■若いときの失敗のデメリットは「カッコ悪い」だけ

左から中田華寿子、佐々木紀彦氏(ニューズピックス編集長)

左から中田華寿子、佐々木紀彦氏(ニューズピックス編集長)

佐々木:そんな50代になるために「勉強」が必要なんですね。リスクが計算でき、恐れないようになるためには、常に新しいことを学び続ける必要があると。岩瀬さんはいかがですか?

岩瀬:若い人とベテランの人で違うかもしれませんが、「先がわからない」ってことが武器になることもあると思うんです。ライフネット生命は出口と私のふたりで始めたんですが、僕は生命保険会社を作ることがどれだけ大変かわかっていなかった。でも、「できるはずだ」と信じていたんです。

たとえば保険業法には「最低資本金は10億円とする」と書いてあるんですよ。それならなんとか調達できるかなと思っていたんですが、立ち上げにあたって実際にいろいろ調べてみると、「10億円って書いてあるけど、本当は100億円くらい必要だ」とわかったりするんです。出口はそのことを最初に教えてくれなかったんですよ。

あとは「設立には内閣総理大臣の認可が必要だ」と書いてある。でも、それも調べたら、「最後に国内の生命保険会社に認可が下りたのは1934年の日本団体生命保険」と判明したんです。僕、これも最初に知ってたらちょっと考え直していたかもしれない(笑)。

でも知らなかったからこうしてチャレンジできたので、若い頃にはリスクを測れないことの利点もあると思います。

出口:誤解がないように言っておくと、僕は横着だから忘れていただけであって、意識してアドバイスしなかったわけではないですよ(笑)。

佐々木:なるほど(笑)。岩瀬さんは「失敗したら……」とは考えなかった?

岩瀬:よく同じ質問を大学生とかにも聞かれるんですけど、僕はこう思ったんです。

3、4年で事業がうまくいかなかったとする。まあ、お給料はかなり減るかもしれないけど、再就職はできるだろうと。だから生活の不安はそれほどない。ただ、同期にはかなり遅れて、相当にカッコ悪いと。これが僕にとっていちばん大きいデメリットだったんです。

そこで気が付いたんですよ。僕が失敗していちばん嫌なのは「カッコ悪い」ってことなんだなって。「なんだ、デメリットはそれだけじゃん」と思いました。問題になるのは自分のメンツだけなんですよね。

反対に上手くいけば、無限に可能性が広がる。若いうちは犠牲にするものは自分だけなんだから、挑戦したほうが絶対に良いと思いますね。

■ニューズピックスへの移籍も「リスクだと思わなかった」

佐々木:中田さんはリスクとの向き合い方について、どう考えていますか?

中田:私は企業の広報業務をずっとやってきたんですが、広報はリスクと直面しなきゃいけないときが時々あるんですね(笑)。

本当にいろんなリスクがあるんですけど、若い頃は何かが起こるたびに「取り返しがつかない!」ってパニックになってしまう。でも、あとから中長期的な視点で振り返ってみると、起こったハプニングにも意味があったんだとわかるんです。そういう意味では、年齢を重ねることで、リスクに堂々と対峙できるような体力と気持ちが自然とそなわってくるのではと思います。

あとは、出口の言う「勉強」じゃないですけど、本を読んだり、実際にいろんなリスクを背負ってきた方のお話を聞いたりすることで、必要以上に恐れず、リスクと向き合うことができるんじゃないかなと。

岩瀬:佐々木さんも、リスクをとったキャリアですよね。あんなに前職が絶好調だったのにニューズピックスへ移籍したと聞いて、びっくりしたんですよ。

佐々木:いや、でも僕も岩瀬さんと同じで、リスクだと思ってなかったんですよ。デジタルはこれから絶対に伸びていく業界じゃないですか。出口さんが指摘されたように、「どうなるかわからない」という不安がなかったので、まったくリスクは感じなかったですね。

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編集後記

以前、ニューズピックスへの移籍直後に佐々木さんをインタビューした際、「不安はまったくなかったですね。そもそも、私は決断するときにあんまり頭で考えるタイプじゃないんですよ。勘が先で理由は後付ですが、案外とこれだと思ったものは外したことがないですね」と語っていたことが思い出されます。

【インタビュー】会社を超えて活躍したければ「不人気部署」へ行け

新しいことへの挑戦に不安を覚える人は多いかもしれませんが、少なくとも実際にチャレンジしている人たちにとって、「リスクがあるから挑戦しない」という選択肢はないようです。

<プロフィール>
佐々木紀彦(ささき・のりひこ)
ニューズピックス取締役・編集長。1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月でビジネス誌系サイトNo.1に導く。2014年7月より現職。NewsPicks編集長業務と合わせて、ビジネスモデルの開発などに取り組む。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』がある

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
写真/ライフネットジャーナル オンライン編集部