マーティ・フリードマンさん(ギタリスト・ミュージシャン)

■日本の季節感覚がうらやましい

――ライフネット生命は開業して10年の若い会社で、加入されている方も若い方が多いんですよ。

マーティ・フリードマン(以下マーティ):今日は保険会社のインタビューと聞いて、うれしかったんです。飛行機で隣の席に座った人に「もしかして、あなたはミュージシャンじゃないですか?」と聞かれるたび、「あ、違います。僕は保険セールスマンです」と答えているので(笑)。飛んでる間、次から次に質問されるのも、ちょっと困るから。このインタビューが出たら、「ほら、ウソじゃないでしょ」ってことになるんじゃないかな。

――プロフィールに「ギタリスト・保険セールスマン」と書いておきますか。4月は、新しく社会人になる人たちがスタートを切ったり、新しいメンバーと仕事を始める季節です。そういう方たちに向けて、マーティさんに「新しい気持ちでがんばって」と背中を押してもらうようなお話をお聞きしたいのですが。

マーティ:2004年から日本で暮らして14年ですが、食べ物の旬、衣替え、恋の季節のモテ期とか、日本人は体の中に、季節を感じるセンサーがあるんですね。その感覚って、いいなと思います。アメリカはまったくないので、うらやましいです。

冬でもコートと半袖の人が両方歩いているアメリカからすれば、ある日一斉に、学校や職場で着るものが替わるなんて、すごいことです。そういう日本人なら当たり前の季節感覚が、僕も日本に長く暮らしたら「来るか!」と期待してたんですが、14年経ったのにまだ来ない(笑)。「近ごろ、イチゴはなぜスーパーで売ってないの?」と聞いて、「だって、いま季節じゃないでしょ」と言われると、周りで自分だけ物が見えていないみたいで、とても残念です。

――季節感からいえば、4月は新しい仕事や人間関係が始まる季節という感じなんですね。

マーティ:わかりました……日本の旬や季節感覚がよくわかってない僕ですが、みなさんにアドバイスするとしたら、「4月だけじゃなく、仕事は1年中、がんばらないといけないよ」と申し上げたいですね。「“4月は新しい季節の始まり”という感覚があるなら、より一層がんばりましょう」ということかと思います。

■大人になってから、日本語を猛勉強した

――マーティさんというと、大変日本語がお好きなことで知られていますが、アメリカにいらした頃は、全米の大学生が集まる日本語弁論大会に出場して第2位になられています。当時はすでに世界的な大スターでいらしたのでしょう? 

マーティ:そう、僕のほかの出場者は日本語を専攻する大学生たちでした。考えてみれば、ヘンだよね。

日本語は完全に“趣味”でした。僕が日本語の勉強を始めたのは、毎年250本ライブをしていた頃です。毎日移動が続き、楽屋での待ち時間も多いし、趣味がないと大変だったんです。他のメンバーもそれぞれ本を読んだり、ビデオゲームをしたり……僕はもともと、国語が好きだったし、初来日はとても感動的な経験でしたから「あいさつぐらい日本語で覚えたほうがいい。感謝を直接、伝えたいな」という趣味レベルで始めました。

アメリカでは、オクラホマ大学だけが日本語の通信教育をしていたので、それを受講して、ツアーしながら勉強しました。少し身に付いてきたら、実際、使ってみたくなった。日本に来て「あ、看板読めるじゃん」「注文したら、ちゃんと頼んだものが来たよ」と達成感の中毒になって、どんどん日本語をがんばりたくなりました。

――マーティさんのような音楽家は、耳の感覚が普通の人とは違うので、語学の上達も早いのだろうと思います。

マーティ:それ以上に、日本語を勉強すると、日本人が励ましてくれたことが大きいです。英語を勉強したからって誰も励ましてはくれないけれど、日本人は圧倒的に褒めてくれたんです。

――マーティさんが日本語を勉強して下さると思うと、日本人はやっぱりうれしいですよ。


マーティ:僕は小学生の頃、父の仕事の関係でドイツで暮らしました。だからある程度、ドイツ語をしゃべるんですが、ドイツでがんばってドイツ語をしゃべっても「ああ、そう、しゃべるんだね」という感じで、すぐ英語に会話が切り替わったりする。でも、日本だと「ドウモアリガト」と言っただけで会う人、会う人、すごく励ましてくれたから、「この人たちをがっかりさせたくない」と思って、それが原動力につながった。

日本語学習に役に立つ資料やDVDを渡してくれたり、初期の頃は特にそういうことが多かったです。

■「超やりたくないこと」は、100%レベルアップのチャンス

――大学の弁論大会に出ようと思われたのは、なぜですか?

マーティ:弁論大会はアリゾナ大学で行われました。その頃アリゾナに住んでいたので、「全州の大学がみなアリゾナに集まって、日本語を競い合う。これはがんばるチャンスじゃん。逃したら損だ」と思ったんです。大学生が対象なので、大学に入学して、日本人の軍隊みたいなおばさんの先生の授業にも、仕事をやりくりして出席して(笑)。

誰にやれと言われたわけでもないけれど、すごく大きなチャンレンジだから、レベルアップのためにやるかやらないか、そこで人間が分かれるなと。相当難しいから「超やりたくない」んですよ(笑)。でもこれをやったら、100%日本語は上達する。やらないよりはね……。

――自由テーマで弁論するんですか?

マーティ:そう。でも競争だから、人より面白いテーマじゃなきゃ。日本のアニメ、着物文化、武士道についてとか、そういうことを取り上げた人が多かったけど、ちょっと当たり前すぎるでしょ? 僕は、とにかく深い話にしたいと思って、「どうして人は国際結婚するのか」ということをテーマに話しました。

僕は完全にバタくさいアメリカ人なのに、どうして日本人の女性に興味を惹かれるのか? 同じアメリカ人でも、友達はラテン系の女性が好きで、もちろん女性からもそれぞれ好みがあるでしょう。僕がアメリカで育ってきた過程の中では、日本人に興味を持ったり、好きになる土壌はゼロでした。だから「日本人が好き」という感情はコントロールできないものなんです。

みんなそれぞれの理由はあるんだろうけれど、そうやって少しずつ、いろんな人種が国際結婚をして混ざり合う。神様がいるとして、最終的に人類全体が、一つの大きな円みたいになって結び付くために、僕みたいな“架(か)け橋的な人たち”がいるのかな、という内容です。

――うーん、ユニークなテーマですねえ。それはなぜなんでしょうねえ。

マーティ:もちろん答えは出ないんですけど、「すごく大きな目的のために、そう在るんじゃないですか?」と問いかけて、みんなに考えてもらうようなテーマにしました。

事前審査のために、本番でスピーチする原稿を、原稿用紙にペンで清書して提出するんです。ホワイトは不可だから、一字でも間違えたら、最初の一行目からやり直し。審査を通ったら、弁論大会ではその原稿を丸暗記して、寸分たがわず5分以上スピーチするんです。

■「褒め言葉はすぐ忘れるようにしています」(笑)

――5分も! それは厳しいですね。でも、全米第2位という結果もしっかり残されました。

マーティ:本当に厳しかったですよ。原稿に誤字・脱字があれば、減点。実は当時のほうが、いまより自分の手で漢字がよく書けました(笑)。読むのは、いまのほうがよほど読めるんですけど、書くのはパソコンやスマホで出てくるから、住所くらいしか書けない。あとはサイン会のときに添え書きのお名前を書くぐらいかな。

相手のお名前をその場で間違えないように書くのもいい勉強ですが、さいとうさんは、斉藤さん、斎藤さん、齋藤さん、いくつもバリエーションがあるのでいまでも難しいです。

弁論大会の原稿のために、日本の子どもと同じように、何百回も漢字を紙に書いて覚え、日本語の文字もだいぶきれいに書けるようになりました。かなり苦労しましたが、その成果はあった。だから、みなさんにアドバイスできることは、「目の前にチャレンジすべきことが出てくるのはありがたいことです。チャレンジの機会を逃してはダメ」ということ。心からそう思います。

――マーティさんの日本語への情熱は本当にすごいです。いまでもいつも「うまくなりたい」「日本語がペラペラになりたい」と言われていますし。

マーティ:なのに、うまくならないんですよ! 自分がつねに意識しないと、これ以上、うまくならない段階に差し掛かりました。たとえば関西弁バリバリのテレビ番組に出ると、相当集中しないと理解できない。「マーティは日本語だけで仕事できるんだね」と褒められると、「そのお気持ちはありがたい」と思います。でも、そこに甘えちゃいけないなと思って、褒め言葉はすぐに忘れるようにしています。

でも、完璧にはなれないこと、一生マスターできないこと、それもまた、刺激になるのかなと思うんですね。たぶん、完璧にはなれないからこそ、諦めないんじゃないかな……ゴールがないってことは、サバイバルだということ、これは仕事でも同じなんじゃないかな。

(後編に続く)

(写真提供:ハウミック)

<プロフィール>
マーティ・フリードマン
アメリカ・ワシントンD.C.出身。世界的ロックギタリスト。来日公演を通じ、日本とJ-POPが好きになり、独学で日本語を学び始め、アリゾナ州立大学で行われた全米日本語弁論大会で第2位に。2004年、活動の拠点を東京に移す。音楽活動のほか、数々のTV出演で音楽ファン以外も魅了するマルチ・アーティストとして活躍中。2017年、文化庁より日本をPRする日本遺産大使に任命される。昨秋から世界ツアーを開始、アメリカに続き、この4月に南米ツアーを行った。

●ライブのお知らせ
Marty Friedman Special Live Project Vol 3
初夏の宴「Glorious Summer Music」
2018年6月29日(金)18:00開場/19:30開演
ラドンナ原宿 03-5775-6775 全席指定 ご予約はこちら⇒
●マーティ・フリードマンWEBサイト

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
撮影/横田達也

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