ゲストを迎えて三重県知事が聞き手あるいは語り手となり、三重の“旬”な「ヒト」・「モノ」・「コト」を東京・日本橋の三重テラスから発信する「COOL MIEトークライブ」。ダイバーシティをテーマに、鈴木英敬三重県知事が三重県出身のライフネット生命会長兼CEOの出口治明に鋭く迫ります。

写真左:出口治明(ライフネット生命保険 会長兼CEO)、右:鈴木英敬氏(三重県知事)

写真左:出口治明(ライフネット生命保険 会長兼CEO)、右:鈴木英敬氏(三重県知事)

■歴史を学ぶ意味とはなにか。

鈴木:今回のテーマは「ダイバーシティ」なんですが、その前にまず出口会長にお尋ねしたいことがあります。出口会長は本を書きまくっているだけでなく、本を読みまくっておられますよね。出口会長にとっての「読書」の意味を教えてください。

出口:面白いから読んでいるだけです(笑)。趣味といえば食べること、寝ることを除いたら、本を読むことと旅をすることだけ。楽しいから読んでいます。

鈴木:なるほど。僕は大学受験のときに世界史が大好きになって、世界史をめちゃくちゃに勉強したんですが、出口会長も歴史好きでいらっしゃる。世界史への興味の原点はどこにあるのでしょう?

出口:世の中、この先何が起こるかわからないじゃないですか。でも悲しいことに人間には過去しか教材がない。これが歴史を学ぶ意味だと思っています。ヘロドトスも唐の太宗も同じことを言ってますね。教材は過去しかないから歴史を見るしかない。女性との初めてのデートが失敗に終わっても、回数を重ねるとなんとなくうまく回るようになる。これも歴史です。過去しか教訓がないのでね(笑)。

鈴木:おっしゃるとおりです。いまを、そして未来を生きていくためのシンプルな原則だと思います。

■異質な人材との交流は脳の刺激になる

鈴木:今回のテーマである「ダイバーシティ」について、出口会長はご著書の『任せ方の教科書』の中で、「多様な人材に任せることでしか会社は成長しない」「同質化している組織は成長しない」と語っておられます。こういった思いに至ったのには、何かご自身の経験が影響していますか?

出口:人間は自分が思っているほどたいした動物じゃないんですよ。部下が初めてつくと誰しもうれしいものですが、どんなに多く部下を抱えても10人が限界。10人を超えたらもう顔が見えなくなるから、任せるしかありません。人間の物理的限界です。同質化しているとダメだというのは非常に簡単なことで、自分と同じようなタイプだと考えることが一緒なので、面白いアイデアが出てくるはずがないんですよ。

カラオケでも、いつも同じ人と行くと、相手がいつ頃どんな歌を歌うのかがわかりますが、まったく知らない人と行くと新鮮ですよね。こいつ、なんでこんな歌を歌うんだろうという驚きがある。脳の刺激になるんです。

鈴木:大変わかりやすい例えです(笑)。任せることに関しては『任せ方の教科書』の中で「的確な指示とは双方向のコミュニケーションである」と書かれていて、このくだりも非常に印象的でした。指示というと一方的に出すもののように見えるけれど、そうではないと出口さんは指摘していらっしゃいます。

出口:例えば仕事で「世界銀行のホームページにこういう資料が出ているはずだからコピーして持ってきて」と部下に指示を出しますよね。で、探して該当するものがなかったら、「ありませんでした」という報告で終わってしまう。でも、もし部下と双方向のコミュニケーションを取っていれば、「探してみます。でも何にお使いですか?」と尋ねて、世界銀行のホームページになかったらOECDの方にないかなという発想が生まれるかもしれない。

時間がかかると思うかもしれませんが、人間は優秀な脳を持っています。「ゆっくり急げ」で、結果的にはその方が早いと僕は思いますよ。仕事の背景を説明したり、わからないことは何でも尋ねられるというコミュニケーションを重ねていくうちに、どういう仕事をすればいいのか、補正できるようになりますからね。

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