文章を書くのが苦手だ……。書店に行けば、そんな大人のために「文章力の鍛え方」を指南する本がずらっと並んでいます。

思い出すのは夏休みの「読書感想文」。
自分の感想を好きなように書きなさいと言われたけれど何を書けばいいのか分からず。
結局あらすじを要約して、最後にひと言「面白かった」と添えて提出し、その場をしのぐ……。
しかし苦手意識は大人になっても残っており、文章を書くこと自体、ちょっとした「苦行」。
そんな方は少なくないのかもしれません。

できれば、子どもの頃から作文への苦手意識を取り除いてあげたい──。そう考えたのが、経済ジャーナリストの木暮太一さんです。

木暮さんは、経済に関連した著作だけでなく、『伝え方の教科書』(WAVE出版)などで「わかりやすい文章のノウハウ」を説いています。さらに、小学生の子どもを持つ親、子どもを指導する立場の大人を対象とした「キッズ作文トレーナー養成講座」を開催しています。

講座のホームページ

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そこで指導されている方法は、子どもにはもちろん、作文の苦手な大人にとっても参考になるものでした。文章力を劇的に向上させる秘訣は、いったいどこにあるのか。木暮さんに聞きました。

子どもの文章力向上のために知りたいこと

  • その1 「人に教えたいことは何?」と問いかけよう
  • その2 感想に「楽しかったです」しか書かけない原因
  • その3 「正解はない」ことを伝えると子どもは自分の意見が言える

■その1 「人に教えたいことは何?」と問いかけよう

「もともと、僕自身が作文の苦手な子どもだったんですよ。今でこそ文章を書くことを仕事にしていますが、当時は読書感想文なんて拷問でしかありませんでした。しかし、子どもの頃の僕が文章を書けなかったのは、『正しい書き方』を知らなかったからだと気がついたんです」

木暮太一さん

木暮太一さん

その「正しい書き方」とは、文法や全体の構成といった細かい点を見直すことだけではありません。文章を書くうえで何より大切なのは、「この文章で、誰に何を教えたいのか」をしっかり意識すること。“教えたいこと”を書く、というのが大きなポイントです。

「例えば読書感想文であれば、多くの子どもたちがあらすじを要約して終わっています。本当は『自分が本を読んで、誰かに教えたくなるほど心が動いたこと』を書くものなんです」

しかし、それならば「本を読んでどう思ったか」を素直に書けば良いのでは?

「実は、それが大人にとっても苦手な点なんです。『この本を読んで、どう思った?』と聞かれたら、大人でもうまく答えられないでしょう。しかし、読書感想文が書けないと悩んでいる子どもに、大人は『どう思った?』と聞いてしまう。それでは『面白かった』『難しかった』といった程度の感想しか引き出せない。

子どもには意見がないわけではありません。大人と同じように、自分なりの感想を抱いています。ただ、どこを切り取って、どう表現していいかわからないだけなのです。文章力を向上させるためには、まずその前提となる“自分の意見を表現するやり方”を教えてあげることが必要です」

■その2 感想に「楽しかったです」しか書かけない原因

子どもの文章力を伸ばすために、木暮さんは次のことをNGとしています。それは、「5W1H」と「起承転結」のふたつ。いずれも、作文の基本とされている書き方です。しかし……。

「5W1Hでまとめさせると、子どもは意見を言えなくなります。それは文章の基本とされている5W1Hは、『いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように』と事実だけを時系列で列挙するやり方だからです。これでは、自分の意見や感想が入りません。あらすじをまとめた読書感想文と同じで、最後に『楽しかったです』と添えるだけになります」

(次ページ)「正解はない」ことを伝えると子どもは自分の意見が言える