■大手が参入してきたらどうするのか?

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テラモーターズを設立し、積極果敢に事業を進める徳重さんには、これまで周囲から何度も同じ質問を投げかけられました。「大手が参入してきたらどうするのか?」。大手が本腰を入れていない段階ならまだしも、大手が本気になって攻めてきたらベンチャーなどひとたまりもない。質問にはそうした意図が感じられます。

この質問に対する徳重さんの答えに迷いはありません。アメリカの調査会社が毎年発表しているブランドランキングを例に挙げ、こう断言します。

「日本にいると、10年たっても大きな変化などないように思えるかもしれませんが、考えてもみてください。2000年のランキングでは、1位はソニーでした。コダックは第9位で、パナソニックは第10位。この段階でアップルもグーグルも30位以内に入ってなかったんですよ。ところが2010年の同じ調査では、1位はアップルで、2位はグーグルです。ソニーもパナソニックもランクインしていない。コダックに至ってはつぶれてしまいました。これが世界のスピードであり、ダイナミズムなんです」

いま現在、どんなに規模が大きく、ブランド力が高い会社であっても、それは未来永劫約束されたものではありません。技術が日進月歩で進化し、日々、新しい製品やサービスが生まれては消えていく世界だからこそ、ベンチャーであっても大企業を上回るブランドに成長できるチャンスがあるのです。

■自分の中にコアを持て!

大学で化学を学びながら、卒業後に住友海上火災保険に就職した徳重さんは、ずっと父親の価値観に沿った選択を繰り返してきたと振り返ります。

「うちの父親は、マンガ『巨人の星』のスパルタ親父・星一徹みたいな厳しい人。小さい頃から『一流大学を出て、一流企業に入るのが一番』と言われ続けて育ちました。卒業後、本当はソニーかホンダに行きたかったけれど、住友海上に入ったのは、山口に将来戻って来られることが条件だと言われたためです。本社の中枢の部署で働けたことは感謝していますし、尊敬できる先輩もいましたが、4年ぐらい経つと、何か違うんじゃないかと思うようになった。このへんで親父の呪いを解かないと自分の人生が始まらない。そう思って、会社を辞めました」

退社後、自費留学で米Thunderbird経営大学院に留学し、MBAを取得。そして、憧れの地であるシリコンバレーに渡り、ベンチャー企業の育成に携わりました。そして、自分が感動すること、面白いと思えることに素直に従い、テラモーターズを設立。リスクを取って何度も失敗しながらも、もがきつつ前へ前へと進んできた徳重さんは、日本のビジネスマンにこう活を入れます。

「書店のビジネス書のコーナーにはハウツーというかノウハウを紹介した本が並んでいますよね。でも、そういうテクニックなんてどうでもいい。大事なのは自分の中にコアを持つこと。信念を抱くこと。テクニカルな本を読むぐらいなら、昔の起業家の本を読みましょう。日本にもすごい人がたくさんいたんですよ。よく日本人は農耕民族だからダメなどと言われますが昔は全然違っていたことがよくわかる。自分にもできるはずだ。そんな気持ちを呼び起こされます」

野球の世界では、絶対に通用しないと言われながらも、野茂英雄は大リーグに進出し、成功を収め、後進のために道を切り開きました。テラモーターズは新たな成功コンセプトの確立を図る挑戦者。ビジネスの世界における野茂英雄かもしれません。

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<プロフィール>
徳重徹(とくしげとおる)
1970年生まれ。山口県出身。九州大学工学部卒業後、住友海上火災保険株式会社(当時)に入社。商品企画・経営企画等に従事し、5年半間勤務した後、退社。自費留学でアメリカのThunderbird経営大学院にてMBAを取得。その後、シリコンバレーに渡って、ベンチャー企業育成に携わる。帰国後、2010年4月にテラモーターズを設立。当初から海外市場を見据えて事業を展開し、国内の電動バイク、電動シニアカー市場ではトップシェアを獲得。ベトナム、フィリピンにも事務所を構え、海外の市場開拓を進めている。

<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/鈴木慎平