金柿秀幸さん(株式会社絵本ナビ代表取締役社長)

金柿秀幸さん(株式会社絵本ナビ代表取締役社長)

年間約850万人が利用する絵本・児童書の情報サイト『絵本ナビ』。子どもと一緒に読む絵本を探すお母さん方だけでなく、今では出版社や書店からの信頼も厚いwebサイトとなっています。創業者で代表の金柿秀幸(かながきひでゆき)さんは、大手シンクタンクで昼夜を問わず働く「仕事一筋」の生き方から一転、2001年にこのプロジェクトをスタートさせました。金柿さんを独立へと向かわせたものとは何だったのか。その思いをうかがいました。

■木造アパートからスタートした『絵本ナビ』

──どのような経緯で「絵本ナビ」を立ち上げられたのですか?

金柿:シンクタンクでエンジニアを8年、最後の1年は経営企画として働きました。当時は「男は仕事」の価値観が強く、ワーカホリックでしたね。入社3年ほどで結婚をしたので一層仕事に打ち込まなければとも思っていましたが、一方で夜中にタクシーで帰り、早朝に出勤する生活を続けていると、仕事をすればするほど幸せが遠ざかっていく感覚もありました。

学生の頃から、いつか自分の考えたサービスや商品を世に問おうと思っていましたが、妻から「子どもができた」と聞いて自分自身の将来を考えたとき、独立して新しいことにチャレンジしようと思ったんです。

──会社を辞めた後、すぐに創業されたのですか?

金柿:半年ほどは、生まれたばかりの娘のお世話をしながら、どんな事業を始めるか考えていました。絵本の面白さに気づいたのは、その頃ですね。赤ちゃんなので内容は分からないはずなのに、絵本を読んであげたらとっても喜んでくれて。絵本を買いに書店に行ったらどれを選んだらいいのか分からなかった。そこで、妻の友人たちに聞いてみるとクチコミで情報を交換していることが分かりました。

それで10人の先輩ママに、おすすめの絵本5冊をコメントと一緒に紙に書いてもらったんです。皆似た本を読むのだと思っていましたが、集まった50冊の中でかぶっていたのは『ぐりとぐら』の1冊だけ。面白いことに家庭によっておすすめの絵本が全然違うんですね。

──お子さんの好きなものや年齢に合わせて選んでいたんですね。

金柿:集まった50冊の絵本のタイトルとコメントをリスト化して配ったところ「これ面白いよね!」「貸してあげるよ!」と盛り上がって。こうした情報の共有をインターネットでやったらどうか、と閃きました。前の会社にいたときの仲間がサービスの立ち上げを手伝ってくれました。アメリカでベンチャー企業がガレージから育ったように、アパートの1室でパソコン1台だけでスタートさせる、というのはとてもワクワクしましたね。

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