140901_12009年の夏、デイリーポータルZ(以下、DPZ)というニフティ株式会社が運営する面白サイトから、「ライフネットさん、河原にいるハトが食べた豆で保険金額を決める」という企画に出ませんかとオファーを頂き、真夏の多摩川で実施。サイト公開後は、ブログや掲示板を中心に「ライフネットは面白い、出口社長(当時)最高!」というコメントが沢山寄せられました。

あれから5年。改めて、DPZの林編集長、安藤さんと出口の3人で「ハトが選ぶ保険」企画がなぜ実現できたのか、振り返ってみました。

■「アホは出口さん」です。これ、絶対ウケますよ。

出口:今日はなにすればいいの?

司会:今日はですね…えっとですね。

林 :僕が来ると、また、すごい変なことさせる…と思うでしょ(笑)。

出口:いやいやいや(笑)。

司会:今回は、ハトが保険を選ぶ企画について、きっかけや反響について振り返って頂こうと思います。

ハトが保険を選ぶ企画の詳細はこちら

林 :実は当時、DPZがあまりにもお金を儲けないサイトだったので、会社から広告的なことをしろと言われてたんです。ただいきなり社外からお金をもらう前に、まずは社内の部署の手伝いをしなさい、ということになり、ニフティの中にある保険ページに人を集める企画をすることになりました。
だから、ハトの企画はそもそも広告ではなく社内向けの無料企画でした。

それで、ニフティの保険担当者に、「河原にいるハトが食べた豆で保険金額を決める」がしたい…と伝えました。

で、保険の担当者が、先に別の保険会社に声をかけたら、そんなのウチはやらない…って断られて。次に、ライフネットさんに声をかけたら。OKが出ました。しかも、ライフネットさんから企画を行う際に中の人もいた方がいいと提案をもらったので、良いですよと答えて。で、いきなり社長連れてきちゃって、そこまでしなくてもよかったんだけどな(笑)…っていう。

出口:そうなんですか!?

DPZ編集長 林さん

DPZ編集長 林さん

林 :そうです。そうです。

司会:まんまと乗せられた感じですか?

出口:僕は当時20代の部下に、「この日空いてるから、多摩川行きましょう」って言われて、なにすんの?って聞いたら、ハトが保険を選ぶという企画が…とかって言い出して、そんなふざけた話できるか! マニュフェスト読んでみぃ、って怒ってアホかとか言ったら、「アホは出口さんです。これ、絶対ウケますよ。僕のことアホというのは、出口さんが60(歳)超えてるからです。うちのお客さんは、みんな20-30代なので、60の感覚で文句言ってる出口さんの方がアホです。」と言われた…

僕は結構気が弱いので、「お前自信あるんのやな?」と聞いたら、「ある」というから、ダメもとでも良いから行ってみようと思って、河原に行ってみたんです。

林:そんなやりとりがあったんだ…。
僕は上司に「ダメだろう!」と言われたら、ひっこめちゃうタイプなので、この企画が出来たのは、その部下の人がいてくれたおかげですね。

出口:うちのスタッフはみんなそう、いつも僕は命令されているので……。

林 :当時DPZで企業が参加する企画をやるの初めてでした。

DPZ 安藤さん

DPZ 安藤さん

安藤:まだ、コラボ企画という広告枠がなかったんです。出口さんがいてくれたおかげで、記事の面白さが増したんです。まさか社長がここまでやる…ってのが、ポイントだった。

出口:今だから言えるけど一番腹が立ったのは、僕、暑いの嫌いで気が短いので「多摩川にハトはいるのか?」と聞いたら、「多摩川行ったことないんですか?山ほどいる、すぐいる、事前の実験もしてます」…っていうから安心して行ったのに、全然ハトが来やしない(笑)。

司会:本当に実験してたのですか?

林 :全然してない(笑)。

一同:(爆笑)

出口:だまされたなぁ(笑)。

林:僕もそんなこと、してないなぁって(笑)。

出口:当日、林さんは「おかしいなぁ」とか言いながら、一生懸命豆をまいて、ハトをおびき寄せてましたよね?

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林 :過去にも多摩川でハトの撮影はしてましたけど、あれだけ暑いと、ハトいなかったですよね (笑)。気まずかったです。

出口:ですね。お互い気まずかったですね(笑)。

林 :僕、気まずくてタオルと水を配った記憶があります。

安藤:それが、二人の初対面だったんですねぇ。

司会:お互いの初対面はどんな感じでしたか?

出口:企画が決まった後で、部下に「お前、あれの企画、その後考えたの?どうなった?」と聞いたら、「この企画を準備しているのは私ではありません」……と。

一同:そこ、リスクヘッジしてるんだ(笑)

140901_5出口:「林さんという天才がいて、その人が準備してるから、当日は失礼のないように」、とのインプットがあったから、きっと、有名な人で、この世界では優秀な人のはずだから、失礼があってはいけないと思って。
だから、当日ハトが来なかった時にも、林さんには文句をあまり言えなかった。企画した部下には「ぜんぜん、来ないじゃないか」と文句は言ってたけど。

一同:(大爆笑)

安藤:みんなが気を使いあってたんですね。

司会:林さんから見た出口の印象は?1社断られた後ですし、まさか社長が来ると思ってなかった? おそらくライフネット生命も、出口のことも知らなかったと思いますが……。

林 :あのぉ…ネットの保険会社で、若い会社って聞いてたから、(出口さんを見た時に)若いベンチャーの社長じゃないな、本当の社長だって(笑)。

出口:もう、年ですからねぇ……。

林 :でも、画的には、こっちの方が面白いな、記事にした時にちょっと若い社長よりも、出口さんの方が社長感があるから、美味しいなって思ってました。

企画の撮影終了後に、出口さんが新丸子駅に向かおうとしている時に、コッチだコッチだと早足に道を決めていって、迷ったら、通りすがりのおばちゃんに道を聞きながら、みんなを引き連れて駅を目指す後ろ姿をみて、リーダーシップのスゴイある方だなぁ…と思った。コレが、リーダーシップだと(笑)。

140901_6出口:歩くのが早いだけです。

林 :迷っても、どんどん歩いて行っちゃって、そのたびに人に聞いて…あの決断の速さが……。

出口:僕は気が短いので……。

林 :そう言われてみれば、そうかもしれないけど。

出口:ぐちゃぐちゃ考えるのが好きじゃないから、とりあえず行ってから考えればいいと。

林 :経営も一緒ですか?

出口:そういう部分もありますね(笑)。時間かけて考えても良い判断が出来るとは限らない。

林 :撮影の後は、帰りが早い人、リーダーシップの強い人、という印象でした。単に僕が最寄りの駅を事前に調べてなかっただけともいえますが。

■黙って仕事を任せる。だから企画の事前説明は原則不要

司会:ハトの企画以来、若い部下の話をよく聞くようになって、その後も出口さんを使って色々な企画をやりましたが事前の説明は一切しなくても良くなりましたよね。

140901_7出口:僕も、ハトの企画からは学んだ。こんな企画うまくいかないと思ってた。保険会社がこんなアホな企画やったら、ユーザの7割以上から罵倒を受けると思ってた。
けど、蓋を開けたら、否定的な意見は殆どなかった。「面白い、こんな保険会社待ってた」という声が多かった。
この時から、若い部下が持ってくる企画は、どうせ、またハチャメチャな企画だろうから、事前に聞いたら「また、こんな企画…」と腹が立ってしまうはずだろうし、「オマエはアホか?いえ、アホは出口さんです……」みたいな会話の繰り返しで、お互い時間の無駄になるので、以来、事前説明は原則不要としている。
この時間空けておいて、ここに来て、だけでOKにしている。事前の説明はいらない。
こっちの方が、楽なんです。

林:でも社内では、企画の取捨選択はしてるんですよね?

司会:もちろんしてます。でも、出口が言ったようにこの企画以降、事前説明は基本的にしていない。この時間に、ここに来てください、それだけです。

出口:現場行って、こいつらこんなこと考えてるのか……と思ってる。

司会:納豆10万回かきまぜる企画の時もそうでした(笑)。

林 :僕らも、説明なくやらされているんだろうなぁ…となんとなく思ってました(笑)。

安藤:最初の、この割り切りというか、罵倒が来ると思いながらも、GOサインを出した決断がすごい。

出口:部下が、いつも出口さんは、思いついたら何でも小さくやってみろ、試行錯誤しかないんだと言ってるのに、まさか有言不実行ではないですよね?と言われたから……。

林 :相変わらず部下は挑戦的ですよね(笑)。

出口:確かに筋が通っているな、じゃ、仕方がないな、と思った。

林 :失敗したら?

出口:そりゃ、ぽこぽこ叩く、「ほら見ろ言った通りじゃないか」と言ってやろうと思って。でも、みんな失敗してないし、そういった機会は幸運にも、まだない。

林 :1回くらい、出口さんに、ぽこぽこ叩かれる企画もしてみたい……だめじゃないか、と(笑)。

出口:僕は、基本は横着で、無駄なことはやりたくないと思ってる。昔、政治家で、椎名悦三郎 という方がいて、会ったことは無いんだけど、サインを頼まれた時には、必ず「省略」と書いていたらしく、それはこの方の信条らしく……。

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安藤:それ、ウチの林と同じです。

出口:無駄なことをするのが大嫌い。だから、さっきみたいに、腹立てても言い返される議論はしたくない。だから、説明不要。結果だけでいい。結果が悪かったら、ぽかぽか打つぞ、と言ってる。仕事って結果なんです。

「仕事は結果」という話を社外ですると特に人事の方から、「努力している人間は評価しないと。プロセスも評価しないといけないのでは?」という質問がくる。
そういう時に、「あなたがプロ野球の監督だったとして、毎日3時間素振りしているんだけど試合で必ず三振する選手と、素振りしないで遊びまわっているけどヒットを必ず打ってくれる選手、どちらを選びますか……?」というと、わかってくれる。

仕事は趣味じゃない。儲かれば、皆ハッピーになれる。
幾ら努力していても、結果が出ない人は、誰も使わないですよね。

もちろん3時間の素振りしているのが悪いとは言ってない。3時間素振りして結果が出ればそれが最高、素晴らしいと思う。3時間素振りしても、試合で毎回三振されたら、その選手は使えない……やっぱり結果ですよね。例えば、毎日2時間しか働いてくれないライターさんでも、毎回ヒット記事を出してくれれば、林さんも文句は言わないでしょう?

林 :そうですね……。
出口さんは、やさしい感じの方だと思っていたから、今日は意外な一面を観た気がします。
DPZもライターは結果を求められているので、似た感じがあります。

出口:高度成長期だったら、話は違うかもしれない。
または、5年たったら必ず課長になれる会社とかだったら、何も考えないで無駄に素振りしててもよかったんでしょうけど。

林 :実は、僕はDPZのライター達にはやさしく接しているけど、それには下心があって。仕事を楽しくすると、ライター達は手を抜かずにすごい働いてくれるというのがあって……。

出口:それは世界共通、人は愉しいことをしていると、時間を忘れる。ライフネットの方針は、元気に明るく楽しく、だから……長時間労働をさせようと思っているわけじゃないが、そうじゃないと、アイディアなんて生まれない。

林 :愉しんでいる人ほどアイディアは出てくるし、愉しんでいる人はいくらでも頑張るから、愉しんでいる人にはかなわないと思うんです。

出口:前の会社で、夜10時位まで仕事して、チョット帰りに一杯飲んで帰ろうという上司がいた。でも、酒を飲んでも小言ばかりだから、上司は遅くまでやっている店を探してこいというけど、部下達は駅の近くで11時には閉まって、追い出される店しか見つけてこない。ココしか店がないとか、適当なことを言って(笑)。

なぜ、上司から遅くまでやってる飲み屋を探せと言われても、11時には閉まっちゃう飲み屋しか探してこないかといえば、楽しくないからですよね?

でも、この部下達もデートの時には、色々考えて、一生懸命遅くまでやってる素敵なお店を探してくる。なぜかといえば、愉しいから、長い時間一緒にいたいからですよね?
彼女といる時には一生懸命探してくるのに、小言をいう上司と飲む時には、早く帰れる店しか探してこない……このことからでも、人間は愉しくなければ、ろくなことをしないというのがわかる。

林 :DPZも同じで、ライターさんがある程度の時間かけるとまぁまぁな記事になるのに、ダメな記事って、全く時間をかけていなくて……。あきらかにそれがわかるので、そういうのにはまぁ最低限これ位の時間をかけてほしい、という想いがある。だから、環境を楽しくすれば、みんな積極的に時間をかけて記事を書いてくれる。

■上司や部下の関係は全て機能である

林 :ところで出口さんって、ポジティブですよね。

140901_9安藤:先ほどから若い社員が出口さんを叱るというか、部下の言われたとおり行動するとか聞きますが、そもそもなんで部下の言うこと聞くんですか?

出口:ロジカルですから。部下の言うことに筋が通ってますから。

林 :上下関係よりも、ロジックを優先する?

出口:上下関係は、機能だと思ってるんです。手とか足とかいろいろあるけど、体の中で頭が偉いとか、ないでしょ?人間の体は全部大事だから、五体全部役に立ってる。頭が一番上みたいに言われるけど、所詮はファンクション。会社も一緒で、CEOは意思決定をする人、というファンクションに過ぎない。だから、上下という考え方は間違っている。年功序列が組織として機能している場合は別なのかもしれないですが……。

林 :最近だと、経営のプロが外部からヘッドハンティングで入ってくる、というのも似た考えですよね。昔からそういう考えなんですか?

出口:プロ野球の監督と同じだと思います。名選手が名監督になるとは限らない。選手と監督は全く別の機能で、無関係だから……上下関係ではなくて、機能の分担。

僕は、前の会社では部下を基本呼び捨てで呼んでいたけど、ライフネットでは社員全て誰も呼び捨てにしたことがない。全員「くん」とか「さん」をつけている。

一部の人からは、「出口さんはベンチャーを経験して多くの苦労をしたから、社員全員に「くん」とか「さん」をつけるようになったと」、言われる時があるけどそれは違っていて。ライフネットは定年がないから年功序列という機能は必要としていないし、組織の上下関係は機能だと思っているから、「くん」や「さん」とつけて呼んでいるだけなんです。

林 :そういえば、出口さんの「教養としての世界史」を読みました。フランス人がスゴイ論理的で、1日が24時間だとおかしいから1日10時間で一時やってた話がとても面白かった。今の出口さんの上下関係の話は、合理的なフランス人の考え方に似ている気がする。

出口:保守主義は「人間はアホだから、今あるものは正しいと仮置きする」という考え方です。僕はこの考え方が好きだけど、会社は、ちゃんと儲けて永続させるものだから、そこに美学とかがあってはいけない、アホな頭でしっかり考えて、どうやったら会社の為になるのかを考え抜いて、後はトライ&エラーでやった方が得だと思いませんか。

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林 :出口さんの書籍には、海外進出する時に、現地の人にレポートを書かせて、最も優秀だったモノを持ってきた人を現地のトップに据える……というやり方が書いてあったけど、あれは合理的だと思いました。

出口:あれも、フランス人の考え方。だって、自分で調べようと思ったら、コンサルにお金を払う必要がありますよね。
イノベーションにおいて、お金を払いたくないとか、無駄を省きたいという考えは重要なんです。まじめな人ではなかなかイノベーションは起こせない。上司から無茶を言われた時に、なんとかして早く帰ろうという工夫から、イノベーションが生まれる。楽したい、もっと大切なことに時間を使いたいという気持ちがあるから、色々考えたり、試行錯誤が生まれると思いますよ。