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これまで当サイトでは、人の「内向性」に関する3つの記事を掲載してきました。どちらかというと、欠点としてとられがちだった「内向的な性質」は、実は仕事をする上で強みとなることがあるという一連の記事に、いずれも大きな反響をいただきました。「内向的な人」の特性が持つ力に期待する声や、スタッフの「内向性」を活かす東京糸井重里事務所のような組織の存在に勇気付けられたという声、そして「内向性はタイプ別に考えることができる」という切り口に対し、「自分自身の内向性をもっと活用したい」という声などに、我々「内向的人間」を自認する編集部のメンバーはおおいに励まされる思いでした。

今回は、「内向的人間」の特性をうまく活かして、国内屈指のプロジェクト管理ツール「Backlog(*1)」を開発したヌーラボ社のCTO縣俊貴氏と、現在同サービスの責任者を務める同社の山本竜三氏へのインタビューを行いました。
両氏のお話からは、システムやサービスの開発に限らず、広く自分の仕事に対して「内向的な性質」を活かす多くのヒントが隠されていました。

今回のアウトラインです(読了5分):

  • 「内向型」人間がつくるサービス開発は、1人で集中することから始まる
  • まずは“乗っかってくれる”人を1人見つける
  • サービス・製品の“巻込み力”が問われるフェーズ
  • 自分の中の「内向性」の壁が突如はずれるとき
  • 「内向性」の高い人たちが集まるチームが、きめ細かいサービスを育て上げる
  • 製品の次なる進化へ、内向的な思考と行動で情熱を蓄積する

それでは、本編です。

■「内向型」人間がつくるサービス開発は、1人で集中することから始まる

「僕の場合、“内向性のタイプ”(内向性の5つのタイプについてはこちらをご参照)で言えば、“親しい人とひっそりタイプ”に当てはまるんじゃないですかねえ……」

そう語りだしたのは、ヌーラボ社のCTOであり、今回の事例でご紹介するサービス「Backlog」や、同じく同社の製品で、全世界に100万人以上のユーザーを抱えるクラウド型コラボレーションツール「Cacoo」(*2)など、数々の新サービスを開発してきた、縣俊貴さんです。

縣さんがサービスを創るときは、いつもまず、本業の時間ではなく、空き時間などに、1人でじっくりと、プログラムを自作するところから始まります。

「『Backlog』のときも『Cacoo』のときも、まずは僕が勝手につくりはじめたんです。それがある程度の段階にきたところで、試作版でみんなの反応をみていく段階に進めます。『Backlog』の場合だと、(現在の責任者の)山本さんが、試作版を使って“やりたい”、となり、田端さん(同社CFO)も“売りたい、お金をとれるようにしたい”ということになって、サービスが始まりました」

縣さんの場合、このようにして、何か自分が作ってみたいもの、他の人に役に立ちそうなものを思い立つと、時には週末をまるまる使って、自宅などで黙々と試作版づくりに励むそうです。そして、こうした時間の使い方ができることが、まず何より「内向性」の高い人の強みだと、縣さんは語ります。

「プログラマーに限らず、クリエイター的な人は内向的な人が多いし、そういう人が向いているのかもしれないですね。
ものをつくるのって、すごく時間を使います。もし僕が外交的な人間だったら(笑)、毎日人と会ったり、外で活動したりするのに時間を取られすぎて、プログラムづくりに没頭したり、新しいものをつくったりする時間を取れなくなってしまうと思います」

■まずは“乗っかってくれる人”を1人見つける

しかし縣さんは最初の試作プログラムを自作した後に、いきなりそれを会社でオープンにするわけではありません。次に彼がするのは「“乗っかってくれる”1人」、を見つけることです。

「『Backlog』のときは、まず1人の開発者の人に見せたんです。以前その人と別のサービスをつくったことがあって、きっとその人ならこの話に乗ってくれるんじゃないかと思ったんですよね。このときも、まずは仕事の空き時間で一緒につくろうということになりました。2か月くらい一緒に試作を進めてから、他の人たちに見せ始めたんです」

この縣さんの行動は、冒頭にあった「親しい人とひっそりとしたい」という、彼の内向性のタイプにそったものでした。自作したものをいきなり大勢の人の前でプレゼンテーションして、多くの反応を一度に受けるようなことは、このタイプにとって心地いいものではありません。
まずは「この話に乗ってくれそうな、身近な人」を1人巻き込むことにより、自分だけで作っていたときよりも中身を作り込んでいける状況をつくり、その関係の中で新しいサービス・製品の種を強化していく。その方が性格に合っているためストレスも少ないし、能力を発揮しやすいのです。

そして、この時期を過ぎると、内向性の高い縣さんの行動は、大きく変化します。

■サービス・製品の“巻込み力”が問われるフェーズ

「縣さんが社内の人にアプローチし始めると、また新しいプログラムをもってきたな……とわかるんですよね」(山本氏)

縣さんは、製品の種を数か月あたためると、それを社内に順次公開していきます。最初は自分のPCの中でしか利用できなかったサービスを、まず1人と共有し、次に自社内の10人程のユーザーが使えるように社内公開。すると、その選ばれたユーザーたちは、さまざまなインプットやリアクションを返してきます。

「ここで、イマイチ“巻込み力”の足りないプロダクトは、ファーストバージョン、セカンドバージョンあたりで、だんだん消えていきます。プロダクトに力があると、どんどんその“巻込み”が盛り上がっていき、社内に賛同者が増え、ビジネス的に確信がもてるところまで進んでいきます。」

「内向性」の高い縣さんは、新しいサービスを立ち上げるとき、声を張り上げ、魅力的なプレゼンテーションを展開することはしません。このように、じっくり時間をかけ、注意深く試作を繰り返し、その情熱をコツコツと注いで作り込んできた製品を通して、自分の考え・アイデアが魅力的であるかどうかを問いかけるのです。

この段階まで進むと、縣さんのアウトプットのし方にも、意外な変化が訪れます。

(次ページ)「内向性」の壁が突如はずれるとき