■妻との二人三脚で「じんラボ」を運営

ペイシェントフッドの柱として機能しているのが、2012年に開設したウェブサイト「じんラボ」です。患者が透析と正しく向き合い、互いに共感して、支え合い自立できるように、透析管理ツールやサポート情報等を提供しているネット上のコミュニティの開設には、力強い援軍の存在がありました。

「広告代理店で勤務していた私の妻が、いっしょにペイシェントフッドの仕事をやってくれることになりました。『じんラボ』の企画からブランディングまで手掛けたのも彼女。仕事的には彼女の方ができますね(笑)。私の一番のミッションは、『じんラボ』の方向性や考え方を伝えていくことです」

腎臓病や人工透析に関する教科書的なサイトならほかにもありますが、『じんラボ』が目指しているのは、透析患者の運動や結婚、旅行といった患者の幅広い悩みや興味に応えるサイト。2013年6月からは、医療従事者と透析施設を対象に、透析施設に特化して、ドクターや看護師の就職や再就職を斡旋する人材紹介サービス「じんラボのじんざい」もスタートしました。

ウェブだけにとどまらず、リアルのサポート体制も導入しています。同じ病気に苦しむ患者同士が不安や悩みなどをざっくばらんに話しながら共に考えていく場として「じんサポ」を開いたり、製薬メーカーに向けての講演やワークショップを開催したり、透析機関へのコンサルティングを行うなど事業内容は多岐にわたっています。

腎臓病に関するポータルサイト「じんラボ」

腎臓病に関するポータルサイト「じんラボ」

「患者の声を聞きたいという製薬メーカーの希望が多いので座談会も実施しています。患者だけではなく、医療従事者が幸福にならないと患者の幸福も実現しない。素晴らしい薬が出てきたおかげで、私もずいぶんと助けられました。患者も医療従事者も、腎臓病透析に関わるすべての人に幸せになってもらいたいんです」

■一人ひとりの人生の価値に光をあてたい

NPO法人患者スピーカーバンクの活動に共感し、事務局長として参画しました。いろいろな疾患の患者や障がい者という立場から、一般市民、医療系学生、医療従事者に向けて講演や講義を行う「患者スピーカー」を育成するプログラムがあり、に自分の経験を活かして、多くの方に気づきや学びを伝えていくことが目的です。

「病気は基本的につらいし、マイナスというイメージが強いです。でも、後から振り返ると、その中に人に与えられるものがあることをぜひ知ってもらいたい。マイナスの中にプラスがあることを知って、喜ぶ患者さんもたくさんいます。一人ひとりの人生の価値に光をあてて、誰もが輝ける社会にできたら。そう思うんですよ」

いまも変わらず人工透析を受けながら、会社を経営し、患者会である東京腎臓病協議会の理事もつとめ、多忙な毎日を送る宿野部さん。夢はさらに広がります。

「リアルのじんラボセンターを作りたいと考えています。メンタルの部分や食事など、トータルでサポートできる拠点ですね。医者と患者が同じ立場で運営できたらと思っていますが、まずはペイシェントフッドを採算に乗せないと(笑)。株式会社でやる以上利益を出さないといけませんからね。いま5期目で、まだ赤字ですが、昨年度はかなり成長できたと思います。いろいろな仕事をして、新聞にも紹介されて、『じんラボ』自体のアクセスもずいぶんと増えて、ようやく黒字の兆しが見えてきた。今年は、勝負の年ですよ」

メガネをかけた宿野部さんのイラストが印象的な「じんラボ」のイメージカラーは赤。ポジティブかつアグレッシブな色でもあり、人の心を温かく灯す赤い色は、宿野部さんの情熱の象徴でもあります。2015年、「じんラボ」を運営するペイシェントフッドの大いなる飛躍が期待できそうです。

「じんラボ」のロゴそのまま(!?)の宿野部さん

「じんラボ」のロゴそのまま(!?)の宿野部さん

<プロフィール>
宿野部武志(しゅくのべ・たけし)
1968年、埼玉県川越市生まれ。3才で慢性腎炎となり、18才で人工透析を開始。大学卒業後、ソニーに就職し、人事グループにて14年間勤務した後、2006年に退職して福祉の専門学校へ入学。卒業後、社会福祉士の資格を取得し、2010年に株式会社ペイシェントフッドを設立した。腎臓病の闘病、透析を受ける当事者としての経験を腎臓病・透析患者・家族、そして医療の現場に還元すべく、透析患者の生活相談サポートや透析クリニックのためのコンサルティング、企業での講演など幅広い事業を展開している。

<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/鈴木慎平