マーティ・フリードマンさん(ギタリスト・ミュージシャン)

■ツールが増えて、音楽を楽しむチャンスが広がった

──今年の3月から動画配信サービスで全世界配信の始まった日本のアニメーションシリーズ『B: The Beginning』(ビー ザ ビギニング)のテーマ曲がマーティさんで、とてもかっこいいですね。ここ10年ほどで、インターネットやスマホ・タブレットによって音楽の楽しみ方、映像の楽しみ方が変わってきています。マーティさんはこの現状をどうお考えですか?

マーティ:音楽のことでいえば、エンドユーザーとして音楽を聴いている人は何も変わらないと思いますね。人生の中で音楽は必要なもの、受け取り方だけが変わる。受け取り方の変化は、人類の最初から、つねに変わって来たことでしょう? 

『B: The Beginning』の主題歌「The Perfect World」を始め、マーティさんが全曲ギター、作曲、プロデュースを務める『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』 写真提供・ハウミック

定額制で音楽配信をする新しいプラットフォームが出現して、どこにいても聴けるのはいいんですけど、本当に音楽が好きな人は家で聴く。家で聴くには、アナログが一番、音が美しい。だから、アナログがいままたブームになっています。

家で、ジャケットからレコードを出して、ターンテーブルにのせて、針を落として、あったかい音を聞くのは、電車の中でスマホで音楽を聴くのとはまったく違う。僕自身、時間潰しには、デジタル音楽配信のプラットフォームは大好きだし、すごくありがたい。
思い立った瞬間、すぐに新しい音楽を調べられるのは最高に便利です。移動のときの楽しみ方、家で寛いだときの楽しみ方、何よりオプションが多くなりました。

■13歳で音楽を“発見”した

──私の友人は、スマートスピーカーを自宅に導入したことによって、家で音楽を聴く時間が増えたというんですね。テクノロジーで、家の中に音楽が増えた、チャンスが増えた気がすると。

マーティ:その通りですね。日本人は音楽に対する気持ちがすごく深い。学校でほぼみんなが楽器に触ったことがある。それが当たり前なんですけど、アメリカでは当たり前じゃないです。音楽の授業でも楽器は触らない。

僕の記憶だと、音楽理論が中心で、とにかく地味。音楽の授業はきらいでしたよ。卒業に音楽の授業は必須でもないので、生徒たちも全体の半数以下しか出席しません。

──マーティさんは高校生のときから、ミュージシャンとして活動されてきましたが、音楽を自分の仕事にしようと思われたのは早い時期ですか?

マーティ:はい、13か14歳のときです。音楽に惹(ひ)かれた最初から「これしかない」と思いました。その頃は“スポーツ命”で、バスケットにアメフト、野球もしていました。でも、アメリカでは僕は体が小さくて、体格に恵まれていないから、スポーツでがんばっても限りがある。超下手ではないにしても、人より上手にはらならない。
周りの反応も、「へえ、思ったより下手じゃないね」という程度だったから、「これは絶対、仕事としては無理だな」と。

そういうときに、音楽を発見しました! 音楽を発見してからは、音楽以外に興味はなかった。まあ、その年頃の男の子らしく、スポーツ最優先で過ごしてはいましたけれど。

──日本を拠点にしていることの不便はないですか?

マーティ:不便はまったくないですね。日本は地球上のどこよりも便利で快適な場所です。コンビニエンスストアの店員さんたちの接し方も何もかも……。でもたった、一つだけ、好きになれないものをあげるとしたら、自転車のブレーキ音ですね。

──あのキキキーッという音ですか?


マーティ:僕は日本のことをすごく理解できていると自信があるのに、あれだけは理解できない。日本は世界一、他人に迷惑をかけない文化なのに、あの音は非常に不親切だと思いますねえ。お願いだから、みなさん、ブレーキの金具に油を差して下さい(笑)。

■向いてるかどうかは生理的なもの

──日本でいやなことはそれだけですか?

マーティ:そうです。僕は毎日、音楽をやっていますが、僕の道具は「指」ではなくて「耳」。だからすごく敏感なんです。仕事の前に大音量を聞くと、すぐに影響が出ますし、高音域が削られると、感覚がダメになります。あのブレーキ音は高音域に差し障ります。

僕はブレーキ音だけは理解できないんですけれど、日本のいろいろな概念を理解できるかどうかは、生理的、本能的に日本に向いているかどうかに懸かっていると思いますね。

いくら勉強して、日本語を流暢に話したり、文法も漢字も完璧、日本の歴史がわかっていたとしても、抽象的なコンセプト──日本人は他人に絶対に迷惑をかけないとか、同じ釜から飯を食うことを大事に思うとか、言葉でわざわざ表現されない、あいまいな日本社会のルールは、生まれつきでないから、理解できない外国人が多いです。いくら日本が好きでもね。

笑うツボにしても、アメリカと日本では違う、イギリスとも違う。これがこう面白いんだよ、と説明されても、心底、笑えないでしょう? だから理解できるか理解できないか、僕も全部はわからないけど、他の外国人よりは日本を理解していると思います。それは勉強だけによらない、生理的な何かなんです。

──マーティさんとは言葉を使っているんだけれども、ハートで話してる感じがします。すごく自然で、黙っているときも何か話しているような気がします。

マーティ:ああ、そう受け取ってくれるのは、すごくうれしいです。

■「プロならアホみたいにがんばってるよ」(笑)

──今年4月は昨秋に続いて、世界ツアーで南米を回られるんですね。そのあとのご予定はいかがですか?

マーティ:日本でのライブもやります。全世界ツアーは続きますが、日本でのライブもやります。拠点は日本なんですから、日本でいっぱいライブをやりたいです。

写真提供・ハウミック

──音楽活動のほかにも、異業種とのコラボレーションや、テレビやラジオ番組への出演など、多彩なお仕事をされているマーティさんですが、仕事を選ぶときの基準は何ですか?

マーティ:一番やりたいのはライブ、二番目がレコーディングや曲作り……僕はなんでもやりたいと思いますが、それ以外は、信頼するマネージャーの判断です。日本遺産大使、東京マラソンのスタート地点でのギター演奏、お寺での節分の豆まきなど、自然と日本理解が深まるように向けてくれます。ただ、仕事としてはライブが最優先。僕の本業は“演奏”ですから、それ以外のことをやりすぎると、あんまりうれしくはないですね。

──「毎日、音楽することは、歯を磨くように自然なことだから、努力とは感じない」と別のインタビューで言われていました。

マーティ:僕以外のミュージシャンもそうだと思いますが、プロならアホみたいにがんばってるから(笑)、ことさら「がんばってるぞ!」とは意識しないんでしょう。でも、テレビ番組で料理をするとか、政治について講演をするとか、自分の経験にないことを求められると、努力しなければできない。レコーディングやコンサートといったパフォーマンスは本業だから、苦にならないのだろうと思います。

その他のことは、「やらないより、やったほうが日本語がうまくなるかなあ」と。やっぱりそこに行きつくんですね。こうした取材でも、ラジオ出演でも、僕が最初に独学で日本語を勉強し始めた頃の状況に比べたら、とても恵まれていますよ。他の日本語を学習する外国人は、語学学校に通い、自分でこつこつ勉強してるのに、僕は日本の面白い、いろいろな世界の方たちに囲まれて、会えて、話せて……。

ですから、日々の生活では、自分がガイジンだとは全然意識していないんですけれど、「日本語はもっとうまくならなければいおかしい」と毎日、思っています。みなさん、これからもよろしくお願いしますね(笑)。

(了)

 

(写真提供:ハウミック)

<プロフィール>
マーティ・フリードマン
アメリカ・ワシントンD.C.出身。世界的ロックギタリスト。来日公演を通じ、日本とJ-POPが好きになり、独学で日本語を学び始め、アリゾナ州立大学で行われた全米日本語弁論大会で第2位に。2004年、活動の拠点を東京に移す。音楽活動のほか、数々のTV出演で音楽ファン以外も魅了するマルチ・アーティストとして活躍中。2017年、文化庁より日本をPRする日本遺産大使に任命される。昨秋から世界ツアーを開始、アメリカに続き、この4月に南米ツアーを行った。

●ライブのお知らせ
Marty Friedman Special Live Project Vol 3
初夏の宴「Glorious Summer Music」
2018年6月29日(金)18:00開場/19:30開演
ラドンナ原宿 03-5775-6775 全席指定 
ご予約はこちら⇒

●マーティ・フリードマンWEBサイト

●アルバム発売のお知らせ
3月2日から全世界で動画配信されているオリジナルアニメ「B: The Beginning」のイメージアルバムに、マーティさんがプロデューサー、ギタリストとして全曲参加。MAN WITH A MISSIONのジャン・ケン・ジョニー、RIZEのKenKen、biSH、Koie(Crossfaith)、 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、上田剛士(AA=)、松隈ケンタ、ピエール中野(凛として時雨)、山葵(和楽器バンド) 、各氏が参加しています。
【iTunes】
【AppleMusic】
【Spotify】

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
撮影/横田達也

Powered by ライフネット生命保険

人生と仕事とお金について考えるメディアライフネットジャーナル オンライン 公式Facebook