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実業家、科学者、そして政治家として、アメリカ合衆国の建国に大きく貢献したベンジャミン・フランクリン(1706年~90年)。独立宣言を起草したことでも知られる彼が、長年、「カレンダー」の出版を事業として行っていたことはご存じでしょうか?

フランクリンが生きた18世紀は、日時を知らせるメディアが新聞くらいしかなかったので、各家庭にカレンダーが必需品でした。そして、カレンダーといえば余白部分に書き込まれた「格言」を思い出す人も多いでしょう。「3月4日・本当に賢い人は失敗から学ぶ」みたいなアレです。

実は、このフォーマットを作ったのもフランクリン。「勤勉と倹約」が信条だった彼は、本などほとんど買わない当時の一般市民の間に教訓を伝えるための手段として、カレンダーの余白に古今東西の諺、それも日々の生活に欠かせない格言を掲載したのです。

彼は『自伝』のなかで、次のように語っています。

「その大部分は勤勉と節約とが富を得る手段であり、従って得を完全に身につける手段でもあることを説いたものだった。なぜなら、(その諺の一つをここであげてみれば、)『空の袋は真直には立ちにくい』ように、人は貧乏な場合のほうがいつも真正直に暮らすことが容易ではないのだから」(『フランクリン自伝』<岩波書店>より)

そして後にフランクリンはこれらの格言をまとめて、ひとつの教訓話にまとめます。それは、ひとりの老人が商品の競売場に集まってきた人たちに「財産を得る方法」について語りかけるものでした。

その内容を要約すると、「お金持ちになるには、時間を決して無駄にしてはならない」という点につきます。究極の贅沢は時間の浪費であるとも言っているように、時間はどんなお金持ちにも貧乏人にも平等に与えられるものだからです。まさに、タイム・イズ・マネー。

特に奨励されているのが「早寝早起き」。人が起きる前に仕事を始め、人が遊んでいるときに学べば、「財産を殖やし、知恵を増す」と説かれています。さらに、こうしたサイクルで生活することは精神衛生的にも良く、健康にもつながっていきます。だから、ますます働き、ますます財産を殖やすことができるというわけです。

仕事の効率がアップすると、近年ブームとなっている「朝活」ですが、今から200年以上も前に、すでに同じような効能があると指摘されていたのです。

フランクリンが説く格言は、基本的な心構えを語ることが多く、人によっては「説教臭い」「そんなの当たり前じゃないか」と感じる人もいるかもしれません。しかし、彼の教えに感銘を受け、文章や発言で好んでその格言を引用し、その教えを実践して生きているのが、世界有数の投資家として知られるウォーレン・バフェットであることは重要です。

実際、バフェットも「勤勉と倹約」の教えを何よりも大切にして暮らしており、総資産7兆円とも言われながら、現在もアメリカ郊外のオマハで質素な生活を送っていることはよく知られています。

現在、フランクリンの教訓話は「富に至る道」と題され、日本では岩波文庫の『フランクリン自伝』で読むことができます(中公クラシック版には未収録です)。短いお話ですが、バフェットのエピソードを頭に入れたうえで読むと、そこに“富に至る道”へのヒントが隠されていることに気がつくはずです。

『フランクリン自伝』(岩波文庫)

『フランクリン自伝』(岩波文庫)

<クレジット>
文/小山田裕哉