15021001_1ヒット本の陰にこの人あり──。ビジネス、教育、教養、自己啓発。さまざまなジャンルにわたって著者の魅力を引き出し、読者からの高い評価を得ているのはもちろん、著者からも厚い信頼を獲得している凄腕ライターの藤吉豊さんが、ライフネット生命の社内勉強会で、ご自身の仕事の流儀を語ってくれました。

*藤吉さんの「吉」の字は、正しくは上が土、下が口です

■ゴーストライターの正しい使い方

昨年、音楽の世界で話題となったゴーストライター騒動。とかく「ゴーストライター」というと、表に著者として名前を出している人とは別の、実際に執筆をしている人=日陰の人というイメージでとらえられることが多いようです。著者の側も、「自分で書かずに“ゴースト”を使う」というと、何やら人をだましているような印象を持つ人も多いかも知れません。

「僕の肌感覚で言えば、ビジネス書の、7割くらいは、いわゆる“ゴーストライター”、つまり“編集協力をするライター”が何らかの形で関わっている感じがします。ずいぶん多いと思われるかもしれませんが、それだけ、『プロのライターを使うこと』が本づくりのしくみとして定着している気がします。音楽家の騒動のように、実際に関わった人をなかったものにすればウソになりますが、出版の場合は、ライターのクレジットを明記することも多いですし、決してやましいことではありません。本のつくり方として、ライターの起用は正しいと思います。

矢沢永吉さんの『成り上がり』を読まれた方も多いと思いますが、この本の原稿をまとめたのは、コピーライターの糸井重里さんです。「取材構成」とか「聞き書き」として、お名前が出ているんですね。

著者となる方は、本業で忙しいことも多いですから、ライターがその方の話をきいて書く方が効率的ですし、案外ご自分が書くよりも客観視して書けるという利点もあります。ライターが質問をすることによって、著者の新たな考えが引き出されることもあるでしょう。ライターが書いた原稿は、あくまでも基礎や土台のようなもので、その上に著者や編集者が味付けや肉付けをして、質を高めていきます。ライターが客観的に組み立て、さらに編集者が全体を調整し、著者が手を加え、人手をかけることによって作品がより良いものになるんです」

さらにデザインや印刷など、さまざまな分野のプロフェッショナルが工夫を重ねることで良い本ができていく。ゴーストライターは、そのチームの立役者のひとりとして、決して日陰の存在ではない、大事な専門職であるわけです。

「口述筆記や代筆だけでなく、著者からいただいた原稿をリライトすることもありますし、『ゴースト』という表現にはネガティブな印象が含まれているので、僕自身『ゴーストライター』という言葉は使いませんが、仮に僕がゴーストなのだとすれば、人を呪い恨む呪縛霊や浮遊霊ではなくて、著者や編集者を支えて守る、守護霊のようなライターでありたいと思っています」

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