■人を育てるというのは我慢や忍耐の言い換えである

15041402_t鈴木:「60点で我慢する度量」というご指摘も心に残りました。部下の短所は放っておく、苦手は克服しなくていい。ただ、これはなかなか難しい(笑)。

出口:普通の会社で考えたら、上司に抜擢する人、される人は仕事ができるわけです。抜擢された人から見れば僕らはみんなアホです。自分より仕事ができない人を使うわけだから、100点のはずがない。だから60点で我慢しろと思います。それから、僕も昔よくしていましたが、仕事を頼んでいる最中にあれこれ口を出すのはよくない。右に行かなくてはいけないのに、一生懸命左に行こうとする人っていますよね。思わず「そこは右」と言いたくなりますが、最後まで見守ってから「あのとき、右に行かずに左に行った方が良かったね」と言ってあげた方が人は育つ気がするんです。

将棋の最中に、横からああだこうだ言われたらいやじゃないですか。あれと同じ。人に任せるとか人を育てるというのは我慢や忍耐の言い換えです。じっと我慢して使い続けるのが人を使うコツ。短所についても簡単には治りません。得意なところをもっと伸ばして、足らない部分はチームで補うのが良いような気がします。

鈴木:『任せ方の教科書』の中で山本五十六の言葉が紹介されていました。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」。ここまでは知っている人が多いと思いますが、大事なのはその先。「話し合い、耳を傾け承認し、任せてやらねば、人は育たず」「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」。「褒めてやらねば〜」よりも、むしろ後段二つのパラグラフの方が重要なんですね。

出口:そう思います。みなに助けてもらって初めて仕事ができる。そう考えたら、知事がおっしゃったように「やってくれてありがとう」ですよ。

■統率力のコアはコミュニケーションにある

鈴木:『任せ方の教科書』の中盤には、リーダーの条件として3つが挙げられています。ひとつは強い思い、2つ目は共感力。3つ目が統率力。この統率力について出口会長は「丁寧なコミュニケーション能力とイコール」と書いておられますね、なぜそうなのか、最後にもう少し詳しく聞かせていただいてよろしいですか?

出口:サル山のボスには「これがしたいんや」という思いがなかったらダメですよね。でも思いがあっても、部下が共感しないとチームで仕事はできない。世の中には、土砂降りの日にはもうすぐに帰りたいという僕みたいな人間がいますから、そういう部下には「大丈夫やで。気象庁に電話したらあと5分で止むって言ってるで」のようなコミュニケーションを取らないと部下はついていきません。昔の人は「俺の背中をみたらわかる」などと言うことが多いんですが、そんなの背中を見ても何も書いてない。統率力のコアはコミュニケーションじゃないのかな。

鈴木:なるほど。

出口:最後に付け加えると、元気で声が大きいのは大将の大事な要素です。リーダーはいざというときにちゃんと大きい声で指示ができないといけない。その意味で、三重県知事が若くて元気で声が大きいのは三重県人として非常にうれしいことですよ。

鈴木:エールを送っていただいて非常に恐縮です。ありがとうございました。

<プロフィール>
鈴木英敬(すずき・えいけい)
1974年生まれ。本籍地は三重郡菰野町千草。灘中、灘高を経て、東京大学経済学部卒業。
1998年に通商産業省(現:経済産業省)に入省。中小企業支援、特区や農商工連携といった地域活性化などを担当。2006年には内閣官房参事官補佐として第1次安倍政権時の官邸スタッフとして、教育再生や地球環境問題に取り組む。09年衆院選に三重2区から出馬、落選。11年4月に三重県知事就任。

<クレジット>
文/三田村蕗子