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佐々木:変わると思います。これまで会計業務というのは、税理士などの専門家や経理の人でないとできませんでした。僕も起業前に、既存のソフトを使おうとしたことがありますが、難しくて使えませんでした。大学で簿記を勉強して、世間一般よりは知識があるつもりだったので、使えないというのはショックでした。だから誰でも簡単に使えるソフトを作りたかったというのもあります。起業を考えている人にとって会計業務というのはとても厄介なものですが、そのハードルが下がれば起業しやすくなるし、ビジネスが始まってからも自分のやりたいことにフォーカスできると思います。

岩瀬:会計業務のリソースがない人には大きなメリットがありそうですね。

■日本企業の古い文化を率先して変えて行く

岩瀬:今スタッフは何人くらいいますか?

佐々木:100人くらいいます。昨年の年初時点では12人でした。

岩瀬:この1年でずいぶん急に増えましたね。

佐々木:freeeをもっと広めるには開発チームの強化とサービスの拡充が必要だと思って、17億円以上の資金調達をして人を増やしたんです。今年はCMを流していることもあってユーザー数、問い合わせ数が急増していますが、万全の体制で臨むことができています。

岩瀬:人が増えると社内の労務管理なども大変でしょうね。

佐々木:それは最近よく思います。ただ、僕はまさにそういったところを簡素化しようと思ってfreeeを立ち上げたわけなので、そこも自動化していこうと思っています。例えば去年、社内用に給与計算ソフトを作りました。今のところそれで管理できているので、うちには経理や人事がいないんです。

岩瀬:組織として動くには経営理念や社風なども大事になってくると思いますが、そのあたりはどのように?

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佐々木:カルチャーの浸透には時間をかけて取り組んでいます。シリコンバレーでスタートアップした友人からアイデアをもらって、自分たちの価値基準を明文化しました。落ち着いて見ることのできる場所がいいということで、それをトイレに貼っています。

岩瀬:カフェみたいなミーティングスペースがあったり、大きなソファで仕事をしている人がいたり、ちょっと見て回るだけでも発見の多い職場ですね。よく見たら社員さんの机に固定電話がない。

佐々木:要らないかな、と思って。名刺にも携帯の番号しか載せていないんですよ。

岩瀬:席をちょっと移動すればお互い話せる距離にいるから内線も要りませんね。このオフィス自体が、徹底的な効率化を目指すfreeeの世界そのものというわけですか。

佐々木:日本企業の古い文化を、僕たちから率先して変えていくつもりやっています。日本の企業、特に中小企業ではテクノロジーの浸透が遅れているところが多いと思います。例えばファックスだって、日本ではほとんどの企業が現役として使っていますが、、アメリカだとスミソニアン博物館に飾られるくらい歴史的な代物ですし(笑)。

岩瀬:日本はネット販売でもまだ完全にネット化されていないというか、良くも悪くも泥臭い部分が残っていますよね。サイトもごちゃごちゃしていて、リアルな商店を回っている感じがします。欧米はamazonのようにシンプルなつくりで、購入までが自動化されているイメージがあります。こういった日本と海外の違いって、どういうところから生まれていると思いますか?

佐々木:日本はいきなりマスを取ろうとします。子どもからお年寄りまで、いきなり全員に受け入れられないとダメ。一方海外では、先進的な人に合わせていく。その差があると思います。

岩瀬:そうなるとクラウド会計ソフトはまさに後者ですね。

佐々木:僕たちはインターネットを使っている人たちに喜ばれるサービスを提供するというコンセプトが最初にあります。もちろんそこから徐々に、インターネットを活用していなかった人にも使ってもらえるような努力が必要なわけですが。

(後編につづく)

<プロフィール>
佐々木大輔(ささき・だいすけ)
1980年東京生まれ。2004年一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。在学中はスウェーデンのストックホルム経済大学への派遣留学や、インターネットリサーチ会社でのインターンを経験する。卒業後は博報堂、CLSAキャピタルパートナーズを経て、株式会社ALBERTの執行役員に就任。2008年にGoogleに参画。2012年freee 株式会社を設立。日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 、2014年日本の主役100人に選出。

<クレジット>
取材・文/香川誠
撮影/村上悦子