保険料を半分にして、安心して子どもを生み、育てることができる社会を作りたい──。そんな理念のもと、ライフネット生命は設立されました。今年はそれから10周年。この節目に当社の歩みを駆け足で振り返っていきたいと思います。

■iPhone日本上陸の年に開業

始まりは2006年。出口治明と岩瀬大輔という親子ほど年の離れた2人が、ライフネット生命の前身である「ネットライフ企画」を設立。「ネット生保」という言葉すらなかった時代に、「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な保険商品・サービスを提供する」というマニフェストを掲げ、74年ぶり戦後初の独立系生命保険会社として、2008年5月18日に営業を開始しました。

「インターネットで保険は売れない」と言われた中での開業でしたが、当時はちょうど、世界のネット界に大きな変化が起こっていた時期でもありました。

象徴的だったのは、この年にアメリカで発表された「iPhone」が日本に上陸したこと(発売は7月11日)。当初は一部のガジェット好きに支持される程度でしたが、翌年9月発売の「iPhone 3GS」から使い勝手が大幅に改善され大ブレイク。

その一方で、PCのブラウザーにおいては「Internet Explorer」より前から存在し、1990年代にはネットユーザーに広く普及していた「Netscape」がiPhoneと入れ替わるようにサービスの提供を終了するなど、デジタルコミュニケーションの中心が「パソコン」から「スマホ」へと変わり始めた瞬間でした。

当時のフューチャーフォンサイトの画面

これから人々はより気軽にネットで交流し、モノを買い、保険だって契約するようになるはず……。その頃はまだ予感めいたものしかなかったですが、それでも開業1周年には携帯電話(フューチャーフォン)から保険の申込みを受け付けるモバイルサイトをスタート(サービスインは2009年6月1日)。

一方、2008年11月21日には、それまで非開示が一般的だった生命保険の付加保険料率の全面開示を実施。業界に風穴を空ける試みとして大きな話題を呼びました。

この頃はインターネット業界だけでなく、あらゆるところで「変革」ブームが起きていました。例えば、2009年には民主党に政権交代、アメリカではオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞するなど、リーマンショックに端を発した世界的な停滞ムードを打破するものとして、「新しいもの」に対する期待感があふれていた時代でもあったのです。

こうした機運はライフネット生命にも追い風になり、徐々に契約数を伸ばしていきました。

■「働けなくなるリスクに備える」という新しい保険

経済が低成長となり、所得水準が低下する中、ライフネット生命は次なる一歩として、「働く人への保険」の提供を始めます。2010年2月26日に発売したこの保険は、日本の生命保険業界では初となる本格的な個人向け「就業不能保険」でした。

就業不能保険「働く人への保険2」のサイト

この就業不能保険ですが、世界的には珍しいものではありません。被保険者が病気やケガで長期にわたって働けなくなった際に、毎月のお給料の代わりのように給付金が支払われるのが「就業不能保障保険」であり、欧米では「ディサビリティ」と呼ばれ、多くの方から支持されています。

当社は立ち上げから2年で「ネット生保」というカテゴリーを創出しただけでなく、それまで日本に普及していなかった新商品の提供も始めました。

しかし、当時の日本では同保険の加入率はまだ1%未満。当社はこの状況を変えたいと考えました。その理由について岩瀬は、「働けなくなるリスク」というブログ記事に次のように記しています。

実際は「働けなくなるリスク」は、無視できない大きさです。例えば、生活保護開始の主な理由を見ていると、約4割が「世帯主の傷病」となっています。つまり、傷病によって収入が途絶え、貧困に陥るリスクが顕在化しているのです。

さらに、新しい時代環境として、結婚が遅くなり、独身世帯が多くなっている(30代前半でも男性47%、女性32%)ことも、死亡保障よりも、長期の就業不能リスクが高まっていると考えます。(中略)

就業不能に備える保険は、まだあまり一般的ではありません。しかし、上で見たように、このリスクは、すべての就業者が備える必要があるものだと思います。

(2010年2月12日 岩瀬大輔ブログ「生命保険立ち上げ日誌」より)

■未曾有の災害で急速なスマホシフトが進む

開業から保有契約数1万件までは1年3か月を要したものの、その後は「変革」に対する時代の期待感を背景に保有契約の増加スピードが加速。5万件突破からわずか1年弱の2011年12月6日には、保有契約数が10万件を突破しました。開業から約3年半での達成であり、翌年には東証マザーズ上場も果たします。

インターネットの普及により商品やサービスの「わかりやすさ」や「安さ」が厳しく評価される時代の中、主に20代、30代の子育て世代を中心に、シンプルでわかりやすく、安くて便利な保険商品に対する関心は確かに高まっていました。

しかし一方で、2011年は誰も想定していなかった出来事により、日本人のコミュニケーションのあり方が大きく変わった年でもありました。東日本大震災です。この未曾有の災害は人々に“つながり”の大切さを強く意識させることになります。

特に注目されたのはTwitterなどのSNSでした。地震発生後の混乱の中、携帯電話の電話やメールが不通になり、家族や友人の安否が確認できず、不安な思いを抱いた人も多いでしょう。このときTwitterなどのSNSは、災害時でも連絡が取れる手段として注目され、利用者数を一気に伸ばしていきます。

LINEも東日本大震災がきっかけで生まれたと言われていますが、こうしたSNSやメッセージアプリへの注目は、結果としてスマホの普及を加速させることになりました。ついにはガラケーを保有台数で逆転し、2011年末のユーキャン新語・流行語大賞にも「スマホ」がノミネートされたほどです。

この急激な“スマホシフト”に追い付くべく、ライフネット生命は2013年にスマホサイトを大幅リニューアル。パソコン向けのページしか用意されていないのがほとんどであった中、当時の業界では初となる「スマホからの生命保険申し込みサービス」を実現しました。

■「安い」だけじゃない価値を伝える

振り返りのスピードを速めます。開業時の目標である「創業5年以内に保有契約数15万件以上」を4年半で達成すると、2013年には岩瀬が社長兼COO(最高執行責任者)、出口が会長兼CEO(最高経営責任者)に就任する人事を発表。新たな体制で時代の変化に対応していきました。

2014年2月12日に保有契約件数が20万件を突破。さらに同年12月1日には、「働く人への保険」を含む当社のすべての保険商品を、全国の「ほけんの窓口」直営店で販売することを開始しました。これは「就業不能保険」が日本では馴染みの薄い商品であることから、その必要性についてウェブサイトだけでなく、対面でも説明して販売することにより、就業不能保障のマーケットを拡大していくことを目指した取り組みです。

ちなみに、当サイトである「ライフネットジャーナル オンライン」も、この年の8月28日にオープンしているように、開業時の目標を達成し、次のフェーズに入ってからのライフネット生命は、価格以外のところでも新しい価値の訴求をしていくことに力を入れています。

2015年4月にKDDIと資本業務提携を行い、当社の保険商品を「auの生命ほけん」として提供していることも、「通信事業と金融サービスは親和性が高く、協業することで新しい価値を顧客に提供できるのではないか」と考えたことがきっかけだったと、岩瀬は自身のブログで振り返っています(サービス開始は2016年4月5日)。

そして2016年3月1日からは、医療保険の給付金について、スマホからペーパーレスで請求できるサービスを開始。スマホからの保険申し込み割合が年々高まり、スマホサイトを一新。「スマホ時代の生保」の姿を体現しました。

■再び、新しい生命保険を作る

もちろん、やってきたことはスマホ対応だけではありません。2015年11月4日からは、新たに「同性のパートナー」も死亡保険金を受け取れるよう受取人の指定範囲を拡大。これまで異性間の事実婚状態にある「パートナー(いわゆる内縁関係)」についても、同居期間など一定の条件をもとに指定可能としていましたが、これを同性のパートナーにも拡大したわけです。

ライフネット生命の社員たちは、毎年LGBTパレードやイベントに参加している

この発表は大きな反響を呼び、他の生命保険会社も次々と同様のサービスを拡張するなど、LGBT支援の新しいかたちを広める一歩に貢献することができました。

2017年8月1日からは「ライフネットのがん保険 ダブルエール」を発売。先行して発売されている他社のがん保険と異なる「ライフネットらしい」がん保険を実現するため、次の3つを掲げました。

がん保険「ダブルエール」発売時の記者会見

  1. 治療費だけではなく、働けなくなったことによる収入減をサポートする
  2. 安心して治療に専念できるよう、「治療サポート給付金」は治療が続く限り毎月10万円を回数無制限でお支払いする
  3. 給付金のお支払いで終わらず、例えば体調が優れないときの家事代行のように、本当に必要な生活をサポートするための各種サービスを紹介する「サバイバーシップ支援サービス」を提供する

これはがんを実際に経験された方々の話を徹底的に聞くことから生まれた商品であり、「働きながらがん治療することをサポートする」ことにフォーカスした「働けなくなるリスク」に備えるためのがん保険なのです。

■業界のチャレンジャーとして次の10年へ

ここまでライフネット生命10年の取り組みについて見てきました。それは社会が劇的に変化していく中、それに追いつき、追い越そうと走り続けてきた年月でもあります。2017年6月には会長の出口、常務執行役員の中田華寿子という当社の成長を支えてきた2人の退任もあったように、ライフネット生命もまた変わっていきます。

そして今年6月24日の株主総会では、2013年以来5年にわたって社長を務めてきた岩瀬も会長に退き、新たなタスキが次の世代へと受け継がれる予定です。

左:岩瀬大輔、右:森亮介

この10年間のライフネット生命の歩みは、「ネット生保」というそれまで存在していなかった「新しいもの」を世の中に広め、生命保険を人々にとってより便利で、身近なものにしていくための挑戦の日々でした。開業当初は2社だった「インターネットで生命保険を売る企業」も、今では何社もあります。「スマホで申し込みができる生命保険」も、広まりつつあります。

ネット生保は「新しいもの」ではなく「普通のもの」になった――ライフネット生命は業界のチャレンジャーとして、生命保険のあり方を大きく変えることに挑んできました。次の10年はこれをさらに広げるだけでなく、「インターネットを活用し、低価格で生命保険を提供する」というだけではない、新しい価値観もさらに打ち出していかなければなりません。

ライフネット生命はこれから、どんな会社を目指すのか? それは新社長に就任する予定の森亮介のインタビューにて語られます。森は同性パートナーの施策を推進したメンバーの一人でもあり、「ライフネット生命がやるべきこと」について非常に熱いものを持っている人物でもあります。

その思いの内容は後日公開の記事に譲るとして、本記事の最後は、24項目あるライフネット生命の「生命保険マニュフェスト」の中から、岩瀬が強い思いを込めてしたためた一文を紹介して締めくくらせていただきます。

私たちは、自分たちの友人や家族に自信をもってすすめられる商品しか作らない、売らない。

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン編集部