世の中に拡げるべき優れたアイデアを紹介するTED(Translations – Browse Talks)において、公開以来、実に916万回も再生されているのが、スーザン・ケインの「内向的な人が秘めている力」という動画です。
活発で社交的であることが評価される中で、内向的である人々は、肩身の狭い思いをしたり、自分を修正しようとしたり、とても窮屈な思いをしてきました。
ですが、内向的な人には凄い才能と能力があり、それがもっと評価されるべきだし、それが発揮される環境を考えるべきです。
という彼女の主張*には、多くの人が衝撃を受けました。
本記事では、こうした「内向的な人:内向型」にスポットライトを充て、内向型を取り巻く現状と、その秘めたる可能性、そしてその活かし方について検討してみました。
■内向型は「内気」とは違う
一人ひとりが「外向型」か「内向型」なのかは、その人にとって適正な外部からの刺激の大きさによって変わります。外部からの刺激がある程度大きくなければ脳が活性化しないタイプが「外向型」であり、小さな反応で十分に活性化し、大きすぎる刺激には疲れてしまうタイプが「内向型」であると、スーザン・ケインは、各種の研究を踏まえた上で定義*しています。
ここで、「内向型」と「内気」というのは全く別の概念である、という点に注意が必要です。「内向型」というのはあくまで適正な刺激が小さい人を指しているのに対し、「内気」とは、外部とのコミュニケーションによって恐怖を感じるタイプを指しています。
「内向型」の中には、その刺激を調整したり、後天的なスキルによって刺激の大きな人前での振る舞いなどについて、問題なくこなせるタイプも入れば、その刺激を受け止めきれず、結果的に恐怖を覚えるようになる「内気」なタイプもいるという点で、両者は混同されがちです。
ですが実際には「内気」とは自他共に思っていなくとも、本質的に「内向型」である人は、人口のおよそ半数程度を占めている可能性が高いのです。
この「内向型」←→「外向型」というのは、どちらか一方にきっぱりと分類されるというわけではなく、「比較的内向型」「比較的外向型」など、人によってその程度は様々です。スーザン・ケインは、自分の内向性を測るひとつの目安として、下記のような質問へ「はい」と答える割合の高さを提示します。
・グループよりも1対1の会話が好きだ
・ひとりでいる時間を楽しめる
・誕生日はごく親しい友人ひとりか2人で、あるいは家族だけで祝いたい
・考えてから話す傾向がある
・仕事や作品が完成するまで、他人に見せたり意見を求めたりしない
■内向型が生きづらい時代
20世紀に入り、産業革命以来の爆発的な生産性の向上により、人類はそれまで直面したことのない状況に置かれます。それまで常に品不足だった世の中は、一転して多くの製品が世の中に溢れ、買い手に対して複数の売り手が提案をし、その中から商品を選ぶという状況になったのです。
これにより台頭した職業こそが「セールスマン」です。アメリカで「セールスマンのグル(教祖)」として知られる「デル・カーネギー」は、情熱的で相手を巻き込むことができるスピーチの重要性を世に広め、明るく快活、人とコミュニケーションを取ることができることこそが、即ち社会的な成功で最も重要であるという時代を切り開くこととなりました。
それ以来、現在でも、企業が求める人材という調査では、必ずといっていいほど「コミュニケーション力」が最も重視されるように、
「成功するには大胆でならなければならない、幸福になるには社交的でなければならない」
という価値観が大勢を占めるようになりました。
■創造性溢れる仕事の多くは「内向型」によって生み出されてきた
一方で、スーザン・ケインも指摘するように、下記のような偉大で創造性溢れる仕事の多くは、内向性が高く、一人で篭って仕事をする人々によって生み出されてきました。
◯内向型の人々の偉大な仕事
重力理論(サー・アイザック・ニュートン)
相対性理論(アルベルト・アインシュタイン)
ショパンのノクターン(フレデリック・ショパン)
ピーター・パン(J・M・バリー)
グーグル(ラリー・ペイジ)
ハリー・ポッター(J・K・ローリング)
彼らは本質的に外部と多く交わるのではなく、一人だけの作業、内に篭もることによって、こうした偉大な仕事を成し遂げています。
科学ジャーナリストのウィニフレッド・ギャラガーは、この点に関して、
「刺激を受けたときに急いで反応するのではなく立ち止まって考えようとする性質がすばらしいのは、それが古来ずっと知的・芸術的偉業と結びついてきたからである。アインシュタインの相対性理論もミルトンの“失楽園”も、パーティ好きな人間による産物ではないのだ。*」
と指摘をしている通りです。