岡山県倉敷市。そこのとある地元企業が年に1回、2週間にわたって行う工場見学イベントに、全国から約8,000人もの来場者が詰めかけることをご存知でしょうか。しかも、そのほとんどは“工場”には馴染みが薄そうな女性ばかり。
その企業とは、1923年創業の「カモ井加工紙」。ハエ取り紙の製造から事業を始め、戦後は自動車や建物の塗装に使用するマスキングテープの製造を手がけてきました。
そんな同社が女性たちから熱狂的な人気を集めるようになったのは、ここ5年ほどのこと。工業用の商品だったマスキングテープをオシャレにデザインし、生活雑貨としてブランド化した「mt」シリーズの販売を始めたことがきっかけでした。
どうして工業用の製品を作っていた会社が、こんなにかわいい商品を手がけることになったのか。同社東京支店の課長代理、岡本直人さんにこの理由を聞いてみました。
■会社の転機となった工場見学
――マスキングテープはもともと、工業用の製品だったんですよね。
岡本:そうです。例えば車の塗装をするときに、色がはみ出さないように上からテープを貼る必要があります。しかしそれは、塗装の後簡単にはがすことができるものでもなければならない。そうしたことから、薄くて強度があり、しかも容易にはがすことができる「マスキングテープ」が生まれたのです。
弊社のマスキングテープは和紙を使っていることが特徴です。耐水性があり薄いのに破れにくい素材として、これほどぴったりなものはない。本社のある倉敷は近隣に製紙メーカーが多数あったこともあり、マスキングテープの製造に特化しました。
――現在のような、文具や雑貨としての使用は考えてなかった?
岡本:まったく想定していませんでしたね。会社も職人さんが中心で、10年ほど前には、現在のように女性から支持される商品を作るようになるなんて、誰も考えてすらいなかったと思います。
――転機はどこにあったのでしょう?
岡本:それは2006年のことです。ある日、3人組の女性が「工場見学をさせてほしい」と申し込んできたんです。その方々が言うには、自分たちは弊社のマスキングテープのファンなのだと。だから、作っているところをぜひ見たいというお話でした。
――会社としても、突然の依頼にかなりびっくりされたのでは?
岡本:驚きましたね。「女性がマスキングテープの製造現場を見たいって、どういうことなんだろう?」と。そうしたら、小冊子が送られてきて。そこでマスキングテープは実用品ではなく、作品を彩る素材として使われていました。それは私たちにとっても、「こんな使い方があったんだ!」とすごく新鮮な発見でした。
それで工場見学を受け入れることになったんです。
■商品開発はファンの意見を参考に
岡本:でも当時のマスキングテープには文具としての市場がありませんでしたから、色も5色くらいしか出していなかったんです。赤とか白とか茶とか、自動車の工場や建築現場などで需要があるものしか作っていなかった。彼女たちも文房具店ではなく、ホームセンターで購入したそうです。
――それが新しいユーザーと出会ったことで、市場開拓の可能性を感じた?