14110702_1「テクノロジーの力でお金の問題を解決する」をミッションに、家計管理ツールや法人向け会計クラウドサービスなどを提供するマネーフォワード。同社代表取締役社長CEOの辻庸介さんが、自身が起業をした経験から感じた「会社をつくるうえで大切なこと」について語ってくれました。

■10人中10人が「使いたくない」と言った

僕らが起業したときは本当に何もありませんでした。人もお金もなくて、サービスもできていなかった。あったのは、「テクノロジーをうまく活用すれば、人々のお金に関する課題を解決できて、世の中の役に立つはずだ」という理念だけでした。

今でこそ、「マネーフォワード」というサービスは個人向けの家計・資産管理ツールで国内シェアのNO.1となっていますが、起業する前はFacebookのザッカーバーグの本とか読んでいて、シェアというか、ネットの集合知で課題を解決していくという考え方に影響されていました。

だから、試作段階の名前は「マネーブック」(笑)。当時はもちろん大真面目で、商標までとったんですよ。

これは匿名制でしたが、ユーザーが自分のお金の使い方や資産運用方法を匿名でアップしてシェアできる仕組みです。要は、お金を儲けている人やお金の使い方が上手な人のお金の使い方を広くシェアすれば、みんなが参考になって、幸福になれるのではないかと考えたんですね。

そして、いざサービスが出来上がって、知り合い10人に触ってもらいました。すると、10人中9人が「良いサービスだし使いたいと思うけど、自分のデータを登録したくない」と言うんです。人のお金の使い方や資産運用の方法は知りたいけど、自分のは見せたくない。

ちなみに、残りの1人は「こんなの絶対に使いたくない」と。結局、全員がダメというサービスを作ってしまった。本当は制作の途中から「もしかしたら、このサービスは求められてないかも……」と薄々気がついていたんですが、勢いで突っ走っていたんです。

そこで方針を変えて、「まずは自分の家計状況が“見える化”できるサービスにしよう」と。それが今の「マネーフォワード」です。

ここから得た教訓がひとつあります。それは、熱中してサービスを作っているときほどユーザー目線を忘れがちになるので、節目節目でちゃんと客観的な意見を求めていかなければならない。出来上がってから試してもらうのでは、もう遅すぎるといったことになってしまう可能性があるのです。所謂『リーンスタートアップ』に書いてあるやり方ができていなかったんです。

とはいえ、現実に会社を運営していくうえでは、ユーザー全員の意見をただ聞いているだけでは、自分たちが本当に実現したい理念からどんどん離れていってしまうリスクもあります。

そこで何かの施策をやるときには、どんな小さなことでも「こういう反響があるはず」という仮説を立てて、後からちゃんと答えあわせをする。そうやって仮説の検証を繰り返していけば、ユーザー目線を身につける訓練にもなります。

特にベンチャーは社内のリソースが少ないので、大火傷をしないように、細かく、細かく、この過程を繰り返していくのが大切だと思います。

(次ページ)最後に自分たちを支えるのは“理念”