に社長に着任する森の考え方やこれからの抱負を引き出します。

■社長就任の打診は2018年の1月

岩瀬大輔(現社長、以下、岩瀬):今回は、社長を引き継ぐに当たって、ライフネット生命を支えていただいているたくさんのみなさまに、森さんの人となりを知ってもらいたくて、僕がファシリテーターになって、たくさん良いエピソードを引き出そうと思います。さっそく始めましょう。

森亮介(次期社長、以下、森):よろしくお願いします。

岩瀬:まずは、創業者である出口さんと僕が、それぞれ開業から5年ずつ務めてきたライフネット生命の社長を引き継ぐことになった今の心境はどうですか?

森:ありきたりですが、本当に身が引き締まる思いとはこのことだなという感じです。これまで2人が培ってきた良い部分は失うことなく引き継ぐのはもちろん、今後のライフネット生命の成長のためにやらなければいけないことも明確に描けているので、自分の良さを出しながら推進していきたいと思っています。

岩瀬:最初に、社長をやってほしいと打診したのは今年の1月のことでした。

森:そうですね。いきなり電話で呼び出されて。さすがに最初は驚きました。まず岩瀬さんの健康不安が頭をよぎりましたね。

岩瀬:健康不安……僕はまだまだ元気だよ、若いつもりだし。

森:それなりの戸惑いもありましたが、その後よくよく考えてみて、これまでやってきた経験やこれからやりたいこと、そして環境の変化のスピードなども考えると、私がやらなければいけないという使命感が芽生えてきました。自分でも不思議な感覚ですね。

岩瀬:そういう覚悟の決め方も経営者としては申し分ないと思います。あとは、森さんと一緒に仕事をする中で感じた信頼感やこの会社を成長させたいという情熱、そんなところに期待して、社長を引き受けてほしいと考えました。

また、これまでのキャリアで培ってきたコーポレートファイナンスや企業会計の経験に加えて、保険数理やリスク管理の知識、さらには保険業法、約款や事業方法書などの法令面の理解など、幅広い分野における高い専門性を兼ね備えていることも金融機関の経営者としては頼もしいと思っています。直近は営業本部長として、今年度の新契約の増加を担ってもらっていますね。

森:改めて面と向かって言われると気恥ずかしさもありますが、期待にお応えできるよう全力でがんばります。昨年4月から営業本部長となって、少しずつ成果を挙げられるようになってきたと考えています。特に、昨年8月のがん保険の発売に照準を定めて営業本部一丸で準備をして、それ以降の成果に繋がっていることはとてもうれしいです。もちろん、今後も岩瀬さんにいろいろサポートや指導をいただきたいと思っています。

岩瀬:もちろん僕は会長としての立場で、森さんをはじめ経営陣も会社もサポートしていくので、何でも相談してほしいです。ただし、任せた以上、必要以上に口出しすることは控えたいとは考えています。代表権は森さんにあるわけだし、最終的な決断などその方が指揮をとりやすいのは間違いないから。

■ライフネット生命入社のきっかけ

岩瀬:ライフネット生命に入社したのは2012年でした。ゴールドマン・サックス証券(以下、GS)から転職してきてくれて。そのあたりの経緯をもう一度聞かせてもらえますか。

森:GSでは投資銀行のバンカーとして働いていて、保険セクターも担当していたので、ライフネット生命のことは開業時から注目していました。業界経験の長いベテランのおじいさんとフットワークが軽そうなハーバードMBA卒のお兄さんで新たなチャレンジをしているなと。

岩瀬:フットワークが軽そうなハーバードMBA卒……。

森:当時私はすごく激務で、それぐらいの情報量しか持ち合わせいませんでした。

岩瀬:投資銀行と言えば、そんなイメージですね。

森:本当に忙しかったんですが、仕事は楽しんでいたからそんなにイヤでもなかった。ところがちょうど長男が生まれたタイミングの時に、家族のことや仕事のことも含めて、どうやって生きていくか、ライフスタイルを改めて考えました。そこで、心機一転、新たなチャレンジをすることも悪くないかなと考えたことが入社のきっかけです。

岩瀬:でも、2012年当時のライフネット生命は社員も100人いないくらいだし、GS時代よりも忙しくなることは想定しなかったのでしょうか?

森:どんなに忙しくても前職を上回ることはないかなとタカをくくっていたことに加えて、入社前に話をした社員が楽しそうに仕事をしていたので、大丈夫だろうと思いましたね。みんなが楽しそうに仕事することは、今でもライフネット生命の会社の強みじゃないですかね。

■KDDIとの資本業務提携のタフな交渉

岩瀬:それで上場間もないタイミングで、当時の企画部に加わってもらいました。最初の仕事は何だったか覚えていますか?

森:今は大株主になったSwiss Reとの交渉など、対外的な案件を中心に担当しました。自分のそれまでの経験やスキルが非常に活かせると同時に、ライフネット生命の物事の決め方や生命保険会社としてのルールなども理解できたので、とても重要な経験でした。

岩瀬:確かに生命保険会社は規制もあるし、さまざまなリスクも勘案して決定する難しさもありますね。

森:あとは全社的なコスト削減活動も中心になってできたことは非常に大きかったと思っています。

岩瀬:社内で行った「生産性向上コミッティ」のことですよね?

森:当社が保険会社として業界に一石を投じることができたのは、生命保険という商材のコストを明らかにしたこと、さらにそれを適正水準にしようという動きだったと考えています。だから、その源泉を「生産性向上コミッティ」という会議を通して社内横断で徹底的に見ることができたことは、その後の戦略を考える上でも良い経験になりました。

岩瀬:その後は企画部長として、KDDI株式会社との業務提携にも携わってもらいました。

森:そうですね。2014年あたりは新契約業績が下降トレンドを脱せずに大変な時期でした。岩瀬さんも社長として気が気じゃなかったんじゃないですか。

岩瀬:そうですね。それまで右肩上がりでやってきたことが、変わってしまったわけだから。前向きにいろいろな施策を検討して実行していたし、いつかは下げ止まるだろうと思っていたけど、なかなか思うような結果が出ない。そういうビジネスの怖さを改めて痛感した時期でした。そんな中、KDDIとの交渉を進めていきましたね。

森:協業だけでなく、資本提携の交渉もあった上に非常に短期間だったので、タフな交渉でした。こういう話は何かのきっかけでいきなりスピードアップすることがあるというのは、これまでの経験でわかっていたことではあったのですが、それでも短かった。

岩瀬:あの短期間でうまく交渉をまとめたことは森さんの真骨頂じゃないかな。

森:ひとえにメンバーのチームワークの賜物です。社長就任のお話を受けたときに、その当時を思い出して、これからさらに提携の目的をしっかりと実現していかなければならないと、改めて強く思いました。

■辞表を胸に社長と直談判

岩瀬:ライフネット生命でもっとも印象に残っている出来事は何ですか?やはり、同性パートナーのときのあの件かな……。

森:岩瀬さん、その話好きですね(苦笑)。今となっては、若気の至りだったなと反省もしているところです。

岩瀬:2015年に当社は死亡保険の受取人として同性パートナーを指定できる取扱いを業界に先駆けて発表したわけだけど、森さんは数年にわたってこの案件を社内で推進していたメンバーのうちの1人でした。

森:そうですね。このように保障が必要なお客さまがいるにも関わらず、他社がなかなか手がけられない取組みこそ、当社がやるべきだと今でも思っています。

岩瀬:この話は森さんの人間性を語る上での重要なエピソードですよね。当時はリスクをうまく評価できなくて経営陣でも踏ん切りがなかなかつかず、何度も何度も継続検討となって決定できない時期が続きました。

森:私たち検討チームからすれば、リスクも許容できることは説明できていたし、外部環境も追い風でした。実施できない理由はない状況だったので、とても煮え切らない思いを持っていました。

岩瀬:そんなある日、僕のところへ直談判に来たことがありました。胸に辞表を忍ばせて。その決意に、はっとさせられたというか、ちょっと弱気になっていた僕にも喝を入れてくれたようなところもあって。その後、役員会での議論も前向きになってきて、実行に至ったという経緯でした。

森:そうですね。何より長年にわたってたくさんの同僚を巻き込んで検討してきた努力が報われてうれしかったですね。あと、当社が投げ込んだ一石が業界全体に広がり、いろいろ相談していたセクシュアルマイノリティの当事者のみなさんが一様に喜んでくださったことも非常にうれしかったですね。

■ヒーローショーに熱狂

岩瀬:少し仕事を離れた話をしましょう。経営者は仕事で重要な決断をするために、体と心のバランスを維持することが大事だと個人的に考えていて、僕はジャズを聴いたり、文楽を見に行ったり、ランニングをしたりと、自分なりのストレス解消法を持っていますが、最近何かハマっていることはありますか?

森:20代の頃がモーレツ仕事人間だったこともあってこれといった趣味がある訳ではないのですが、あえていえば休日の家族サービスですね。子どもも大人も楽しめそうな場所やイベントを見つけて、家族を連れ出す計画を立てているときはとても幸せですね。

岩瀬:確かに、夏休みに開催している会社のファミリーデーにも毎年欠かさずご家族を連れてきていますよね。最近はどんなところへ行ったのでしょうか?

森:おもしろかったのは、長男がウルトラマンシリーズの大ファンなので見に行ったヒーローショー。最近のショーは完成度が高くて大人も楽しめるんですよ!! けっこう衝撃を受けました。

岩瀬:仕事の話よりも前のめりですね。家では怪獣役とかやってそうですよね。モリタン星人とか言って。

森:やってますよ、いつもやられ役です。上手にやられるのって難しいですよ。

岩瀬:じゃあ、好きな街とかはありますか?

森:この間行った福島が印象に残っていますね。震災当時、私はニューヨークに赴任していて、日本にいませんでした。直接体験していないので、その分いろいろ考えさせられました。

岩瀬:なるほど。家族との時間でも、好きな街に行くでも、自分なりのリフレッシュ方法はぜひ見つけておいた方が良いと思います。

■「インターネットの生命保険会社」から「生命保険のインターネット企業」に

岩瀬:ライフネット生命は今年で開業10年。開業してからできるようになったことも、未だにできていないこともあるけど、社長として今後どのような会社にしていきたいと考えていますか?

森:私はライフネット生命を「インターネットの生命保険会社」から「生命保険のインターネット企業」に変革していきたいと考えています。

岩瀬:その考えの理由はどういうことですか?

森:開業から10年間は言うならば「0(ゼロ)から1を生みだす」ステージだったと考えています。これまでのライフネット生命におけるインターネットの活用方法は、生命保険をお客さまにお届けする手段のひとつだったと認識しています。これからは、「1を10にする」すなわち大きく成長させることが求められています。それを実現するためには、インターネットの活用方法をちょっとずつ変えていかなければならないと考えているので、「生命保険会社」から「インターネット企業」への変革が不可欠です。

また、当社が置かれている生命保険業界は、歴史のある大きな会社ばかりです。その中で当社が同じような業態で留まっていては到底かなわないので、独自の価値を創出することも不可欠です。そのためにも、スピード感やカルチャー、さらにはお客さまとの関係性も今の時代に即したものを追求していきたい、そんな思いも「生命保険のインターネット企業」という言葉に込めています。

岩瀬:お客さまにとってはどのような会社でありたいですか?

森:これまで掲げてきたとおり、当社のマニフェストにある「正直に わかりやすく、安くて、便利に」というお客さまへの提供価値はこれからも守り続けていきたいと考えています。保険は金融商品ですから、お客さまにとっては難しく理解できない側面も少なくないことは認識しています。

だからこそ、テクノロジーを活用したり、新しいアプローチを考えたりすることで、お客さまにこれまで以上に喜んで選んでいただけるような商品やサービスを提供する会社であり続けたいですね。それこそがライフネット生命の価値であり、存在意義であると心の底から強く思っています。

岩瀬:ありがとうございます。経営者にはそういう熱意がすごく大事なんです。では、最後にいつもライフネット生命を応援してくださっているみなさんに一言お願いします。

森:社長という大役を任されることになり、身が引き締まる思いでいっぱいです。年齢的にはまだ若いと言われることもあると思いますが、これまでの経験からお客さまのために自分がやらなければいけないこと、会社としてやるべきことはとても明確なので、まずはそれを実現できるよう、全力でがんばります。

そのためには、ご契約者のみなさまを始め、お取引先、株主や投資家のみなさま、そして社員のサポートは絶対に不可欠だと考えています。どうか引き続きご支援いただけますととてもうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

岩瀬:6月の就任に向けて、改めて自分がイメージする社長像をよく考えてみてほしいですね。新しいライフネット生命の成長に向けて一緒にがんばっていきましょう。

森:はい。引き続き、多くのみなさまに応援していただける会社を作っていきたいです。

<プロフィール>
岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
1976年埼玉県生まれ。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。

森亮介(もり・りょうすけ)
1984年愛知県生まれ。2006年に京都大学法学部を卒業後、2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。投資銀行部門において、生命保険会社を含む金融機関に対する財務アドバイザリー業務に従事。2012年にライフネット生命保険株式会社入社。企画部長、執行役員を経て2017年6月より現職。

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン編集部