■大企業が世の中の変化に追いつけない理由

ライフネット生命保険 開業7周年記念感謝イベント 「経営陣×佐々木紀彦氏(ニューズピックス編集長) 新しい時代の働き方とは?~リスクとチャンスを考える~」会場の様子

ライフネット生命保険 開業7周年記念感謝イベント 「経営陣×佐々木紀彦氏(ニューズピックス編集長) 新しい時代の働き方とは?~リスクとチャンスを考える~」会場の様子

佐々木:最近はベンチャー企業を中心に、これまでの常識にとらわれない新しい働き方が広まっていると感じます。しかし、どうしても大企業はまだ変化していない、変化に対応しきれないように見えるのですが、その点はいかがでしょう?

出口:まさに僕は大手の生命保険会社出身ですが、まだやっぱり、変化がゆっくりという気がします。歴史を見れば、社会の中枢を担っている組織ほど変化しにくいんですね。それも当然で、中央にいるということは、それだけ大きな柱を担っているということですから、存在する意義も大きいんです。

やはり変化は、常に辺境から訪れると思いますね。それが少しずつ、中枢にまで広がっていくと。

佐々木:働き方が変わるためにはロールモデルが必要だと思います。そういう意味では、ライフネット生命のようなベンチャーが辺境として新しい働き方の仕組みを作って、ロールモデルになることが大切ですよね。

中田:私は大企業で働いたことはないんですが、バブル時代に大学生だったので、同期の女性のほとんどが大企業に就職したんですよ。でも、残念ながら現在、まったく会社に残っていない。それはやっぱりロールモデルがいなかったからで、目指すべきものがはっきりしていけば、そこに追従していく人も増えると思います。

■ライフネットは新しい働き方のロールモデルになれるか

佐々木:例えば育児と仕事の両立に関して、ライフネット生命ではどんな取り組みをされていますか?

岩瀬:それについてすごく思うのは、制度よりも運用が重要なんですよね。うちは男性社員が「子どもが熱を出して」とか「子どもが運動会で」と言って帰ったり休んだりするんですよ。一度、「奥さんは?」と聞いてみたこともあるんですが、「妻の会社は帰りづらいので、僕が帰ります」。僕はこれをとても良いことだと思っているんです。

ほかの会社で働いている人に聞いてみると、「制度はあっても帰りづらい」という話がほとんどです。でもライフネット生命では、「あとはやっておくから、早く帰りな」と言うのが普通になっています。上司にあたる人も子育てをしているので、気持ちがわかるんです。

そう考えると、育児休暇の制度があるかどうかよりも、会社の風土や制度の運用のほうが、子育てフレンドリーな会社には大切じゃないかなと感じています。年に一度、ファミリーDAYというイベントを設けていますね。家族を連れて半日会社で過ごすのですが、そんな風に家族ぐるみでサポートしてもらえるような仕組みを作ることが、これからの企業には欠かせないのではないでしょうか。

佐々木:大企業も育児休暇などの制度はありますけど、ほとんどの場合は制度倒れになっているのが実情ですね。

出口:制度よりも意識を変えるのが難しいんですよ。士業ってありますよね。弁護士とか税理士といった職業です。若い世代の士業の方々の勉強会があって、勉強会の主催者から「この人は一児のお母さんで、育児も仕事も頑張っているんですよ」と、すごく元気な女性の方を紹介されたんです。

それで話していたら、彼女が「女性ばかりが『一児の母』と呼ばれるのはおかしい。男性の方も『一児の父』と紹介されるようにならないとダメですよね」と言ったんです。僕はそれを聞いて、ああ、その通りだなと。そんなことにも気がつかないくらい、意識はなかなか変わっていかない。

佐々木:なかなか変われない組織を変えていくためには、何が必要でしょうか。

出口:ある県庁で知事が育児休暇をとったんです。そうしたら、職員が「あ、本当にとっていいんだ」と一斉にとり始めたなんて話もあります。制度倒れにしないためには、リーダーが自らロールモデルになることは大切ですよね。

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佐々木:中田さんから見て、ロールモデルとしての出口さん、岩瀬さんはいかがですか?

中田:ふたりは見てのとおり自然体なので(笑)、こうあるべきというのはあまり聞いたことはないですね。でも、社内では女性社員も育休をとって、出産後に戻ってくるケースがすごく多いんです。

しかも、彼女たちは17時、18時には子どもを保育園や学校に迎えに行かないといけないから、ものすごく効率良く業務をこなします。私も舌を巻くことが多くて、子どもがいない社員も、そこから学ぶべきことはあるし、彼女たちがいることで、社内に良い影響が出ていると思いますね。

<プロフィール>
佐々木紀彦(ささき・のりひこ)
ニューズピックス取締役・編集長。1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月でビジネス誌系サイトNo.1に導く。2014年7月より現職。NewsPicks編集長業務と合わせて、ビジネスモデルの開発などに取り組む。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』がある

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
写真/ライフネットジャーナル オンライン編集部