将来への蓄えとして、家計を切り詰めた貯蓄だけでは不安だ。無理のない範囲で資産を増やしてみたい――。いろいろな理由で新生活のスタートをきっかけに「個人投資」を検討する人もいるのではないでしょうか。アベノミクスによる株価上昇も手伝い、株式投資をめぐる状況は良いように見えます。

しかし、投資はリスクも伴うもの。いったい、どんな心構えで臨めばいいのか? そんな不安を抱く人もいるのではないでしょうか。そのための知恵を、“世界一の投資家”と称えられる、ウォーレン・バフェットの言葉から学んでみましょう。

■投資の判断は株価ではなく「企業価値」で決めよ

「投資を成功させるためには良い企業の株を、その企業の真の価値よりも大きく下回った市場価格で取引されているときに購入すること」

これは自身の投資スタイルに関する考えをまとめた本『バフェットからの手紙』(著者:ローレンス・A・カニンガム)の一節です。

世界最大の投資持株会社「バークシャー・ハサウェイ」のCEOにして、総資産727億ドルというバフェットは、その華々しい経歴にもかかわらず、本業である投資について、非常に保守的な考え方をすることで知られています。

彼は企業の株を買うかどうかの判断を「株価(プライス)」で決めません。その企業が潜在的に持っている「価値(バリュー)」で判断します。つまり、10年、20年、さらには50年先も競合優位に立てるビジネスモデルを有しているか。そこをまず見るのです。

そして、その企業の株が本来持っている潜在的な力に対して“不当に安い”状態で売られているとき――それが絶好の「買い」の機会となるのです。

バフェットが長年にわたって株式を保持する企業のひとつ、コカ・コーラ社がまさにこの事例にあてはまります。

■市場が高騰しているほど株の購入に慎重であれ

1919年にコカ・コーラは上場しました。しかし、それから10年後には将来性への不当な低評価(ひとつの製品に依存しすぎている、など)によって、株価は50%以上も下落しました。当時の株価は19.5ドル。それが1993年の年末には、「配当の再投資分も含めると同じ1株が210万ドルになった」そうです。なんと、10万倍にもなった計算です。

こうした「コカ・コーラはもう成長できない」とする評価は、これまで何度もなされてきました。それにもかかわらず、コカ・コーラ社は現在の成長を続けており、バフェットの資産を潤わせ続けています。

さらに、彼はこう言います。

「ここでちょっとしたクイズです。みなさんは生涯を通してハンバーガーを食べたいと考えましたが、ご自身では家畜を育てていません。さてこの場合、牛肉の価格は上がってほしいと思いますか?(中略)

みなさんがこの先5年間にわたって蓄えを増やしていくとします。あなたはその間株式市場は値上がりしてほしいと思うでしょうか、それとも値下がりしてほしいと思うでしょうか? 多くの投資家がこの答えを間違います。今後長い間株式を買い越すにもかかわらず、株価が上がれば喜び、株価が下がれば悲しむのです。つまり、これから買うことになる『ハンバーガー』の価格が上がったといって有頂天になっているわけです。こうした態度はバカげています」

株式市場全体が高騰しているとき、人は今こそが絶好の投資の機会だと大喜びし、次々と株式を買い集めます。これが俗にいう“バブル”です。しかし、投資スタイルに関するバフェットの言葉を思い出してください。

投資を成功させるためには、良い企業の株を“その企業の価値より下回ったときに買う”こと。これが投資を成功させるコツでした。では、“バブル”にあるときはどうか? バフェットはこう続けます。

「株価が上がるのを見て喜ぶのは目先に株を売る人だけです。これから株を買おうとしている人は、株価が下がるほうがありがたいはずなのです」

つまり、バブルにあるときほど株の購入に慎重にならなければならないというのです。反対に、バブルが落ち着きをみせたり、市場が下落したときは、多くの“不当に安い値段がつけられた企業”を買うべきと言っています。たとえ市場がどんな状況にあろうとも、そこに取引がある限りは「すべての売り手には買い手がおり、一方が損失を被れば、もう一方には利益となる」ことを忘れてはならないのです。

■自分のよく知らない業界に投資するな

彼が投資の師であるベンジャミン・グレアムから学んだことに「ミスターマーケットの寓話」があります。このミスターマーケットは毎日市場に現れて値付けをします。あなたは彼の付けた価格で彼の株を買うか、自分の持ち株を売るか決めなければなりません。

しかし、ミスターマーケットは感情的な問題を抱えています。大した理由もないのに、やたら上機嫌になったり、反対に絶望的な気分になったりする人物です。株の値付けにもそれが反映され、気分によって非常に高い値段を付けたり、その逆もしてしまうのです。

「こうした状況では、彼が躁うつ病のような態度をみせればみせるほど、あなたにとっては好都合です。(中略)だが、もし彼の術中に落ちてしまえば、悲惨な目に遭うでしょう。ミスターマーケットよりはるかに企業の価値評価にたけているという自信があなたにないのなら、真の意味でゲームに参加しているとは言えないでしょう。『30分以上ゲームに参加して誰がカモか分からなければ、あなたがカモなのだ』とポーカーで言うように」

バフェットは株式市場の値付けを、この「ミスターマーケット」がしたものとして眺めています。株価が1日の間で激しく上下する、ちょうど今の日本経済のような状態は、慎重に立ち回れば、ミスターマーケットの裏をかくことができます。しかし一歩間違えれば……。

それを避けるために、バフェットは「自分のよく知らない業界には投資しない」というルールを課しています。ミスターマーケットの甘い囁きから身を守り、利益を上げるためには、自分がいろんな企業の動向やビジネスの内実についてイメージできる業界に絞って投資を検討すべきというのです。誰がカモなのか見極めることすらできないままゲームに参加することほど、危険なことはないからです。

いかがでしょうか? 私たちの想像を超える金額を日々動かしているバフェットですが、その投資スタイルの基本は複雑なものではなく、個人投資家にも応用できる、普遍的なものであることがわかるかと思います。

『バフェットからの手紙(第3版)』(パンローリング)

『バフェットからの手紙(第3版)』(パンローリング)

<クレジット> 文/小山田裕哉