写真左:柳匡裕さん(Social Café「Sign with Me」オーナー)、 右:岩田慎一(ライフネットジャーナルオンライン編集長)

写真左:柳匡裕さん(Social Café「Sign with Me」オーナー)、 右:岩田慎一(ライフネットジャーナルオンライン編集長)

旅行に行くような感覚で、憧れの職場や子どものころ夢見ていた職業を1日だけ体験できる「仕事旅行」を提供している仕事旅行社さん。先日その代表の田中さんにお話をうかがったので(記事はこちら)、実際にそこで行われている旅のひとつ、「手話&筆談カフェで働く旅」に編集部スタッフ自ら参加してみました。

※当記事では、柳さんのご著書等に準じて、聴覚障害者を「ろう者」、健聴者を「聴者」、身体に障害をもつ方を「障害者」と表記しています。

●こんにちは、と言えなくて

本郷三丁目、雑居ビルの2Fにある小さなカフェ「Sign with Me」が今日の仕事体験旅行先。手話と筆談だけのカフェって、どんな感じなんだろう。ドキドキしながらドアを開けたものの、「こんにちは」「取材に来ました」と言えず、顔と口とジェスチャーで必死にアピール。そんなわれわれを、みんなあたたかく迎えてくれます。
階段の登り口には、こんな楽しげなスタッフたちの笑顔がお出迎え。

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今日はカフェの創設者で代表の柳匡裕(やなぎまさひろ)さん直々に、ツアーをガイドしてくださるようです。

●今日のルール「音声日本語禁止!」

われわれ編集部はノートや小型のホワイトボードを広げ、柳さんはパソコンを広げ、会話スタート。まずは「音声日本語禁止令」から。このお店の共通語は「日本手話」。うっかり音声日本語を発すると、そちらに聴者の注目が集中して、バランスが一気に崩れてしまうからです。
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●「手話」という言葉自体が誤解のもと!? 

英語では、手話のことを「サイン・ランゲージ」と言いますが、日本語の「手話」という言葉は、手指だけを使うようなイメージを与えます。けれども実際の「日本手話」は、手の形や動きだけでなく、顔の表情や肩の動きなども言葉の要素として使うのだそうです。お店の名前が「手話」ではなく「Sign」を使用しているのも、そのため。
確かに、柳さんの表情の、本当に豊かなこと!
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●まずは今日の概要を確認

仕事旅行社ウェブサイトより

仕事旅行社ウェブサイトより

●「職場案内」

「4人掛けが2卓、2人掛けが4卓、カウンター席6、キッチン、トイレ各1。以上! これでこの項は終わりです(笑)」

確かにかわいらしい規模ですが、カウンター席前一面が、筆談可能なホワイトボードになっていたり、テーブルには、音声言語でご案内しなくても伝わるように、こんなカードが置いてあったり。随所に工夫がみられます。

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●自己紹介

まずは手話で名前と出身地、年齢を自己紹介できるよう、柳さんに教えてもらいます。

「私は、岩田慎一です。岐阜県出身、40歳です。よろしくお願いします。」

手話は「岩」や「田」などの言葉を表す部分と、カタカナのように一音一ポーズの「指文字」部分、県名などの固有名詞や、数字の表し方など、さまざまな要素が組み合わさってできています。なるほど、と関心。ちょっと緊張しつつ、キッチンで働く女性スタッフに自己紹介。にっこり笑ってくれました。通じた……(安堵)。
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●ろう者のこと、柳さんのこと

ここから、柳さんのこれまでの人生や経験、勉強してきた障害者のこと、カフェをつくった経緯など、かわいいカフェの姿の後ろにあるものについて、たっぷりお話をうかがいました。「障害者」という概念は、産業革命によって大量生産が社会に広がり、その効率を高めるためにさまざまな事柄の「規格化」が起こり、その規格からはみ出す人、ということでできてきたものなのだそう。

「ろう者は、聞こえるようになりたいのではなく、聞こえなくても普通に暮らせるような社会を望んでいるんです」

聞こえないこと自体が不幸だなってちっとも思わない、と。なるほど、と納得。

●休憩

人生初、手話で自己紹介するという第一関門をクリアし、障害者の就労について概論をうかがったところで、ドリンク休憩。お店のメニューの中から好きなものを選んだら、作り方をスタッフの方に教わって、分量を計り、自分で作ります。

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