はなわさん(お笑い芸人・ミュージシャン)

前編ではご自身の仕事観から、家族のこと、そして佐賀県への想いについて語って頂いた、はなわさん。後編は、大ヒットした『お義父さん』の舞台裏や子育ての秘訣についてトークは続きます。

■『お義父さん』の曲がつないだ家族の縁

──2017年は『佐賀県』以来、14年ぶりに『お義父さん』が大ヒットして、全国を新曲イベントで回られましたね。

はなわ:北は北海道から、南はどこまで行ったかなあ。佐賀より南へも行きましたが、嫁さんの誕生日と結婚15周年記念のサプライズで作った歌が、レコード大賞企画賞を頂くなんて思いも寄りませんでした。

ママの誕生日を前に、息子たちが「お金を掛けないプレゼントでなきゃダメだってことにしようよ」と言い出して……財力に物を言わせるとなると、自分たちより、パパが一番有利になると思ったんでしょうね。それで僕は歌を作ったんです。

──いいご家族ですね。


はなわ:SNSの威力はすごいですよ。2016年3月のライブで『お義父さん』を披露して、その後もライブで好評だったので、1年経った去年3月に動画をYouTubeにアップしたんです。
そうしたら、「これは泣ける!」「涙腺崩壊ソングだ」と話題になって、どんどん広がって行きました。その反響をベースにして、5月にCD『お義父さん』がリリースされたんです。CDが出てから、テレビやイベントで歌わせてもらうようになりました。

──『お義父さんが』がブレイクして、何か変わったことはありましたか?

はなわ:以前はカラオケに行くと、「『佐賀県』歌って!」と言われてたのが、『お義父さん』歌って!」に変わりました。ただ、哀しい歌なんで、これを歌うと、急にその場がしーんとなっちゃう。みんな、顔をくしゃくしゃにして泣きそうになったり、泣いちゃう人もいるんで、(カラオケの)最後のほうで歌うようにしています(笑)。

──奥さまが2歳の頃、家を出て行ったお義父さんに、はなわさんが奥さまの子どもの頃からの苦労を語り、いまは家族の幸せだけを願う、立派な母親になりました。素敵な娘さんを僕に下さってありがとう。よかったら孫の顔を見に来ませんか? と呼び掛ける内容ですが、現実にこの歌がきっかけとなり、お義父さんと奥様がほぼ40年ぶりに再会されたのでした。

はなわ:再会した時、すでにお義父さんは病気でした。去年の秋に亡くなったのは残念でしたけれど、会ってからは交流もできて、孫たちの柔道の試合の応援にも来てくれました。

イベントでは『お義父さん』の歌詞と同じような境遇の方が来てくれましてね……「娘がいて、でも、生き別れになったまま会えていなくて」というお父さんが、全国に大勢いらっしゃるんですよ。逆に、娘の立場で、うちの嫁さんの境遇の何十倍も大変な人生を歩んでいらっしゃる方たちもいらして、握手会に来て話をしてくださったり……手紙、ブログのコメントもすごくたくさん来ました。

全国どこへ行っても、年配の方が多いんですよ。きっと『お義父さん』に、それぞれの人生を重ね合わせておられるんでしょう。いままで僕のライブにご年配の方たちは来ていただいていなかったので、この歌のおかげで、本当の意味で、「みなさんに自分の歌を聴いていただけた」ことがうれしい。わざわざライブやイベントに足を運んで下さってね。

■「嫁さんは子育ての相方。対立したら僕が折れます」

──去年は市川海老蔵さんと並んで、ベストファーザー賞にも選ばれましたね。

はなわ:受賞の知らせを受けて、びっくりしました。「僕なんかでいいのかな?」と思いましたよ。

──ライフネットジャーナル読者のみなさんは、子育て中の方も多いです。はなわさんが子育てで心掛けていることは何ですか?

はなわ:僕の子育ては、基本、放任というか、子どもは自立させなければならない、とつねに思ってます。柔道もそうですが、子どもが自分で「やりたい」と言わない限り、親が無理にさせることはしません、また、子どもが「やめたい」と言う場合には、こちらはあれこれ言わず、すぐにやめさせます。

大人になった時に、自分で判断できるようになること、自分で考えて動けるということが一番大事だと思ってますので、「ほんとはこっちに行ったほうがいいのになあ」と思う時でも黙っています。

──「違うふうにしたほうがいい」と思うこともあるんですね?

はなわ:メチャクチャあります!(笑)。でも、「自分で失敗して気が付けばいいんだから」と思って、あえて黙っています。たとえば柔道のことなら、試合に負けて、本人が気が付くこともあります。長男の通う学校は中・高一貫して、佐賀県の柔道指定強化校。顧問の先生たちも元オリンピックとか、全国大会で優勝するような方たちで、指導もかなり厳しいです。

それに親まで口を出すと、子どももかわいそうですから、僕は何にも言わない。もちろん応援はしますけどね。関心は死ぬほどあるんですけど、関心ないような顔をしています(笑)。

──はなわさんのお父さんは、子どもたちに対して、どういう感じだったのでしょうか?

はなわ:親父も僕と同じですね。男ばかり3人兄弟ですが、何も言われたことはなかったです。でも、言わずとも、愛情を自分たちに掛けてくれていることはちゃんとわかりますよね。

──奥さまと教育方針が違ったりしませんか。

はなわ:昔は違うこともありましたが、基本は嫁さんに任せてます。夫婦で子育てを巡って考えが対立したときは、僕のほうがすぐ折れます。水掛け論になっても良くないし、結局、両方が子どものためを思って、一生懸命考えて、言ってることでしょ?

絶対、子どものことを一番よくわかってるのは母親です。あの、自分のお腹から産んでるというのはすごいですよねえ……お母さんの子どもに対する強い想いや愛情には、とても男はかないません。まあ、嫁さんとはいま、相方みたいな関係ですよ。

──相方?

はなわ:お笑いの相方って、片方がネタ作って、もう片方はそれにちょっと口出すくらいなんです。子育てに関しても同じ、「子どもを幸せにする」という共通の目的に向かって力を合わせる。ネタをいつも出すのは嫁さんのほう、こっちは時々、意見を言うぐらいがうまくいくんじゃないでしょうか。

■「家庭円満」が子どもにとっては一番いい

──お子さんとの時間はなるだけ取るように努められますか?

はなわさん:ええ。それとスキンシップもものすごくします。高校3年の長男坊にもチューしますから(笑)。柔道をやってるんで、向こうのほうが体もかなりデカいですけどね。

──「なんだよ」とか言われませんか?

はなわ:言わないから、可愛いっすよ。リビングに一緒にいて、こっちが「おらおら」なんてちょっかい出しても、「イタタタタタ」とか言いながら(笑)。

──近頃は、家族が一緒の部屋にいても、子どもがスマートフォンでずっとゲームや音楽を聴いてたりすることも多いようですが。

はなわ:わが家の場合は、柔道をさせている事が大きいと思います。
県の指定強化校でもあり、本格的な指導を行う学校なので、軍隊並みに厳しいです。真の精神修養。

あいさつに始まり、目上の人への物言いや態度を始め、人として身に付けるべきことは柔道の現場で教え込まれています。家族で温泉旅館に行くと、長男は玄関に並んでる靴を人の分まで自然と揃えますからね。

──礼儀と技術、両方を教えてもらっているわけですね。

はなわ:その通りです。親としては、そのために柔道をやらせてるようなところもあります。だから、たまたま、うちの長男坊は県大会で上位を争ったりしていますけど、試合で結果を残せない子どもたちも精神的には鍛えられていますし、立派に教育されていると感じます。

とは言いながらも、やっぱり「家庭」が大事なんですよね。家庭が不安定だと、子どもを辛いところに追い込みますし、たとえ目には見えなくても……。子どもにとっては「家庭円満」が一番だと思って、心掛けています。

■「歌を聴くのにお金は払わない」時代に

──お笑い芸人を目指して18歳で上京されて、いつ芽が出るかわからない。不安に苛まれることもあったと思いますが、何が続けていく原動力でしたか?


はなわ:「自分にはこれしかないな」とは思ってました。他に能力あればいいんですけど、それはない、というのが大前提としてありまして(笑)。ただ、ほんとに悩みましたよ。「俺、どうなっちゃうんだろう? このままお笑い続けてて大丈夫かな」と思う反面、どこかに自信があって、「きっと行けるはずだ」と感じてもいました。

実際、ライブとかで切磋琢磨し、外の芸人と自分を比べて、「絶対、俺のほうが面白い。だから絶対、負けられない」と思ってました。切磋琢磨を超えた、本当の戦いですよ。仲間でありライバル。

ただ、時代が変わってきていて、僕が二十歳の頃と今とでは違います。もし、僕がいまその歳だったとしても、きっとお笑い芸人を目指していたと思いますが、「楽しいからやろう」と思ったんじゃないかなあ。

──仕事との関わり方が違う?

はなわ:そうですね。うちの子どもたちも言うんですよ、「別に就職とかしたくねえ」「大学に行くのなんか、めんどくせえ」とか。稼ぐ手段なら他にもあるよ、バイトだっていくらでもあるじゃん、って(笑)。

──最近では、若い人たちの人気職業に、YouTuber(ユーチューバー)が挙がっています。

はなわ:若者はテレビも見ないし、こんなに急激に社会が変化していくとは思わなかったというのが、大人の本音ですよね。これからどうなっていくんですかねえ。

芸人もこれだけ数が増えて飽和状態だと、「売れる」のは難しいです。「M1グランプリを見て、お笑いの仕事って楽しそうだな、かっこいいと思いました」とそれなりに稼げて、そこで満足している若手も、一杯います。僕らの若かった頃のギラギラした、「売れたら、お金と女の子が付いて来るぞ」みたいなノリとは大違い(笑)。

──いまはもっと堅実ですか?

はなわ:全体に野心がないというか……。

──音楽ビジネスも急激に変化しています。はなわさんの『お義父さん』『拝啓、かっこ悪い親父』も百万回を超える回数が再生されています。

はなわ:でも、それが直接、こちらの収入に結び付かない世の中です。昔ならCDを買ってもらえましたが、若者には「歌を聴くのにお金払う? わけわかんねぇなあ」という時代です。

──これまでとは違うところからお金を生み出さないと、作った人に還元されない。

はなわ:インターネットやIT技術がお金の稼ぎ方の仕組みを変えても、曲を作って、アナログで生で演(や)る僕みたいな人間がいないと、音楽業界も成立しないんだから、「まあ、それをやってればいいかな」と思いますが。

■「誰と結びつくか」を真剣に考えよ

──これから社会に出て行く若い人たちに、兄貴として、親として、アドバイスするとしたら、どんなことがありますか?

はなわ:「先輩でも仲間でもいいから、意識の高い人に近づいて、可愛がってもらいなさい。一人じゃ何もできないよ」とまず、言いたいですね。「誰とつるむか?」はすごく大事な問題です。しかも最初を慎重に選ばないと、入り口を間違えちゃうんで……。

僕の場合もそうでした。芸人を目指して東京に出て来たとき、「相方になってよ」と、向こうからどんどん誘いが来るんです。でも、そんなに本気じゃない。「3日でネタ作って来いって言われたから、一緒にやんない?」って、周りは軽い調子でくっついて、コンビを結成していました。

僕は「ちょ、ちょっと待てよ。まずお前がどんな奴か、本当に才能があるのか、とりあえず2か月ぐらい一緒に暮らしてみて観察してみないと……」とメチャクチャ警戒してて、ガードが硬かったんです。

一人だけ目が尖がってて、ギラギラしてて、本気だったんですよね(笑)。「お笑い芸人になりたい」という野心は強かったですけど、一度、冷静になってみようと思いました。

そうしたら自分が面白いな、尊敬できるな、と思う人が見えてきたり……まあ、そのときなりの見えかただとしても、そういう感覚が、子どもにも植え付けたいといま願っている、「自立」と繋がっていたんだろうと思うんです。

──人を見る目を養え。

はなわ:そう、当時そんな感じで50人ぐらいいた中で、いまも芸能界に残っているのは僕だけです。いい仕事をするには、自分も自立していないとダメだし、結び付く相手も「自立してる奴は誰かな?」と思って周囲を観察してみる。

まあ極論ですけど、とくに芸能界では、母子家庭で育って、小さい時はお母さんが働いてたスナックのソファで転がって寝てたというような人のほうが、人生経験が豊富なんです。人の気持ちもよくわかって、人間関係の上でも立ち回りが上手かったりするんですよ。

僕は、こんなふうにいまも芸能界で生きていけてるのは、自分の力じゃないと思っています。冗談抜きに、自分の力とか才能によるものなんて、これっぽっちもなくて、すべては出会った人たちがもたらしてくれた縁、機会によるものなんだな、と歳を追うごとに感じます。

社会で生きていくには、人生経験をある程度、増やすことは大事です。ときには怖い目にあったり、騙されたり……いろんな経験して子どもから大人に育っていく。「だから、がんばれ」と若い人たちにはそう言いたいですね。

(了)

写真提供:(株)ケイダッシュステージ

<プロフィール>
はなわ
1976(昭和51)年、埼玉県生まれの佐賀県育ち。2003年、佐賀の田舎度を自虐的に歌ったCD『佐賀県』が大ヒット。紅白歌合戦に出場する。その後も、松井秀喜の物まねなどを取り入れたベース漫談で、『エンタの神様』を始めお笑い番組で人気を博す。2017年『お義父さん』がSNSを中心に注目を集め、日本レコード大賞企画賞を受賞。近著に小説『お義父さん』(KADOKAWA刊)がある。漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之さんは弟。
●はなわさんの人気ブログ「HANAWA LIFE」
●新Web Movie『拝啓、かっこ悪い親父』

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
撮影/横田達也

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