頭では「節約が大事」とわかっていて、家計の現状もよく見えているのだけど、「どうしてもこれだけは」と使ってしまうことが人にはあります。それに対して一方的に、「生活には必要ないお金だから、切り詰めたほうがいい」と伝えても、どこまで自分事として響くかわからない。

だから僕は最近、こういうことを本気で考えています。

家計簿をアプリで管理する際に、例えば、デパートで2万円の買い物をしたら、その横に買い物の「満足度」も入力できるようにする。同じ2万円でも、「損をした」と思うこともあれば、「すごく得をした」と思うこともある。それをデータにも反映できるようにするのです。

使った金額と満足度は必ずしも相関しない。でも、客観的な家計シミュレーションをしているだけでは、それが「生活に必要か不必要か」という文脈でしか測れず、使ったお金でどれだけ満足したか、どれだけその人にとっての幸せを得られたかはわからない。

例えば、東京在住で子どもが2人いて、年収が600万円の人がいるとします。そういう人に対して、統計によれば同じようなライフスタイルの人の平均はこうで、将来的にもこのぐらいの金額が必要だから、このくらい節約してくださいとだけアドバイスしても、人は行動に移してくれないんです。

僕らはFP(ファイナンシャル・プランナー)の方々にもお世話になっていますが、ある方にこう言われました。「FPはお客さんと1対1で面談することに意味がある。それは、ただ節約法を指南するのではなく、コミュニケーションを通じてその人の価値観を知ることができれば、的はずれなアドバイスをしなくなるからだ」と。

先ほどのデパートの例だと、同じ2万円の買い物でも、満足度は人によって違う。そこの部分をFPとのやりとりで浮き彫りにすることで、ただ家計のデータを見るだけではわからない、「損をした」と感じる「浪費」を節約していくように促すということですね。

こうした判断を、自分ひとりでやることはかなり難しい。でも今、マネーフォワードではそれを何とかウェブ上で実現できないかと考えています。そのぐらいのマーケティングをしていかないと、お金の問題は自分事として捉えてもらえないのではないかと思うんです。お金の使い方を見える化、さらに効率化して、幸せなお金の使い方をわかっていき、幸福なお金の使い方をしていく。資産運用も同様に。そういったサービスを作りたいと思っています。

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<プロフィール>
辻庸介(つじ・ようすけ)
1976年大阪府生まれ。京都大学卒。マネーフォワード代表取締役社長CEO。新卒でソニーに入社後、04年にマネックス証券に出向。マネックス証券COO補佐、マーケティング部長を経て、12年にマネーフォワード設立。14年1月には米国大使館賞受賞、同年2月には「ジャパンベンチャーアワード2014」JVA審査委員長賞を受賞した。

<クレジット>
取材・文・撮影/小山田裕哉