岡本:商売としてはまだ半信半疑だったと思います。やってみる気になったのは、ひとつには工場見学に来てくれた女性たちの熱意です。「もっとこんな色を作ってほしい」「こういうものがあれば絶対に買います」と、いろんな要望を出してくださった。こんなに熱心なファンがいるんだということに、私たちも感動したんです。
その結果、社内にプロジェクトチームを作って、通常の業務のかたわらで商品化を進めていきました。それが07年のことです。
――でも会社にはその道のプロはいなかったわけですよね?
岡本:ええ。ですから、彼女たちに積極的に意見をうかがいました。世の女性たちはどんなデザインだったら嬉しいのか、生活雑貨として売るためにはどんな工夫が必要なのか、打ち合わせを重ねていったんです。
――しかし、商品もホームページもすごくオシャレで、とても工業用の製品を作っていた会社のものとは思えません。
岡本:「mt」の魅力に賛同・協力してくれた方々のおかげで、すばらしいホームページになっていると思います。
――ビジネスとして利益が出るかどうかよりも、まずファンがいて、その人たちに喜んでもらえる商品づくりを目指したんですね。
岡本:そうですね。どうやって稼ぐかのノウハウがなかったといってしまえばそれまでですが(笑)、商売ではなく、ファンの方の熱意に応えたいという思いで動いたのが良かったんだと思います。徹底的に顧客目線に立って試行錯誤を続け、08年に20色セットの「mt」が初めてデビューしました。
■「mt」ブランドによって、社員の意識も変わった
――そこからヒットまでは順調でしたか?
岡本:08年2月の展示会に出品したところ、東急ハンズさんやロフトさんにすぐに興味を持っていただき、そこから一気に全国に広がりました。最初は5万本くらいの生産量でしたが、現在は増産体制を強化して、150万~200万本くらいは生産しています。絵柄も350種類ほど用意していますね。
――それはすごい! 会社の業績もさぞ好調では?
岡本:「mt」以後売上は大きく伸びて、そのうち「mt」は全体の2割くらいになるまで増えてきています。倍近い増益となったのは、「mt」ブランドが有名になったことで、もともとの本業である工業用のマスキングテープにも注目が集まったことが大きいですね。
――なるほど。会社も“ブランド”として知られるようになったんですね。
岡本:社員の意識もかなり変わりました。3年前から年に1回の工場見学イベントを行っていますが、定期的にお客さんが見学に来ることで、自分たちがどういう人に向けて、どんな製品を作っているのか、事務員から職人さんまで自覚的になった。今のうちの工場は、お客さんにもっと喜んでもらおうと「mt」で飾り付けたりしています。
そうやって変わっていくことで、これまでは数年に1度しか新商品を出さない会社だったのが、常に新しいアイデアを考え続けるようになりました。それが「mt」だけでなく、工業用製品のラインナップにも、良い影響を与えています。
――ちなみに読者が工場見学をしたいと思ったら、どこに問い合わせればいいのでしょうか?
岡本:時期は年によって違うのですが、募集はホームページで行います。ただ申し訳ないですが、現在は人数が殺到しすぎて、参加は抽選となっております。
――8,000人も参加するのに、抽選で落ちてしまった人がいるんですか!?
岡本:私たちも未だに驚いているんですよ。というか、「mt」を立ち上げて以来、ずっと驚き続けています(苦笑)。最近は台湾や中国でも「mt」のイベントを行っているので、海外から応募される方もいます。それほど幅広い人に支持される商品を生み出せたのは、すべて、06年の工場見学から始まっているんですよ。
● 「mt」ブランドサイト
● 「mt」Facebookページ
<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ