■すべての社会問題は「会計のデメリットによるもの」

岩瀬:会計学から経済学が生まれたという山田さんにとって、お金はどんな存在として見えていますか?

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山田:「だいたいのものは買えるもの」ですね。曖昧な定義かもしれませんが、お金ってそもそもフワッとしたものなので、無理に当てはめる必要もないのかな、と。貨幣というものは、簿記が発明されたためにその存在が膨らんでいったわけで、もともと誰かが定義づけて作ったものではないんです。ルネサンス期まで遡ってこの500年か600年の間は、「だいたいのものは買える」のがお金だったのだと思います。

岩瀬:つまり会計は、そのフワッとしたお金を管理する技術ということですね。

山田:管理する技術でもあるし、社会をそのまま映し出す鏡だと思います。環境とか安全とか、21世紀になって言われるようになりましたよね。なぜそれまではあまり言われなかったのか。それは環境や安全が簿記に載っていなかったからです。人間は会計にないものを軽視します。会計にあるからお金を大事にする、土地を大事にする、資本を大事にする。環境が軽視されるのはGDPに換算されないからです。

岩瀬:排出権取引なんかはまさにその一歩手前のものですね。会計に入ってくれば真剣にならざるを得ない。

山田:数値化されないと人間は動きませんから。今の社会問題って、会計のデメリットがそのまま表れたものがほとんどだと思います。

岩瀬:会計原理主義者みたいですね(笑)。

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山田:そうですよ(笑)。でも実際、原発問題も結局は会計の問題だと思っています。安全性や保障のことが会計に入っていなかったので、今あれだけの問題になっている。1970年代にフォード社が安全装置をつけるコストと、つけずに補償金を払うコストのどっちが安いかを計算したことがありました。結局補償金を支払うほうが安いということになり、安全装置をつけなかったんです。それがまかり通ったのは補償金でしか人の命を貨幣換算できなかったからです。本来、人の命は補償金だけの価値ではないはずです。原発もこれと同じで、人の補償金だけをコスト扱いにしてしまった。今後、人類が何千年先まで続くことを考えてコスト換算できれば、原発の問題は解決できると思っています。会計原理主義者としては。

岩瀬:なるほど。会計の欠陥がいろんな問題に波及するとなると、やはり誰もが最低限の会計知識を身につけておく必要がありそうですね。

山田:複式簿記3級程度の知識を持っておくだけでも、世の中のニュースがだいぶわかりやすくなります。世の中で話題になるのは、だいたい資産の話か負債の話か資本の話ですから、どんなに複雑な問題も会計というフィルターを通すことでだいぶ整理できてしまうのです。会社や家庭でも同じことが言えます。どんな仕事をしている人でも会計知識はきっと役に立つと思いますよ。

<プロフィール>
山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士・税理士・一般財団法人 芸能文化会計財団理事長。 1976年神戸市生まれ、大阪大学文学部卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人/プライスウォーターハウス・クーパースを経て、独立。2011年より現職。 小説『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)はシリーズ100万部、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)は160万部を突破するベストセラーとなる。最新刊は『結婚指輪は経費ですか? 東京芸能会計事務所』(角川文庫)。大企業から中小企業まで数多くの企業の会計監査や最高財務責任者、税務顧問、社外取締役として務めた経験から、現在も約40社の顧問として社長の参謀役になっている。
●芸能文化会計財団

<クレジット>
取材・文/香川誠
撮影/村上悦子