――あの時期は、まだ「完全養殖に成功した」というくらいの頃ですよね。

福田:そうですね。まだビジネスにはなっていませんでした。

――そこで、「いつかオレがビジネスにしてやる!」と思っていた?

福田:いやいや(笑)。彼らは32年もかけて完全養殖を実現した。単純に、そのスケール感がすごいと思ったし、研究者の方々に人間としての魅力も感じたんです。だから7月に行った近大との共同記者会見で、『プロジェクトX』に出ていた主人公たちと一緒に私も席を並べることができたのは、本当に感慨深いものがありました。

■「経理部員が何をしにきたの?」と言われていた

――しかし、経理畑でずっと仕事をしてきて、もちろんマグロ養殖の経験もない福田さんがゼロから事業を立ち上げるのは、さぞ前途多難だったのでは。

福田:それはもう。例えば、育成塾にはあくまで経理部員として参加していますから、名刺は「経理の福田泰三」なわけです。それで近大を訪ねても、「経理の人が何をしにきたの?」と最初は本気ではとりあってくれなかったんですよね。

――社内の反応はどうだったんでしょう?

福田:立ち上げ前は、「無謀だ」という意見が99%でしたね。素人の人間ができるのか、という部分と、立ち上げたとしても完全養殖クロマグロがビジネスになるわけがない、というダブルインパクトでした。

――その状況を突破できたのは?

福田:大きかったのは2009年頃に、ワシントン条約で「クロマグロを絶滅危惧種に指定しよう」という動きが盛り上がったことですね。条約締結は見送られましたが、「日本の食卓からマグロが消えるかもしれない」という危機感が広まり、急速に完全養殖マグロへの関心が高まってきた。私が育成塾に参加した後からどんどん時流が変わっていって、「日本の食文化を守る」という社会的な意義があるように見られていきました。それで2010年に、「ツナドリーム五島」を立ち上げることになったのです。

当初の写真_福田2

ツナドリーム五島の養殖場