出口:僕も強くそう思います。考えてみれば、20世紀の後半は冷戦があったのが非常に大きかったですね。世界で一番豊かなアメリカは、繊維や鉄鋼、自動車産業で日本がちょっとくらい脛をかじっても怒らなかった。冷戦という枠がある中で、日本のポジションがものすごく貴重だったからです。そして、日本はアメリカをモデルに豊かになろうという明確な目標があった。人口も増えていたので、自分で行動しなくても、皆と同じように働いていれば高度成長を実現できた。

IF戦後から90年のバブルまで、35年間、日本の経済は実質7%成長をしていました。10年で経済規模が倍ですよ。こんな幸せなことはない。でも、いまは人口も増えないし、高度成長もない。普通の国になった以上、皆と同じことをやっていてはゼロ成長です。でも逆に言えば、面白い時代でもあります。皆と同じことしなくていいわけですから。個人の考え方や行動次第で大きく変わるというのはいい時代ですよ。

澤上:まったくそう思いますね。企業に勤めて、人事評価でマイナス点を作らないようと、ひたすらに右肩上がり三角形に乗る時代ではない。もう乗るものが全部なくなっちゃった。日本はようやく世界の常識に近づいたんです。

■ダメ元で行動しよう

澤上:じゃあ、何すればいいのかといえば、一人一人が自分で考えて行動することです。ところが、ほとんどの人は動いていません。というのも、右肩上がり三角形にノスタルジーというか、まだ未練があるからなんですね。国が何とかしてくれるとか時間さえ経てばなんとかなると甘い期待をかけるだけで、何もしていない。

出口:戦後の日本が特殊だったというのは歴史が物語っていますね。中国は4000年の歴史の中で、「盛世」と呼ばれる経済成長が続いた平和な時代はわずか4回しかありません。しかも、それぞれがせいぜい20年ほどの期間です。日本の戦後は宝くじが連続5回ほど当たったような特殊な時代で、いまが普通と思った方が良い。

こういう時代には行動しなければ良くなりませんが、ダメ元でやった方がうまくいく。別に命を取られるわけではないくらいの気持ちで軽く行動した方が結果的にはいい。歴史上、面白いことをした人の伝記を見ると、ほとんどがそうですね。だから、もっと気楽に行動したらいいと思います。ちょっとまずいなと思えば、また元に戻ればいいだけですから。こんなことを言うと無責任かな。

澤上:いや、そんなことはないですよ。一念発起して動き出して、たいして収入はないけれど、生き生きとしているという人。これは、実はとんでもない収入です。他力本願で「つまらない」「つまらない」と言っている人よりもずっと楽しい。大事なのはやりたいことをやること、面白いことをやること。それで生きていけたらいい。食えたらいいんです。そのくらいの気持ちで動くとものすごく楽。どうせ死ぬまで生きるんだったら、思い切って好きなことをやる。それでいいんじゃないですか。

出口:でもですね、面白いことやっていると死なないんですよ(笑)。人間にとって何が大事かといえば、平均寿命ではなく、健康寿命。自分でご飯が食べられて、トイレに行けることが、人間にとっては一番幸せなことですが、そのためにはどうしたらいいかといえば、面白おかしく働いて過ごすのが一番良い。

澤上:そう。みなさんは今日この場に来ちゃったんだから、もう覚悟して、明日から、いえ今日の夜から行動してください。面白いと思うことをやりましょう。きっと、良かったと思いますよ(笑)。

<プロフィール>
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1947年愛知県名古屋市生まれ。さわかみ投信取締役会長。1969年に愛知県立大学卒業後、松下電器貿易(現松下電器産業)入社。1970年に退社して渡欧し、1973年にジュネーブ大学付属国際問題研究所修士課程修了。留学中からキャピタル・インターナショナル社のファンド運用担当者を務め、1974年に山一證券国際部嘱託でファンドアドバイザーに就任。1980年から1996年までスイスのピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を務める。1996年に日本初の独立系投資信託会社となるさわかみ投信を設立し、顧客数11万人、純資産総額3200億円のファンドに導く。

<クレジット>
文/三田村蕗子