ビジネスにおけるコミュニケーションの基本ツール「メール」。普段から友人同士などで使っている連絡手段ではありますが、新社会人の研修として、ビジネス向けメールの書き方を教えている企業は少ないのではないでしょうか。
そのため、多くの人が「書き方はこれでいいのかな?」と不安を抱きつつ、日々の業務に使っていることでしょう。
そこで今回は、ビジネスメールに関するセミナーやコンサルティングを行う、アイ・コミュニケーション代表の平野友朗さんに、「今さら聞けないビジネスメールの基本」について聞いてみました。
この春に社会人になった人だけでなく、「自分はビジネスメールを使いこなしている」と自負するビジネスパーソンも誤解しがちな点を解説します。
■1回見ただけで意味が伝わるように書く
「よくビジネスメールを“ビジネス文書”と同じように書いてしまう人がいますが、実は、このふたつの作法は大きく異なります」と平野さん。
例えば、丁寧に書くのが正しいと思って挨拶を長々と書いてしまったり、社会人の礼儀として漢字を多めに使ってしまったりするのは、ビジネスメールの書き方として“ズレている”というのです。
「メールの流通量が増えるに従って、ビジネスパーソンが1日で処理しなければならない量はものすごい負担になっています。そうすると、ほとんどのビジネスメールは“熟読”などされません。上から下まで1回読むだけで内容がしっかり伝わるものでないと、コミュニケーションに勘違いやすれ違いが生じたりするのです。
つまり、いくら丁寧な文章であっても、二度、三度と読まなければ意味が伝わらないようなメールは相手の負担を考慮していない、マナー違反な文章になってしまうというわけです」
とはいえ、誰もが文章の達人というわけではなく、言いたいことをうまく凝縮できないという人も少なくありません。そこで平野さんがおすすめするのが、次のようにメールの文章を“定型化”してしまうこと。
平野さんが推奨するビジネスメールの基本構造は、
「宛名(送り先の名前)」→「挨拶」→「名乗り(自分の所属・名前)」→「要件(なぜメールしたのか)」→「要件の詳細」→「簡単な挨拶(よろしくお願いします、など)」→「署名」
の順番となります。それに加え、
- 話題ごとに1ブロック5行以内でまとめ、1行空けてから次のブロックに
- 1文は短く!50文字以上書いてしまう人は、文章を分けて書くクセを
と意識すれば、メールはグンと読みやすくなります。
「特に注意してほしいのは、詳細や挨拶の前に『なぜメールしたか』を明らかにすることです。これがあることで『これから●●について話をします』という宣言になり、相手も聞く耳を持つ。対面の会話と同じですね」
また、良くないメールにありがちなこととして、相手からの返信で依頼の詳細を求められてしまうことがあります。これは「要件の詳細」が伝わっていないために起こることです。
「会合の依頼であれば、具体的な日程や場所の希望が書いていなかったりする。こうしたことが重なると、二度手間、三度手間となり業務に支障をきたします。だから、最初のメールをする時点で、『相手から聞かれそうなこと』を予想して、1通目にできるだけまとめて送っておきましょう」
■TOとCCとBCCの使い分けについて理解する
TO・CC・BCCの違いについて、ちゃんと答えられるビジネスパーソンはどれくらいいるでしょう? 平野さんのもとにも、この使い分けについて尋ねる人が後を絶たず、以下のように説明しているそうです。
- TO→あなたがこのメールの宛先ですよ、読んでください
- CC→これはあなたの仕事にも関係していますよ、目を通しておいてください
- BCC→念のためあなたにも送ります
「このCCとは、カーボンコピー(複写)の略称です。元々は、カーボン紙で複写された紙を渡すこと。だから、“目を通しておいてください”なのです。だからといって、何でもCCに入れてしまうのは避けたほうがいいでしょう。あくまでのメールの要件に関係した人に絞るべきなのです。
BCCはブラインドカーボンコピーの略称。ブラインド(目隠し)なので、コピーを渡したことは送った人と渡された人しか知りません。従って、BCCに返信してはいけません。TOで送った人と面識がない人にも送るときだけでなく、共有していることを知らせたくないときなどに使用するものだと覚えておいてください」
では、TOの宛先はたくさんあっていいの?
「TOは原則、ひとりに絞るべきです。そもそもメールは、これを読むことで作業をしてほしい人や返信してほしい人に送ると考えたほうがいい。TOが多くなってしまうと、誰が返信すべきか分からなくなってしまい、時間差で行き違いが発生しやすくなってしまいます」
文章術と同じように、送り方でもメールを読むことが“本来やるべき業務の負担”にならないように配慮してあげることが重要なのです。
■相手がメールを見て当然と思わない
LINEには「既読」機能がありますが、メールは開封されたどうかわからないもの。しかし特に若い人の間では、こうしたSNSの作法が身に付いてしまったせいか、コミュニケーションが「メールを送って終了」になっているケースが目立つようになってきたそうです。
「急ぎの用件をメールで送り、『読んだらすぐに返信してください』と書くのはNGです。メールはいつ読まれるかわからない性質上、緊急の連絡には向いていません。急ぎの連絡がある場合は、『詳細はメール』『確認のフォローは電話』と分けて考えましょう。この追いかけのコミュニケーションを面倒くさがると、いつ返信があるかわからないままです」
これは急ぎの件だけでなく、相手に読んでもらわないと困る重要な連絡すべてに共通します。「今、送ったメールですが……」と一声かけるだけで、印象は随分と違うものです。
また、冒頭に説明したようにメールは“熟読”されません。そのため、複雑な案件を説明する長文メールは誤解を生む原因になりがち。こういった場合も、電話でしっかりフォローするようにしたほうがトラブルを回避できるでしょう。
ここまで述べてきたのは、要するに「メールを送られた相手の立場になって考えよう」ということです。特別な文章術は必要ありません。こうした基本を守るだけで、業務の進行がスムーズになるはずです。
<プロフィール>
平野友朗(ひらの・ともあき)
株式会社アイ・コミュニケーション代表、一般社団法人日本ビジネスメール協会代表理事。日本初のビジネスメール教育事業を立ち上げ、ビジネスメールの研修プログラムの開発やツールの提供を行なう。著書に『カリスマ講師に学ぶ! 実践ビジネスメール教室』『ビジネスメールの常識・非常識』など多数
●アイ・コミュニケーション
●一般社団法人日本ビジネスメール協会
●ビジネスメールの教科書
<クレジット>
取材・文/小山田裕哉