──絵本の魅力はどんなところにあるのでしょう。

金柿:いつも、こんなに少ない言葉で、短い文章で、心に響くのはどうしてだろうと思います。子どもに絵本を読んであげると、自然と心が近くなれるような気がするんですよ。絵本には文字を学んだり癒しを求めたりと、「効果」として現れる部分もあるのですが、それ以上にコミュニケーションツールの要素が大きいと思います。

絵本ナビ本社にある本棚。『ぐりとぐら』『からすのパンやさん』などのベストセラーから新しいものまで、多くの絵本がグッズとともに並んでいる。

絵本ナビ本社にある本棚。『ぐりとぐら』『からすのパンやさん』などのベストセラーから新しいものまで、多くの絵本がグッズとともに並んでいる。

──大人と子どもの間をつなぐもの、ということでしょうか。

金柿:寝る前の10分間、絵本を読むだけで子どもと気持ちを通わせることができる。それは「幸せな時間」となり、二人をより親密にしてくれるような気がします。子どもが大人になったとき、ストーリーは覚えていなくても、低い声や、ひざのごつごつした感じ、そうした五感的な部分は残ります。読むのが苦手だったら、絵本じゃなくてもいいんです。車が好きだったら新車のカタログでもいいし、野球が好きだったらプロ野球選手名鑑を広げて「この人は右打ちでな」なんて話をしてもいいと思います。

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──大人が好きなものを子どもに話す、時間と空間が大切なんですね。

金柿:普段は意識しないですが、子育ては期間限定ですからね。お子さんとの幸せな時間を作るきっかけになるようなすばらしい絵本はたくさんあるので、そのつなぎ手として仕事ができるのはとても嬉しいです。

■絵本ナビのこれから

──これからの絵本ナビについて、どのようなことをお考えですか?

金柿:立ち上げの当初から一貫して、単なる商材としてではなく、絵本がつなげる「幸せな時間」の価値を伝えていきたいと考えています。つまり時間の記憶をいかに残すか、ということですね。その部分を大事にしつつ新しい提案をしたいと思っています。

例えば、書きためたレビューを1冊にまとめて、読んだ絵本の記録を作ることができたら、お嬢さんの結婚式でプレゼントできますよね。そして結婚された娘さんも、また子どもにお話を伝えていく。何度も一緒に読んでぼろぼろになった絵本それ自体が宝物であるように、絵本の記憶も伝えられて、幸せが連鎖していく。

これって、すごくロマンチックなことではないでしょうか。私たちはネットベンチャーなのですが、そうした世界に関わることができるのは本当にありがたいです。

──これからも新しいプロジェクトがたくさん出てきそうです。

金柿:日々挑戦ですね。これからもユーザーさんの声を大事にしながら、「絵本を読んでみたい」「絵本と出会いたい」という気持ちを広げていきたいです。書店員さんや出版社さんができないこと、ウェブメディアだからこそできることを提案し続けていきたいと思っています。

〈プロフィール〉
金柿秀幸(かながき・ひでゆき)
株式会社絵本ナビ代表取締役社長。1968年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、大手シンクタンクにて民間企業の業務改革と情報システム構築を推進。その後経営企画に従事する。2001年愛娘の誕生に合わせて退職。約半年間子育てに専念した後、株式会社絵本ナビを設立。「パパ’s絵本プロジェクト」の一員として全国各地でおはなし会も開催。雑誌など各メディアにて絵本紹介、講演など多数。NPO法人ファザーリング・ジャパン初代理事。
●絵本ナビ

〈クレジット〉
取材/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/高橋沙織
撮影/鈴木慎平