■女性のキャリアプランはジグザグ型

──企業の具体的な要求に応えていくスキルを身につけるためには、どんな経験が必要だと思いますか?

田中:フリーランスは自分で考えて動く自走性が問われるので、企業にいるうちからリーダーとして、何らかの意思決定に関わっていたり、周囲をまとめるポジションを経験していないと難しいでしょう。できれば、10年から15年くらいは社会人としてのキャリアを積んでほしいです。

──そうなると、かなり早いうちから自分のキャリアプランというものを意識する必要がありますね。

田中:大変かもしれませんが、今は変化がすごく激しい時代なので、女性にもキャリアの主導権は自分が握るという感覚を持ってほしいんです。ほとんどの方は、就職活動の際に自己分析をして、自分が何をやりたいか考えますよね。でも、社会に出てからも自己分析をやり続ける必要があると思います。

今やっている仕事はどんな意味があるのか、これからどんなキャリアを形成していきたいのか。そういう振り返りを常にやる必要がある。

というのも、もはや高度経済成長期のように、ずっと同じ会社に勤められると保証された時代ではなくなりました。そこで自分らしい生き方をするためには、自分で自分のキャリアをコントロールする意識が欠かせないからです。

──しかも女性は結婚や出産も考えると、男性よりもキャリアにおいて選択を迫られる瞬間が多い。

田中:女性と男性のキャリアは違いますからね。男性は就職してからは直線的なキャリアプランを描きやすいんです。でも、女性は結婚や出産だけじゃなく、パートーナーの転勤などでも「働く・休職する」という選択肢を迫られる。だからキャリアプランが直線的ではなく、働いたり休んだりを繰り返すジグザグ型になってしまう。

それに、最近は出産年齢が全国的に上がっていますよね(2014年版「少子化社会対策白書」によると、全国平均は30.3歳)。そうなると、「働く・休職する」という選択肢を迫れられる瞬間が30代に凝縮されます。

だから「私はどうしたいのか」という意志をちゃんと持っていないと、自分を取り巻く環境が目まぐるしく変わるなかで流されてしまう。反対に、考えるのが早ければ早いほど、自分で選択できる未来が増えるんです。

■逃避としてのフリーランスはダメ!

──田中さんのもとに相談に来る人は、その覚悟が決まっている方が多いのでしょうか?

田中:年齢によりますね。30前後くらいだとこれといった不満があるわけじゃないけど、このままでいいのかな私、というようなモヤモヤした悩みを抱えた女性が多い印象です。

──そういった人へのアドバイスは?

田中:先ほども言ったように、自分で自分のキャリアを決める意識を持つことですね。そうすれば、リーダーをやるチャンスがあったときに、多少不安があっても自分から手を挙げるようになるものです。

もちろん、万人がフリーランスになる必要はないんですよ。ただ、共働きが前提になると、女性もどんどん引退が長くなって、将来は60歳、70歳くらいまで男性と同じように働くことが求められるかもしれない。そういう意味でも、フリーランスを視野に入れておくことはオススメですね。

──反対に、フリーランスを考え直したほうがいいタイプは?

田中:それこそ、30歳くらいでモヤモヤしていて、何となくフリーランスもいいかなと思っている人には、「まず会社員としてやりきったと思うところまで頑張って」と言います。現実からの逃避でフリーランスになるのは、リスクが大きすぎます。

──ライフネット生命で実施したフリーランスの働き方とお金に関する調査でも会社員と比べて不安だと思うことの第1位が「収入が不安定」だったのですが、自分で自分を守らないといけないですからね。

田中:100%自己責任の世界です。それに日本の会社員、特に大企業の方はものすごく良質な社会保障で守られているんですよ。それを失ってでも飛び込むメリットはあるのか、ちゃんと考えてほしいですね。

──最後に、Warisの今後の目標は?

田中:現在の登録者数は約1,000人ですが、これを8月までに1,500人くらいに増やしていきたいと思っています。

──そうなると、依頼をもらう企業の開拓も必要ですね。

田中:ええ。ですから今後は、地方にも広げていきたいと考えています。すでにいくつか相談はいただいていて、実際に名古屋や福岡といった地方都市の企業様とご成約例があるんですよ。

最近では、福岡のアプリ会社で資金調達をしたいのだけど、事業計画書をつくるにあたって、Androidアプリの市場分析やリサーチをやってくれる人を探しているというご相談がありました。そこで、もともと大手の代理店で市場調査をやっていた人材をマッチングしたんです。地方での優秀な文系総合職のニーズは、かなりあると感じています。

──働くママたちがフリーランスとして全国の企業と仕事をするようになったら、日本の労働環境や意識はかなり変わっていきそうです。

田中:そうですね。弊社のお客様でも「これからの時代は人が組織に合わせるのではなく、組織が人に合わせていく必要がある」と仰る方もいるので、働く女性をめぐる環境は、これからどんどん変わっていくのだと思います。

『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

<プロフィール>
田中美和(たなか・みわ)
株式会社Waris代表取締役CCO。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー。1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現 ・日経BP社)入社。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく12年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て、13年に株式会社Waris設立。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』がある

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ