■実は内向的な人のほうがモテる?

そのための方法として堀田さんがおすすめするのが、合いの手の「さしすせそ」。

「これはもともとコラムニストの五百田達成さんから教えていただいたのですが、

・すが!
・らなかった!
・ごい!
・っかくだから、教えて!
・うなんだ!

の『さしすせそ』です。これだけ用意しておくだけでも、随分と会話が円滑になります」

しかも、このフレーズは話したがりな相手の承認欲求をくすぐる効果があります。コミュニケーションの基本は“褒める”ことなのです。

「これは『好意の返報性』というのですが、人は自分に好意を持ってくれている相手に好意を持つ傾向があります。好きだと言われたら、今まで気になっていなかったのに途端に好きになってしまうようなことですね(笑)。

実際、巷のモテる男性ランキングを見てみると、『話を聞いてくれる人』が必ず上位に入ってきます。これは愛情を持って話を聞いてくれる人に、女性が承認欲求をくすぐられることを表しています。ビジネスの会話術も、モテるための会話術も、実はその本質は『いかに面白い話をし続けるか』ではなく、『相手の話をよく聞き、引き出す能力』にあるのです」

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しかもこの関係は、部下と上司においても適応できるそうです。

「僕は教師でもありますが、ダメな子ほどちゃんと見てあげて、積極的に褒めてあげたほうがいいと考えています。落ちこぼれの子どもに関して研究していくと、彼らの行動のベースには、自分に注目してもらいたいという自己承認欲求があるとわかります。自分は疎外されているという意識が強いから、人の興味を引こうとするのですね。

教育の観点からいえば、他人に評価されてこなかった人ほど、その承認欲求を満たしてあげるべきです。部下と上司も基本的にはこれと同じで、何らかの成果が出たときにちゃんと褒めてあげると『この人は自分をしっかり見てくれている!』という信頼関係につながります。

物事を深く考える内向的な人は、こうした役割に向いていると思います。他人をよく観察する視点を持っているため、ほかの人がなかなか気付かない、その人の良いところを発見できるからです」

内向的な人が強みを生かせば、マネジメントにいても意外な力を発揮するのです。そのときもポイントは、他人への「愛情」です。

■内向的な人も飲み会に行ったほうがいい理由

堀田さんは言います。「もしあなたが相手の話をつまらない、だから積極的に話す必要がない、と感じるのなら、それは結局、あなたの心が冷めているために、それが相手に伝わって、良いコミュニケーションになっていなからだ」と。

これまで見てきたように、内向的な性格には良い面がたくさんあります。しかし、もし間違った方向にこじらせてしまうと、自分を守ろうとして、どんどん心が冷めた人になってしまいます。これでは良い聞き役になることもできず、ますます会話が苦手になり、自分が傷つかないように自己防衛的な傾向が強まり……と悪循環に陥るのです。

それを変えるきっかけになるのが、たとえ会話が苦手でも、自分がよく知らない人ともコミュニケーションをとろうとすること。つまり、「飲み会を嫌がらないこと」です。

「人間というのは、他人と接することで性格が形成されていきます。だから内向的な人も、相手によってはウソのように喋れたりすることがある。そういう経験があれば、少しずつ苦手意識がなくなっていくのです。飲み会はその経験を積む格好の場です」

しかし、そもそもお酒が苦手な人は?

「僕もお酒は飲めないんですよ(笑)。でも必ず行くようにしています。飲めるか飲めないかは重要じゃなくて、いろんな人と交流してみることが大切なんです。しかも、飲んだらなぜか人は腹を割って話し始めます。そういうときに予想外の化学反応が起こったりする。職場と関係のない場所で出会った人が、後々すごく重要な取引相手になったとか、ビジネスの世界にはそういう話がたくさんあるわけです。ご縁を見つける場所ですね」

それでもあえて食い下がると、そんなにすごい人脈に出会える飲み会なら喜んで行きたいです。しかし、大抵は社内の会合ばかりで、行っても上司のグチを聞かされるだけ。給料が出るわけじゃないし、時間のムダとしか思えないことが多々あるのですが……。

「でも、そういう飲み会も『楽しもう』とすればいいんです。良い聞き役になるためには愛情が必要だと言いましたが、愛情の基本は何事にも興味を持ち、楽しむことです。孔子も『あることが好きな人も、それを楽しんでいる人には敵わない』と言っています。

上司の話がつまらなければ、『なんでこの人はこんなにつまらないんだろう』と考えてみてもいいでしょう。内向的な人はそういう観察眼を磨き、聞き役としての能力を磨く場所にもなりますしね(笑)。

ただ、確実に言えることは、どんな経験もムダなことなんてないんです。『あれはムダ、これはムダ』と仕分けしていたら、どんどん心が冷めた人になっていく。それに一般論としても、数をこなしていかないと、良い飲み会に出会うこともない。もちろんハズレもありますよ。でも、クジを引かなければ、いつまで当たりを引くこともないんです」

内向性の強みを自信に結びつけるためのトレーニング場――飲み会はそんな風にもとらえることができます。会話が苦手でも無理に話そうとする必要はありません。モテる男性の条件にあったように、良い聞き役になれば、ずっと話し続ける人よりも、しっかりとした存在感を印象づけることだってできるのですから。

(後編はこちら)

『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)

『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)

<プロフィール>
堀田秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授。法言語学者。シカゴ大学言語学部博士課程修了。学内では研究者らしからぬ熱血指導が支持され、「明治一受けたい授業」に選出されるなど、学生からの信頼も厚い。言語学、法学、社会心理学などの様々な学問分野を融合した研究法に定評があり、コミュニケーション心理の研究を行う。著書に『飲みの席には這ってでも行け!』『なぜか好かれる人がやっている絶妙な存在感の出し方』『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(共著)などがある

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ