14100904_1ツール・ド・フランス開催中はテレビ中継を見ながらエアロバイクを漕ぐ位、自転車レースが大好きな、編集長の岩田です。

自転車ロードレースというと「ツール・ド・フランス」が有名ですが、そのツール・ド・フランスに出場した選手はもちろん、国内の有名選手が参戦するのが日本国内最高峰の自転車ロードレース「ジャパンカップサイクルロードレース(以下ジャパンカップ)」です。毎年10月に栃木県宇都宮市で開催され、今年で23回目を迎えます。

自転車レース好きとしては、じっとしていられません。今回は、そのジャパンカップについて、主催者の宇都宮市経済部観光交流課・ジャパンカップ事務局の島田一(しまだ はじめ)さんに、開催までの苦労や今年の見所などを伺ってきました。

 

■観光交流課主管で大会が行われる意義とは ――ジャパンカップはどのように開催されているのですか?

ジャパンカップ事務局 島田一さん

ジャパンカップ事務局 島田一さん

昨年までは宇都宮市の森林公園周回コースで行われていたジャパンカップと、宇都宮市内大通で行われていたクリテリウムそれぞれ別々の実行委員会がありました。

今年はクリテリウムの5周年ということもあり、実行委員会をひとつにまとめ、これまで2つの部局で担当していた市の業務も観光交流課に一元化しました。宇都宮市としても、これだけの大きな大会をやってきて、かっこよく言えばもっとブラッシュアップしたくて。観光交流課が観光目線で、大会を通じてさらに集客に注力しようというのが大きな狙いの一つです。

過去にも色々タイアップをやっていましたが、今年は主管が観光交流課に移ったことで、より露出の仕方が容易になりました。例えば、今クラフトビールが人気だと思うのですが、宇都宮市にもブルワリーが何軒かあり、ジャパンカップ仕様のビールを作って欲しいとリクエストしました。ジャパンカップと地元産業とを組み合わせ、ブランド化までは直ぐにはいきませんが、そういった流れは作っていきたいと思います。

――今年はジャパンカップウィークを実施するなど、今まで以上に大会が盛り上がりそうですね。

そうなんです。例年だと金曜はチームプレゼン、土曜はクリテリウム、日曜にロードレースを行う3日間の大会だったのですが、自転車愛好家が増えていて盛り上がっていることもあり、シクロクロスというオフロードを舞台にした自転車レースも入れて、1週間、何かしら自転車に絡んだイベントをやろうというのが、例年とは異なる特色です。来場された方にはさらに喜んでもらいたいなと思っています。

■ジャパンカップが生まれた経緯とプロサイクルチーム誕生のきっかけ

――ジャパンカップが生まれた経緯を教えてください。

1990年に宇都宮市で世界選手権を実施したのがきっかけです。当時の関係者に伺ったところ、そのころから自転車に関わっている方々の間に「日本でいつか世界選手権をやりたい」という思いがあったそうです。まだ自転車レース=競輪という印象がとても強かったころだと思いますが、将来ロードレースにも力を入れていくということで、選手権を誘致するにあたり、宇都宮が開催地として手を上げたんですね。おそらく、世界規模のスポーツ大会を行って、観光客に来ていただくということと、その経済効果も期待していたと思います。

開催に携わった関係者の方が、「今にして思えば、あんな大きな大会を、よくぞやっちゃたなという感覚」と言われたことがありましたが。世界選手権の誘致にあわせてせっかく発足したプロロードレースチームが、選手権が終わった後は活動する場が限られてしまうのを見て、それでは、あまりにももったいないと、1992年よりジャパンカップがスタートしました。

■ジャパンカップの経済効果は20億円!

――ジャパンカップはスムーズに市民の方に受け入れられたのですか?

当初は、公道で自転車レースをすることを関係機関に理解してもらうのが大変だったと思われますが、担当者をはじめ開催に携わった多くの方々の粘り強い交渉の結果、警察や消防、連盟、運営スタッフなど多くの方のご理解とご協力をいただくことができ、困難な障害を乗り越えて世界選手権を開催したことが、今日のジャパンカップ開催に繋がっています。

ロードレースを22年続け、かつ街中でのレース(クリテリウム)もはじめたことで、広く市民に自転車レースの存在が浸透したのかなと思っています。今では、宇都宮市民はもとより県外から来たサイクリストを、土日はもちろん、平日でも市内で数多く見かけます。ジャパンカップの期間だけではなく年間通じてサイクリストが宇都宮に来てくださることによる経済効果は計り知れません。2011年の経済効果は2次効果含め20億円と試算されています。また昨年は3日間でのべ10万人の方がいらっしゃいました。

14100904_4——宇都宮市の観光客数は年々増えていますが、3日間で10万人というのは別格ですね。

期間中、市内の宿泊施設は全て予約が取れなくなります。宇都宮市におけるイベントで、10万人もの方々がお越しになるのは、ジャパンカップと餃子祭くらいだと思います。今後は、宇都宮市のイベントとして盛り上がるだけでなく、自転車を通じて、栃木県内の日光や那須などの観光地とも様々なコラボをやっていきたいと思います。

■プロサイクルチームと市民との交流が生まれ、自転車愛好家の裾野が広がる

――自転車愛好家が増えるということは、市民の自転車ルールの啓蒙も重要ですね。

宇都宮には、「宇都宮ブリッツェン」という地域密着型自転車ロードレースチームがあります。彼らが自転車安全教室の実施にスゴく協力してくれています。安全教室は、ほぼ2週に1回市内のどこかで実施しています。自転車マナーの理解や啓蒙に頑張ってもらっています。

また、小中学生が自転車教室を通じて宇都宮ブリッツェンの選手たちと交流を重ねることで、彼らはいつも赤い派手なジャージを着て市内を練習しているのですが、その様子を見かけた小中学生が「こないだ来てくれたブリッツェンの選手だ!」といって声をかけ、応援してくれます。

ブリッツェンの選手のなかには、以前は企業チームで活躍していたトップ選手もおりますが、「これまで練習中に子どもたちが声をかけてくれる機会なんてなかったのですが、宇都宮ブリッツェンとして活動することで、地元の子供たちから声をかけてくれるのが大変嬉しくて、活動の励みになる」と言ってくれています。

——ロードバイクを購入する人が増えていると聞きますが。

ジャパンカップの開催やイベントを通して自転車に対する理解も深まって、「ママチャリだけではなく、ロードバイクというのがあって、こんな乗りやすいのか」と認知されてきたと思います。今年出た統計では、宇都宮市の自転車購入額が全国一位という統計も出て、皆で驚きました(笑)。

また、 昨年からジャパンカップでアニメ「弱虫ペダル」とのコラボも行っています。自転車に興味がなかった人がアニメとのコラボで関心をもって、レースは見たことはないけど著者の渡辺先生がくるから行ってみようかな、ちょっと自転車面白そうだから乗ってみようかな、と自転車愛好家の裾野が広がるきっかけになっていると思います。

■10月の宇都宮は自転車と餃子とジャズとカクテルでおもななし

——今年は参加選手もすごいですね。

来ますよ!(笑)僕たちとしては、大会やイベントを通じてロードレースの魅力を伝えるのはもちろん、ロードレースが好きな方にはプロ選手のゴール前の駆け引きを見ていただきたいと思っています。そのためにも観客の方、選手の方、両方に喜んで帰ってもらう大会にしていきたい。今年はファビアン・カンチェラーラ選手や、日本を代表する新城幸也選手と別府史之選手も登場します。今年は1週間の開催ということで、イベントも盛りだくさんです。もちろん、宇都宮の代名詞でもある餃子、ジャズ、カクテルもあります。

——ジャズやカクテルもですか。

実は世界的に有名なジャズサックスプレイヤーの渡辺貞夫さんが宇都宮の出身ということもあり、市内にジャズバーが沢山あります。今大会ではジャズも全面に出していきます。期間中にJR宇都宮駅で演奏会をやったり、オープニングセレモニーでもジャズ(サックス)の色を出そうと準備しています。

そして、実はカクテルも有名で、全国バーテンダー技能競技大会で宇都宮のバーテンダーが4年連続で優勝したこともある「カクテルの街」なんです。定番の餃子はもちろん、ジャズ、カクテルをこれまで以上に活用し、いろいろなイベント会場に出していこうと思っています。

——朝から晩まで楽しめますね。

そうです。前乗りした方、当日早く来られた方に向けて、街中を回るバスの一日乗車券も登場します。餃子の割引券付きの乗車券も販売します。これにより、いろいろな観光スポットや少し遠くの餃子屋さんに足を運んでもらえます。これも観光交流課ならではのおもてなしではないかと思っています。

今年も多くの方に、全速力で駆け抜ける選手の風や、ブレーキングから一気に加速するギアチェンジの音、密集の中での駆け引きなどを楽しんでもらって帰ってもらうのが我々の願いですし、選手の皆さんには良いレースをやって欲しいと思っております。

今年のジャパンカップのレースやイベントに関する詳しい情報はこちらからご確認ください。

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン 岩田慎一