今年で3年目を迎えるLIFE VIDEO株式会社。そのままでは風化してしまう一個人の記憶を、プロのディレクターやプロデューサーが取材・編集した「LIFE VIDEO」という形で、
未来に受け継いでいこうとしています。

「テーマは『作り手の目線が入ったドキュメンタリー』。ただの時系列のビデオではないということ。本人が亡くなったら焼かれてしまうような写真だったり、消えてしまう個人の記憶だったりを、形にしたいと思っています」

『あなたの人生のビデオ』がコンセプトのLIFE VIDEO

『あなたの人生のビデオ』がコンセプトのLIFE VIDEO

有名人でもない一個人が、自分の人生をドキュメンタリーにまとめるなんて、あまり馴染まないのでは、と、もしかすると思われるかもしれません。しかし、実際にビデオを制作した方の感想を聞くと、そうではないことがわかります。自分の生き様が子や孫へと伝わっていくことへの感動や、自分の人生がより深まる実感など、LIFE VIDEOによってもたらされる喜びはとても大きいようです。

このように、個人の歴史や会社の社史をたどる映像を作ってきた中で、昨年ひとつの転機がLIFE VIDEOに訪れました。

「鎌倉の『カマコンバレー』というプロジェクトに誘われたんです。そこで『鎌倉今昔写真』という企画を提案しました。そして賛成を得て高齢者の方が持っている昔の写真と、地元高校写真部の生徒が撮った現在の街や人々の写真。これを一緒に見ることができるアプリを開発しました。ただ写真が見られるアプリを作るだけではなくて、写真を撮りに行くというイベントによって、高校生と高齢者の世代間交流ができるというのもキーになっています。『今昔写真』によって、地元への愛着を醸成することができるという。

それだけならここで終わりなんですけど、同じことを鯖江、福岡、横須賀、今治など他の地域でもやろうとしています。今はそんなことも始めています」

鎌倉今昔写真ホームページ。同じ風景の今と昔がわかります

鎌倉今昔写真ホームページ。同じ風景の今と昔がわかります

ここで大事なのは、今昔写真の企画が、当初考えていたLIFE VIDEOの事業とは異なっているというところ。テレビプロデューサー時代に培った経験と教訓を活かし、土屋さんは新しい挑戦をすることを躊躇しませんでした。

「LIFE VIDEOという、誰もやらなかったことをしていく中で、誰も気がつかなかったことに気がつく。元々のLIFE VIDEOは個人の記憶をテーマにしていたんですが、記憶をビジネスにするということを別の視点から考えたことで、鎌倉今昔写真のような違うモデルが生まれました。当初の企画から変化することを恐れずに、いろんなことをやっています。時代に合ったことをするには、これが大事」

最後に、土屋さんは新しいビジネスモデルが成功する秘訣について、こうまとめました。

「会議でリスクをあげつらって、『これはこういう風になるだろうから、考え直した方がいいんじゃないか…』なんていうのは、愚の骨頂。LIFE VIDEOも最初は全然うまくいくわけないと思われていたけれど、無事3年目に突入しています。今まで存在しなかったビジネスモデルが成功するっていうのは、ある種の奇跡。奇跡を呼び起こすには、みんなの賛成を求めていてはいけない。挑戦は、9割が失敗して、成功するのは1割。そう思いながら、今、LIFE VIDEOをやっています」

テレビという一見特殊に見える業界で働いてきた土屋さんですが、事業を成功させる上で大切なことは、どの業界でも変わらない普遍的なもの。「自分の信念をもって、挑戦し続ける」という大切なことを、改めて学ぶことができた貴重な勉強会でした。

<プロフィール>
土屋敏男(つちや・としお)
テレビプロデューサー。日本テレビ放送網編成局専門局長。1979年に日本テレビに入社し、ワイドショーの現場を経てバラエティ番組の制作にたずさわる。『電波少年シリーズ』『ウリナリ』『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』など、伝説的なヒット番組を演出・プロデュース。2012年に、日本テレビと日テレアックスオンが設立した新会社のLIFE VIDEO代表取締役社長に就任。

<クレジット>
文/志村優衣
撮影/鈴木慎平