今後10年間で1兆円市場への成長が見込まれているといわれるクラウドソーシング。活気づく市場をけん引するクラウドワークス代表取締役 兼 CEO 吉田浩一郎さんが起業の動機やクラウドソーシングの社会的意義を、ライフネット生命の社内勉強会(2014年10月)で語ってくれました。

■失意のどん底で決意した「人の役に立つビジネス」

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登録会員数は24万人以上、累計発注社数は4万4,000社、仕事の依頼総額160億円超。インターネット上で、エンジニア、デザイナー、ライターなど200種類近い仕事のマッチングを行っているクラウドソーシングの国内最大手に成長したクラウドワークス設立のきっかけ。それは、2010年の年末に吉田さんが受け取ったお歳暮にありました。

当時、吉田さんは36才。経験のないアパレルの業界でベトナムに衣料品を輸出するビジネスをスタートしたものの、在庫が膨らみ、3年目で累計1億円の赤字を抱え、経営危機に瀕していたそうです。

コンサルや受託も手がけ、吉田さんは必死で業績回復を図りますが、事態は一向に改善せず、やがて一人の役員が取引先を伴って離反。もう一人の役員も会社を去り、たったひとり残されて、失意のどん底にあった吉田さんのもとに、取引先のある上場企業からのお歳暮が届きました。

「3,000円くらいのクッキーでしたが、ものすごくうれしかったですね。それまでお中元、お歳暮のような慣習をバカにしていましたが、『取引をしてくれてありがとう』という気持ちがこもったお歳暮にこんなに感動するとは思わなかった(笑)。そのとき、ああ、俺は本当に寂しかったんだなと認めることができたんです。最後の一人になったときにうれしいのは、ありがとうの気持ちだということがよくわかった。そこからですね。仕事を通して、人の役に立ちたい、人を笑顔にしたいと純粋に思ったのは」

アパレルの会社を興す前、吉田さんはドリコムの執行役員として東証マザーズ上場を経験しています。しかし、上場後に業績が悪化し、採用担当の吉田さんは新卒の内定を取り消さざるを得ませんでした。自ら内定を出した学生に、今度は「内定を取り消す」と告げなくてはならなかった苦い体験も、人の役に立つビジネスを志したいという思いを後押ししたのでしょう。

クラウドワークスのサイトの、クライアントや登録会員の名前が表示されるエリアには、「ありがとう」ボタンが設けられています。いつも返信が早くてありがとう、いろいろな提案をくれてありがとう。さまざまな感謝の思いを相手に伝える機能の利用回数は、すでに130万回を超えました。中には825回も「ありがとうボタン」を押されているフリーランスの方も。「ありがとう」ボタンは、吉田さんを起業へと駆り立てた熱い思いを具現化したものなのです。

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